【職人さんに聞きました】一生ものの「竹の収納籠」ができるまで

なるべく天然素材に囲まれて暮らしたい。
少しずつ、家具や暮らしの道具を買いそろえて、自分の好きな素材を身の回りに置けるようになってきました。
何を取り入れると心地好いかはそれぞれですが、天然素材好きならついつい集めてしまうのが、籠ではないでしょうか。

あらゆる物を受け止め、程よく目隠ししてくれる大らかさが頼もしくて、気が付けばふたつ、みっつと増えています。

籠と言っても、色々ありますよね。
竹、あけび、籐、い草、やまぶどう...どんな素材にもそれぞれの魅力がありますが、今日はその中のひとつ、中川政七商店からこの春発売となる、竹籠についてお話していきます。

初めて見た時、その美しさにほれぼれしてしまった編み目の精緻さ。
産地を訪ねてみれば、作りがいいものとはこのこと、と納得のものづくりを見せていただきました。

竹籠が作られる場所を訪ねて大分県の山里へ

竹と言えば、大分県別府市。
作り手である竹工房オンセの高江雅人さんの工房は、別府から山に車を走らせ、30分ほどの山里に位置します。

「若い頃から、自然の中で、なるべく自給自足で暮らしていきたいというのが夢でした。土に近い暮らしをしたかったんです。
それに沿う形で土地を買って、まずは家を自分の手で作るところから始めました。
竹職人になったのはその後ですが、幸い職業も自然の物を扱えているからか、楽しくやれています」

そう話すのは、竹工房オンセの代表、伝統工芸士の高江雅人さん。

高江雅人さん。背景に写る家は、丸太を購入して少しずつ自分で建てていったそう

竹籠と言えば、人が手で編んでいるのだろうという想像はつきますが、意外と編む以外の工程は知られていないものです。

現場を見せていただくと、1から10まで自然と向き合う、本当に手間ひまのかかるお仕事。じつは、編むまでの素材の準備だけで工程の半分ほどを費やすと言います。

竹を割って、、、

剥いで、、、

薄くして、、、
この間にも、選別したり面取りしたりと細やかな作業が沢山あります。

「竹はものすごく弾力があって、人と一緒で1本1本性質もちがう。全然思うようにならないんですよ。
だからこそ面白くもあって、飽きずに40年近く続けてこられたのかもしれません」

ままならなさが面白いのだと、あるがままの自然に向き合い、カラッと笑う姿が素敵ですが、完成した収納籠は“美しい”の一言に尽きます。
ものづくりにどんなこだわりがあるのか聞いてみました。

こだわりは、美しさと耐久性の両立

「こだわったのは、まず見た目の美しさ。そして、数十年と使っていただけるような耐久性です。
もともと自分の仕事として籠バッグを作ることが多いので、普段から大切にしている点でもあります」

「竹は昔からあるので、日用雑貨としては、人の歴史とともにずっとあるものですが、日用品を超えて、芸術性をもつのは日本ならではの特性ですね。

今回の編み方は“四つ目編み”と言って、シンプルな技法で、竹の素材感がよく出ています。編もうと思えば誰にでも編めるくらいのシンプルさなのですが、隙間を均一に美しく作るのは意外と難しい。“四つ目にはじまり、四つ目に終わる”と言われるような奥深い技法でもあります。
工程ごとにチェックを重ねながら、美しく仕上げることに注力しました」

「また、今回の収納籠は、物を入れたまま運べるように、耐久性のある設計にもこだわっています。
取手は籐で巻き付ける前に、竹釘で打ち付けて強度をあげました。籐も太いものを使い丈夫に仕上げています。

実際に検証はできないのですが、30年使っても大丈夫だったと言っていただけるように、丈夫な作り込みをしています」

外側からは見えないが、実は竹の釘を打ち付けて、補強されている
工房で重いものを入れて、耐荷重チェックをしている様子

「普段作っている籠バッグは、それこそ持ち歩くものなので、耐久性は大切です。ひとつ作るのに時間もかかるし、せっかく購入したのにすぐに壊れてしまっては僕らとしてもやるせない。
安心して長く使ってもらいたいから、強度のある設計をしています」

その美しさと耐久性のこだわりが何より活きているのが、取手の部分です。

「一周ぐるっと巻きついているだけなんですが、これが大変で。
竹は弾力性があるから、自然に作ると形が丸くなるんです。今回の商品は四角いので、それにあわせて均一の隙間でまっすぐ付けるのに、神経を使いました」

今回の製造に併せて作った、四角い形を出すために押さえこむ器具

「この籠のために、新しい道具を作ったりして。竹の張りで丸くなろうとするところを、ぐーっと押さえこむ器具を作って、ドライヤーであぶりながら角を出しました。
編み方も含め一見シンプルな籠ですが、この籠をひとつ作るために、いろんな器具を作っています」

飴色になるまで。一生ものの暮らしの道具

ままならない素材に向き合いながらも、使う人が心地好いように。美しく使い勝手のよい収納籠は、こうして一つひとつ職人の手で丁寧に作られています。

今回の収納籠は、ひとつ作るのに約1日かかるそうです。
手間ひまかけて作られるもの。使い手としても長い付き合いにしたいものです。

自然の素材は使う中で育つ、という魅力もあると思い、長く使ったものを見せていただきました。

上が18年使った籠バッグ。下が新品の籠バッグ。使い込むうちに飴色に育っていく

左上のものが18年使ったもの。右下の新品のバッグと比べると、色と艶が増しているのがよくわかります。

自分の暮らしを積み上げる中で一緒に育っていくと思うと、未来の暮らしを思い描くのが楽しみになります。

最後に高江さんに、購入される方にお届けしたい言葉はありますか?と聞いてみました。

「竹は一生ものの道具です。飴色になるまで使って育ててください」

自然の素材を活かしながら、人の手で丁寧に編みこまれて出来上がる、「取手のある竹の収納籠」。
ぜひ長く愛用いただけたら嬉しく思います。

< プロフィール>
高江雅人:伝統工芸士/竹工房オンセ代表
「土に近い暮らし」にあこがれ、自給自足の生活をすることを目指して、脱サラ。以来、40年に渡り竹職人として、バッグや花籠を中心とした作品づくりを行ってきた。
現在では、独立を目指す若者が修行に集まる代表的な工房にもなっている。

「土に近い暮らし」を実践される、高江さんの生き方に興味を持たれたかたは、「中川政七商店ラヂオ 工芸うんちく旅」で、より詳しくご紹介しています。
ぜひご視聴ください。

<掲載商品>
取手のある竹の収納籠 大
取手のある竹の収納籠 小

文:上田恵理子
写真:藤本幸一郎