【地産地匠アワード】「工芸の“良い間違い”には可能性がある」審査員座談会(前編)

※この記事は、中川政七商店が主催する「地産地匠アワード」についての関連記事です。詳しくはこちら


地域に根ざすメーカーと、地域を舞台に活動するデザイナーが共に手を取り、新たなプロダクトの可能性を考えるコンペティション「地産地匠アワード」。

目指すのは、メーカーとデザイナーが協働してこそ生まれる新しいスタンダードの発見と、地域を率いるものづくりの担い手を広めてゆくこと、そして、完成品の販売による産地の作り手への還元です。

本アワードの審査を務めるのは、ててて協働組合の共同創業者で手工業デザイナーの大治将典氏、焼物の産地 信楽でデザインスタジオ「NOTA&design」を主宰する加藤駿介氏、株式会社HARKEN代表のクリエイティブディレクター 木本梨絵氏、奈良県東吉野のデザインファーム オフィスキャンプを設立した坂本大祐氏の4名。

今回はこの4名の審査員による座談会の様子を、前後編に分けてお届けします。
後編はこちら

審査をする上で大切にしていることや、それぞれが考える地産地匠アワードの意義。地域のデザインやものづくりに対して感じている課題、応募者へのメッセージなど。忌憚ない意見が飛び交う刺激的な座談会となりました。

アワードがきっかけで、産地に新しいつながりが生まれて欲しい

ー今回、「地産地匠アワード」の取り組みを聞いて最初に感じたことや、審査を引き受けた理由を教えてください。

大治将典(以下、大治):

以前は、工芸を評価する場がもう少しあったんです。たとえば日本三大クラフト展*というものがあったりとか。でも、そのうちの2つは終了してしまって、今は「高岡クラフトコンペティション」だけが残っています。

※「日本クラフト展(2020年に59回で終了)」、「朝日現代クラフト展(2009年に29回で終了)」、「工芸都市高岡クラフトコンペティション」

いわゆるクラフトの協会*みたいなものも戦後にできて、ずっと続いていたんですが、ここ数年で解散してしまいました。そんな状況を見ていて、自分としては「変わる必要があるんだな」と思ったんです。

※「日本クラフトデザイン協会(2021年に解散)」「クラフト・センター・ジャパン(2014年に解散)」

今、僕は「高岡クラフトコンペ」の審査員もやっているんですが、これはどちらかというと作家の登竜門的な位置づけになっています。そこで出てきた人たちが、高岡の工芸メーカーと付き合ってものづくりをやっているかというと、そこまでには至っていなくて。そういう風にしていきたいなと思って、中身を変えている最中なんです。

やっぱり、量を作らないと産地を守れないし、作家さんだけでは難しい部分がある。特に今は産地自体に力が無くなっていて、みんなバラバラの状態。産地の再編は必須事項だと思っています。

なので、今回の地産地匠アワードの取り組みを聞いて、これがきっかけで産地の状況に気付いてくれたり、新しい才能が生まれたり、新しいつながりが発生したりすればいいなと強く思いました。

大治 将典(手工業デザイナー/Oji & Design 代表)

日本の様々な手工業品のデザインをし、それら製品群のブランディングや付随するグラフィック等も統合的に手がける。手工業品の生い立ちを踏まえ、行く末を見据えながらデザインしている。
ててて協働組合共同創業者・現相談役。

地方の文化やものづくりが残り続けるためにできること

木本梨絵(以下、木本):

仕事で定期的に通っている島根県の海士町(あまちょう)というところに、そこでしか買えないみりんがあるんです。

宮﨑さん*という方が手がけていて、甘くて優しくて、本当に美味しい。

※夫婦で民泊「みやざきサービス」を営む宮﨑雅也さん

海士町はとてもほがらかな町で、宮﨑さんも「仏なのでは?」という穏やかなパーソナリティーの方。海士町のみりんは、そんな海士町の味がするんです。

また、能登半島にガラス作家の有永さん*という方がいて、薄くて濁りの無い、凄くきれいなガラスを作っている。一度ご自宅にお邪魔した時、家を出て階段を下りると目の前に能登の海が見えて、その海の“シーン”という静けさと、有永さんのガラスがリンクする感覚がありました。

