まるで生きているよう。100年ぶりに蘇った「ある女性たち」を訪ねて、秋の京都へ

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真如寺

秋の京都。

寺社へのお参りと紅葉を一緒に楽しむ人も多いかもしれません。

その日伺ったのは書院から眺める紅葉が美しいと評判の眞如寺 (しんにょじ) 。

金閣寺、銀閣寺とともに臨済宗大本山相国寺の山外塔頭 (さんがいたっちゅう。本山の敷地外にある子院) を成す眞如寺 (しんにょじ) 。京都市にあり、五山十刹のうち十刹のひとつに数えられた古刹です
金閣寺、銀閣寺とともに臨済宗大本山相国寺の山外塔頭 (さんがいたっちゅう。本山の敷地外にある子院) を成す眞如寺 (しんにょじ) 。京都市にあり、五山十刹のうち十刹のひとつに数えられた古刹です

実は紅葉ではなく、取材で知った「ある女性」をどうしても拝見したくて、お寺にお邪魔していました。

ある女性たちを追って、京都・眞如寺へ

私が知っていた「ある女性」の、元の姿がこちら。

真如寺

眞如寺が所蔵しているお像で、お寺にゆかりのある尼僧さんの生前の姿を表したものとのこと。17世紀に作られたと考えられています。

しかしほんの数年前までは、写真のように表面が剥離し、女性か男性かも判別がしづらくなっていました。

そしてその日、お寺で再会した姿がこちら。

眞如寺

お顔はやわらかな肌色に、女性らしいふっくらとした表情。見違えるように生まれ変わっています。

今にもなにか声をかけられそうな雰囲気です。

眞如寺

100年ぶりの再会

実はこちらのお像、およそ100年ぶりの大修理を終えたばかり。作られた当初に近い姿に蘇りました。

手がけたのは京都にある「公益財団法人 美術院」。日本で唯一国宝の仏像修理も許されている、文化財修理のプロ集団です。

美術院

実は眞如寺には尼僧像が合計4体あり、今お寺にある3体の修繕を終えて最後の1体に取り掛かっている現場に、先日取材していた美術院で出会ったのでした。

修理を終えた別のお像
修理を終えた別のお像
お一人ずつ、人柄まで感じとられるような違った雰囲気です
お一人ずつ、人柄まで感じとられるような違った雰囲気です

美術院での取材記事はこちら:「数百年前の仏像を目にできるのは、このプロ集団のおかげです」

「修理は、ここではなくお寺に戻られたときがやっと完成ですね。

あるべき場所に、あるべき姿でお戻しできると、お像がどこかホッとされたようなお顔に見えるんです。その瞬間が一番安心しますね」

こちらが現在修理中の最後の1体
こちらが現在修理中の最後の1体

4体の修理を任されてきた技師の高田さんの言葉を聞いて、ぜひ修理を終えたお像も拝見したい!と訪れた眞如寺。

尼僧像が安置されている仏殿。通常中には入れず、外から拝観します
尼僧像が安置されているのは御本尊と同じ仏殿の中。通常中には入れず外から拝観しますが、今回は特別に、間近で見せていただけることに

修理前の姿を写真で拝見した分、一層目の前の姿が生き生きと映ります。

美術院で見せていただいた、修理前の様子
美術院で見せていただいた、修理前の様子

修理までの道のり

こうした修理にはもちろん、費用も時間もかかります。

眞如寺の修理プロジェクトも、2014年に始まってから1年に1体ずつのペースで修復が行われて来ました。

お像の数が多ければなおさら、気軽に頼めるものでもありません。4体連続して大々的な修理に出すことができたのは「色々なご縁が重なったおかげ」だと、ご住職の江上さんは語ります。

ご住職の江上正道さん
ご住職の江上正道さん

「この修理は、全国的な尼門跡寺院の文化財修復プロジェクトの一環で行われています。

皇室の皇女さまや公家の女性が出家されたお寺を尼門跡寺院と呼ぶのですが、そういったお寺の文化財を修復して残していこうという取り組みです」

主体となっているのは東京上野にある「公益財団法人 文化財保護・芸術研究助成財団」
プロジェクトは東京上野にある「公益財団法人 文化財保護・芸術研究助成財団」が運営

