わたしの一皿 つるつるぽってりの優しいうつわ
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秋の花粉症なのか、鼻水が止まらない。晩秋、11月半ばからのアメリカ・サンフランシスコでの展示会も迫ってきました。鼻水垂らしながらただいま準備中。日本の今の手仕事をたんまりと持っていきます。みんげい おくむらの奥村です。
どうしてなのかうまく言葉では説明できないけれど、子供の頃からバターがそれほど好きではない。
バターの香りを嗅ぐとたまらない、という人が多いそうだが、個人的には全然なのだ。牛乳もチーズも大好きなのに。
ところが、バターに似たような食材は好んで使っている。鹹蛋(シェンタン)という中華圏を中心に見られる食材。
アヒルの卵を塩漬けしたもので、黄身はバターのようなコク。白身はよい感じの塩加減。
これ一つで旨味も塩気も決まるという万能の食材。台湾や香港では朝粥のお供としてもこれをよく食べる。
黄身と白身がそれぞれまるで違う調味料のようなので、簡単な料理でもなかなか複雑味が出る。さっと素材と炒め合わせればよいだけなので、時間がない日に重宝します。冷めても美味しいのでお弁当にもどうぞ。
今日選んだのはエリンギ。この組み合わせは台湾でよく食べられている定番料理だ。
エリンギの鹹蛋炒め。エリンギ四本ぐらいで鹹蛋一つ。あとは彩りに小ねぎでもあればもう十分。
コロコロの一口大に切ったエリンギを油で炒めて焼き目をつけて取り出しておく。その鍋に油を再度入れて鹹蛋の黄身を潰すように油と合わせる。
火は弱め。じゅくじゅくっと黄色い泡が立ってくると、それがバターのような香りになる。焦がさないように気を付けて。
そしたらエリンギを鍋に戻し、このバター的なものをからめつつ、細かく刻んでおいた白身を合わせ、小ねぎもパラパラ。ざっと炒め合わせて、好みで黒胡椒をふってください。これだけ。
今日のうつわはちょっと遊び心。木のうつわにしてみた。料理が味も雰囲気もやわらかいから、うつわもやわらかく。鹿児島の木工作家の盛永省治さんの定番のプレートだ。
盛永さんは家具からうつわから花器、アート的なもの。作るものの幅が広い。
ものづくりの根底にあるのは木という素材が持っている美しさをどう表現できるのか、とそういうことなのだと思う。
どの作品も彼の手がきちんと加わっているのになんだかいやらしさがなくて、自然な雰囲気がする。
このうつわは厚みがよい。この厚み、ぼってり感が出せるのは木という素材ならでは。この全体の雰囲気のやわらかさは厚みあってのことなのだと思う。
このうつわはいくつか違う種類の木で作ってもらっているので、同じ大きさや厚みでも材によって重さがぜんぜん違うのがおもしろい。
あるとき盛永さんと話していたら、うつわや家具についてはものすごく職人気質に、正確さとスピードとを大事にしていることを教えてくれた。
職人と芸術家を行ったり来たりするような感覚がある作り手。でも、どちらも中途半端でない。
この作り手の場合、木目が生きたうつわを手にしたら、ぜひその次は木そのものの形や動きが感じられるウッドボウルやウッドベースを手にしてもらいたい。
誰の身近にもある木という素材があらためてものすごく可能性に満ちたものなんだと感じられるはず。
一人の作り手から生まれるこの幅。それこそが盛永さんの魅力だろう。
つるつるぽってりのうつわに料理をのせました。料理もうつわも優しさがある、という感じが伝わるのでしょう。
エリンギの食感の良さは残りつつ、塩気も旨味もたっぷりでご飯にもお酒にもいい。
鹹蛋のこのコクは日本酒だって合うと思う。ぬる燗でこんなのやったら最高。今年ももうそんな季節になってきましたね。
奥村 忍 おくむら しのぶ
世界中の民藝や手仕事の器やガラス、生活道具などのwebショップ
「みんげい おくむら」店主。月の2/3は産地へ出向き、作り手と向き合い、
選んだものを取り扱う。どこにでも行き、なんでも食べる。
お酒と音楽と本が大好物。
みんげい おくむら
http://www.mingei-okumura.com
文・写真:奥村 忍