※能登島に工房「kota glass」を構える有永浩太さん

日本以外でも、ノルウェーでブルーベリーを摘みに森に入る機会があって、その時に、ブルーベリーピッカーっていう道具がホームセンターに売っていたんです。ひとつずつ摘むのは大変なので、「ガガガガ!」って一気に収穫できる専用の道具なんですけど。

大治:
そういうローカルって楽しいよね。山形だと、芋煮の具材を買った人に、専用の鍋とか道具を貸してくれたりとか。

木本:
楽しいですよね。

私は、みりんも、硝子も、芋煮の鍋もブルーベリーピッカーも、その土地土地に根差す文化だと思っています。きっと世界中の地方がそういう魅力を持っている。

時間やお金をかけて旅に出た先で、そういった土着のものに出会った時に、自分の旅が豊かに、正当化される感覚があるんです。すごく楽しいし、人がわざわざ旅をする理由のひとつであると思っています。

そんな地方の魅力が単純に無くならないでほしい。30年後も、100年後も、200年後も鮮やかに残り続けてほしい。このアワードがその先駆けになれば、と思って参加しました。

木本 梨絵(クリエイティブディレクター/HARKEN 代表)

1992年生まれ。株式会社HARKEN代表。自然環境における不動産開発「DAICHI」を運営。自らも事業を営みながら、さまざまな業態開発やイベント、ブランドの企画、アートディレクションを行う。
グッドデザイン賞、iF Design Award、日本タイポグラフィ年鑑等受賞。
2020年より武蔵野美術大学の非常勤講師を務め、店舗作りにおけるコンセプトメイキングをテーマに教鞭を執っている。


坂本大祐(以下、坂本):

僕は、どうしても間に合わないものもあると思っていて。

奈良にも素敵な作り手さんがたくさんいますが、たとえば吉野の漆漉紙(うるしこしがみ。※吉野紙とも呼ばれる)を漉く女性の職人さんはついに残り一人になってしまった。60代の女性で、恐らくそのまま途絶えてしまう。そういう話が山のようにある。

無くなっていくものをすべて食い止めるのは無理でも、もう少し、自分たちにできることがあるんじゃないかと考えています。

今回のアワードは、産地だけじゃなく、その魅力を表現するクリエイティブも同時に見つけられるのがすごくいい点だなという風に感じていて。やっぱり、一緒にやる、悩んでくれる、工芸とデザインを繋げてくれる人がいないと厳しいと思うんです。

アワードが続いていく中で地域の取り組みとして素敵なもの、面白いものが積み重なっていけば、道が見えてくるだろうし。

そうするうちに、目指される対象になって欲しいというか。まだまだ都市部のデザインが強いけど、場合によっては最初からローカルのデザインを目指す人が出てきてもいいんじゃないかなと思います。

坂本 大祐(クリエイティブディレクター/合同会社オフィスキャンプ 代表社員)

奈良県東吉野村に2006年移住。2015年 国、県、村との事業、シェアとコワーキングの施設「オフィスキャンプ東吉野」を企画・デザインを行い、運営も受託。開業後、同施設で出会った仲間と山村のデザインファーム「合同会社オフィスキャンプ」を設立。2018年、ローカルエリアのコワーキング運営者と共に「一般社団法人ローカルコワークアソシエーション」を設立、全国のコワーキング施設の開業をサポートしている。
著書に、新山直広との共著「おもしろい地域には、おもしろいデザイナーがいる」(学芸出版)がある。奈良県生駒市で手がけた「まほうのだがしやチロル堂」がグッドデザイン賞2022の大賞を受賞。2023年デザインと地域のこれからを学ぶ場「LIVE DESIGN School」を仲間たちと開校。

産地の環境を残せるタイミングは今しかない

加藤駿介(以下、加藤):

僕はこの中でも産地側の人間というか。代々、信楽で焼き物をつくっている家で、産地の現状を見たり聞いたりしてきました。

ものづくりの産地って、戦後にものが無かった頃は「いいものを作って生活を豊かにしていこう」という志を持ってやっていたんです。70年代くらいまではその状態が続いたんだけど、バブルがやってきて、どんどんビジネス寄りになっていってしまう。考えなくても作れば売れる時代だったというのもあって。