眞如寺は尼門跡寺院ではありませんが、縁あって宝鏡寺というお寺で出家された歴代門跡の菩提所となっています。

所蔵する像はいずれもその方々が亡くなった後に生前を偲んで彫られたもの。尼僧像ばかり4体も一つのお寺にあるということは、全国的にも珍しいそうです。

仏殿の右側に、尼僧像が4体並んでいます
仏殿の右側に、尼僧像が4体並びます

以前からお寺とお付き合いのあった研究機関のすすめで申請したところ、お像の希少性が認められ、特例的に修理が認められることに。

さらに、費用面は主旨に賛同した民間企業がバックアップ。

こうして、晴れて美術院に修理依頼が届けられ、4年間をかけた修理プロジェクトが始まりました。

作られた当初の姿を目指して

「修理をお願いしてわかったことですが、前回の明治期の修理があまりよくなかったようで、修理せずに良い状態が保てる期間を過ぎてしまっていたようなんですね」

これを美術院では、わずかに残されていた当初の彩色層を元に、作られた当時の色彩に復元。一部欠損していた袈裟の模様なども、肖像画を参考にしながら再現していきました。

えりあわせの部分に、元々の色彩が残されていました。ここに近づけるため、白い板の上で色を試作していきます
えりあわせの部分に、元々の色彩が残されていました。ここに近づけるため、白い板の上で色を試作していきます
こうした肖像画も復元の貴重な手がかりです
こうした肖像画も復元の貴重な手がかりです

「1体ずつ戻って来られたときには、元々はこんなお姿だったのかと、感動いたしました。

お顔の仕上げはお化粧のようなものですから、女性の技師さんに4体ともやっていただけて、本当にありがたいことと感じています」

「今」を生きる文化財

最後の1体は仙寿院宮 (せんじゅいんのみや) さまという、江戸時代の尼僧の方の坐像。来年3月の完成を控えます。

「仙寿院宮さまは、若くして亡くなられた皇女さまです。

その菩提を厚く弔うようにと父である後水尾 (ごみずのお) 天皇が望まれたことが、江戸初期の眞如寺復興の礎にもなっています。私どもにとって、とても大切なお方です。

実は、仙寿院宮さまとお隣に並ぶ尼僧さんとは姉妹関係にあって、袈裟の模様がお揃いなんです。無事4体揃われる日が今から楽しみです」

修復中の袈裟部分
修復中の袈裟部分
眞如寺
こちらがお隣の尼僧像

紅葉シーズンを迎え、眞如寺では今年から秋の特別拝観を始めるそうです。

仏殿の中は立ち入れませんが、外から少し、尼僧像の姿も見ることができます。また期間中は生前、尼僧さんたちの目を楽しませるために描かれたと考えられている、美しい花鳥の屏風絵が公開されます。

客殿にある、江戸時代後期に活躍した画家、原 在中(はら ざいちゅう)による襖絵
客殿にある、江戸時代後期に活躍した画家、原 在中 (はら・ざいちゅう) による襖絵

お寺というと御釈迦様などいわゆる「仏像」を拝してお参りする、というイメージですが、ともに並ぶ小さなお像やしつらえにも物語がさまざま。

文化財は「過去に作られたもの」ではなく、それを絶やさぬよう誰かの手によって守り継がれている「今」のものなのだと思わせてくれる出会いでした。

紅葉を愛でにお参りに行く機会があったら、周りのものにも目を向けてみると、面白い物語に出会えるかもしれません。

<取材協力>*掲載順
眞如寺
京都市北区等持院北町61
https://shinnyo-ji.com
*秋の特別拝観は11月10日〜12月9日まで。

公益財団法人 美術院
http://www.bijyutsuin.or.jp/

文:尾島可奈子
写真:木村正史

住所
京都市北区等持院北町61
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