バブルも93年頃にピークを迎えて、その後は人口減少や高齢化などの問題を抱えながら今に至ります。

最近は個人の作家さんが力をつけていて、それ自体はすごくいい流れです。でも、作る人がいて、山もあるけど、土を採る人がいない。原料屋さんにとってみると、バブル期の数字が基準にあるので、いくら作家さんが増えても、当時ほどの量を作ることはないので採算が合わない。

原料を採る人たちの方が先に潰えてしまうんじゃないかと危惧しています。

作る人が自分たちで採ってやらないといけなくなると、結局たくさんの数は作れない。その中で、経済的にどのあたりを目指して活動するのかという、難しい問題に直面している。

それでも産地にはまだ意義があるというか、この環境は残した方がいいと思っていて。他の国に目を向けて見ると、地域単位の小さな集団や個人がものづくりをやって、商品を提案できているというのは、すごく珍しいことだと思うんです。

ヨーロッパとかでも、デザインはするけど制作は別の場所だったりする。日本の産地は、今はまだなんとか高いレベルでやれている。でもこのままだと、20年後はもう無理やなと。手を打つなら今しかないと思っています。

加藤 駿介(デザイナー/NOTA & design 主宰)

1984年、滋賀県信楽町生まれ。大学在学中にデザインを学ぶためロンドンへ留学。東京の広告制作会社に勤務後、地元の信楽に戻り陶器のデザイン、制作に従事する。2017年に自社スタジオ「NOTA&design」、ギャラリー&ショップ「NOTA_SHOP」を設立。
陶器を作る際に粘土同士をくっつけるのり状の接着剤「ノタ」のように、人と人、人ともの、時代や業種など、あらゆるものと考えをつなぐことをテーマにしながら、陶器の制作を中心にグラフィック、プロダクトデザイン、インテリア設計、展示構成、ブランディングなどを手掛け、ギャラリーを併設した「NOTA_SHOP」では、工芸、アート、デザインを分け隔てることなく、様々な作家や商品を紹介している。


大治:

ちゃんと儲かる人が増えれば、材料屋さんも道具屋さんもやめなくて済むよね。昔は100億の企業が一社あって、「みんなで食おう!」だったけれど、それよりも1億の企業が100個の方が地域としていいんじゃないって思う。

坂本:

そういった可能性を持った人たちをたくさん見出せるというか、出会うのが一番の目的なんちゃうかなっていう気もする。もちろんアワードの大賞は決めるんやけど。普段、我々が出会っていく数には限界があるから。

“良い間違い”が生まれる寛容さが、手仕事や工芸の魅力

ー地域のものづくりでこれは良い取り組みだなというものがあれば教えてください

大治:

自分がデザインしたものを持ってきました(笑)。

輪島の四十沢(あいざわ)木材工芸さんというところで作っている欅(けやき)のプレートです。最初に作られていたものがあって、それを僕がデザインし直した経緯があります。

四十沢木材工芸 KITOシリーズ「輪花盆」

元々は、輪島塗の木地の不良在庫なんです。ずっと倉庫に眠っていて、四十沢さんがご自身でなにかやろうとした時に、やっぱり輪島は漆器の産地だから、まずは漆を塗ったりして。拭き漆をしてみるんだけど、どうもまったりしてあんまり納得のいくものができなかったようです。

ある時、四十沢さんの奥さんが倉庫からこれを見つけてきて「オイルだけ塗ってこのまま 売ったらいいじゃん」と。そうしてみたら売れたんです。

で、そこからどうしていくか、展開に悩んでいるという相談が僕のところにありました。

でも僕が劇的に変えた部分ってすごく少なくて。元のものづくりを活かしながら、フチの部分を少し細くしたり、指のかかりを考えて持ちやすく調整したり、ディテールをデザインしました。

というのも、実は元々このお盆のユーザーだったんですよ。良さを知ってるからこそ、使いながら少しずつ気になっていた部分を改良する選択肢をとりました。フチの細さを調整すれば、サイズはほぼ以前のままで、それまで3つしか置けなかった食器が4つ置けるようになったり。そうした微細な調整の積み重ねですけど、ちゃんと、より売れるようになった。

あと、これはNCルーターで加工しているんですが、同じ刃を流用して、別デザインのプレートも作りました。そうすると開発費も抑えることができる。

こういう協業のやり方もあるんだ、という参考例になればと。

木本:

私はこの「たまご包(つと)」を持ってきました。

たまご包(つと)

倉敷にある須波亨商店というところに、須波さん*という作り手の方がいるんです。

※倉敷 須浪亨商店5代目 須浪隆貴さん

倉敷って花ござが有名なんですけど、やっぱり需要は減ってきていて。

そんな中で須波さんは、信じられないくらい大きな鍋敷きだったりとか、凄くかわいい、ちょっと欲しくなる不思議な品をい草でたくさん作っていて。

これは卵を買ったら無料でついてきたものなんですけど、普段は何も入れずにそのまま飾っています。

昔は卵を持ち運ぶための機能が必要とされていたけど、今はインテリアにもなるというか。「卵を入れなければ!」と思わなくていいし、鍋敷きも鍋敷きじゃなくていい。気楽に間違った使い方をさせてくれるような、寛容さがある。

素材はちゃんと昔ながらのい草で、畳の端っこの部分を有効活用したりしているけど、そんなことを感じさせないようなコミカルなかわいさもある。

それを若い世代の方が黙々と倉敷で作っているって、素晴らしいなと。

大治:

僕も間違えたっていいと思っています。「これは、別にこれでもいいんじゃない」っていう、“良い間違い”がたくさんあった方がいいんですよ。それは、可能性がそこに埋まっているということなので。何かに変わった時にも柔軟に対応できる、生命力がある。

完璧には作れない反面、良い間違いが含まれているようなものが、手仕事には多いんじゃないかなと思います。

木本:

さっきの、漆を塗らないままのプレートとかも、昔の人からするとただの間違いなんだと思うんです。「恥ずかしいことだ」みたいな。でも今だと、木の素地が見えた方がむしろ嬉しい、良い間違いですよね。

大治:

本当にそうなんです。

そんな風にどんどん見立て直していいんだけど、その土地のものづくりである意味の中心は、見つめておかないといけない。外側にあることではなくて、軸にあること。

外側だけがあって、それが「~~焼です」っていうのは、やっぱりぺらぺら。中心の軸がしっかりしていて、その周囲がすごい速さで回っているからこそ、ちゃんと遠心力が効いている。そういうものづくりをしたい。

それが出来れば、どんな風に変わってもいいと思います。

決められた定義が足かせになるなら、外してもいい

坂本:

僕が一番初めにピンときたのは、亡くなられてしまったんですが、長崎で活動されていた城谷耕生*さんの取り組みです。

※城谷耕生さん:デザイナー。長崎県雲仙市に「Studio Shirotani」開設。2020年12月に逝去

これは波佐見焼の食器シリーズなんですけど、面白いのが、いわゆるB品の土を採用していること。それまで、鉄粉が入ってしまった土は波佐見焼では使えなくて、廃棄されていた。でも、グレイッシュな色味もいいじゃないかということで釉薬を変え、鉄粉を表現として取り入れてラインアップしている。

波佐見焼の現場と近いところにいて活動していた城谷さんならではの事例かなと思って、すごく良いなと。

大治:

僕が20代の頃とかに、工芸品をきちんと再ブランディングして、みたいなことをやり始めていた先駆者ですよね。精神的影響をかなり受けてます。地産地匠アワードに、審査委員長として入っていただきたかったくらい。

坂本:

本当に、今回のコンセプトにぴったりハマる人だったなと思います。

大治:

近い話でいえば、有田焼では天草の陶石が使われているんですけど、そこにも細かく等級が決められていて。良い等級の陶石を採ろうとすると、同時に膨大なB・C級のものも採れてしまう。それを精製して、等級の良い部分だけを有田では使っていました。

僕が有田でやっているのは、良くない等級とされてきた陶石を使うプロダクトです。これまで有田焼では使われなかった石ですが、「これも有田焼じゃん」って言わないとダメだと思うんです。

他の産地でも、大館の曲げわっぱなんかは、元々は樹齢200年以上の天然杉だけが使われていたけど、僕が関わり始めた15年前の時点で、樹齢100年前後の材が主流になっていました。そうするうちに、資源保護の観点で国から天然杉の伐採禁止*という通達が出た。今は人工植林の秋田杉を主に使用しています。

※天然の秋田杉について、2013年3月以降の伐採が禁止となった

この状況で素材にこだわってたら、大館曲げわっぱは滅んじゃう。製法や素材が変わることを許容しなければ産地は続いていけません。

その意味で、産地ブランドというのも辞めた方がいい。名前と技法を一緒にするのを辞めればいいのにと思います。じゃないと変われないから。

加藤:

伝統的工芸品とかも、単に国が作った一つの枠組みですもんね。

大治:

指定された当時は夢だったと思うんです。「俺たちにも価値はあるんだ!」っていう。でも、その時定めたルールが、もしも足かせになっているなら、外してもいい。

もちろん、その場所・地域でやっていること自体は誇りに思っていいけど、「~~焼です」ってみんながぼんやり思っている像みたいなものは無くなっていいんじゃないかなと思いますね。

加藤:

僕は信楽にいて、お店もやっているので、よく聞かれるんです。「これは信楽焼ですか?」って。

それは正直、どっちでもいいと思っていて。信楽焼だからいいってことではないじゃないですか。信楽にも色々な作り手がいて多様性があるし。「信楽という地域で作っている状況の方にこそ価値があるんです」って説明するんですけど。

大治:

たとえば僕がデザインした「FUTAGAMI」*のプロダクトも、「高岡銅器だ」みたいなことは敢えて言っていないし、きっと高岡銅器には見えないだろうとも思う。いつか時間が経てばそう見られるのかもしれないけど、その時は高岡銅器ではなくて、“高岡”という風に見えればいいなと思ったりしています。

※富山県高岡の鋳物メーカー「二上」が立ち上げた真鍮の生活用品ブランド

加藤:

それぞれの特徴をいかすのはいいと思うんですよ。信楽だったら大きいものが得意やから、なるべく大きいものを作るとか。

強みをいかすのはいいけど、名前だけで評価するのはナンセンスやなと思いますね。

ただ、たとえば~~焼の組合にしか助成金が下りないみたいなこともあって。それは産地の構造としておかしいと思ってます。

坂本:

産地を名乗ることによって、国からのお金が入りやすい。だから名乗る必要があるっていう。

加藤:

それこそ、もう作り手もいなくて、名前だけ残っているようなものもあって。それを啓蒙するイベントが開かれていたりする。「いやそれ、誰も作ってないですよ」っていう。

大治:

それ、「産地のゾンビ化」と呼んでいるんです。

坂本:

上手いこと言ってるなぁ。

大治:

(笑)。

要するにゾンビが生きている限りは、本当に生きている人たちに支援が行き届かない。

それは病だと思うので、悪しき習慣として断ち切って、本当に応援すべき人を、ちゃんと応援できる仕組みづくりをしないといけないんですよ。

坂本:

産地の再編というか、逆に“産地のための産地”みたいなものは、無くなってもいいのかもしれないよね。

加藤:

それでいうと、僕が昔から気になっていて、いいなと思っているのが新潟の「エフスタイル」*さん。

※新潟生まれの五十嵐恵美さんと星野若菜さんが2001年に立ち上げたブランド。新潟を拠点に、デザイン提案から販路開拓まで一貫して請け負っている。

産地としてものづくりがやれてるというか、自分たちでデザインもしつつ、しっかり周囲の作り手とコミュニケーションしながら一緒にやっている。

ものづくりをする上で産地側のリテラシーも上げていく必要があると思っているんですけど、そう簡単には上がらないので、一緒にやっていくのは重要だなと。

数を追いかけるわけではないし、かと言って一点ものでもない規模感で。あの二人の取り組み自体が凄くいいなと思っています。

大治:

僕も、仕事で産地へ行くことを“出張”じゃなくて“通勤”って言ってるんですよ。「先生が来る」みたいになると嫌なので、通勤。5時間以内なら近いという感覚(笑)。

そういうところからでも、一緒にやっている感覚がないとね。本当のことを教えてくれないし、こちらも本当のことが言えない。“先生”が関わることで広告になっていた時代はいいけど、今は違うので。

後編へ続く


文:白石雄太
写真:中村ナリコ