“しっくりくるお茶”ってなんだろう。お茶の愉しみを広げるワークショップレポート

お気に入りの場所でくつろぎながらお茶を飲む。家族や友人と机を囲み、お茶を淹れ合って過ごす。

お茶の時間は、かしこまった準備や工夫が無くても成立する、とても自由で大らかなものです。

ただ、時には一歩踏み込んで、自分の好きなお茶、好みの茶器といったものに想いを馳せてみると、その時間がより一層、素敵なものになるかもしれません。

先日、そんなお茶の愉しみ方を一段掘り下げるワークショップが開催されました。

講師は、奈良県で「自然栽培」のお茶づくりをおこなっている健一自然農園の伊川健一さん。お好みの湯呑選び、番茶の飲み比べ、そして自分だけのオリジナル番茶づくりまで。お茶の新たな魅力に触れるワークショップの内容をレポートします。

※本ワークショップは、阪急うめだ本店9F祝祭広場で開催の「6日間限りの家政学校 by 中川政七商店」の中でも、11/11(月)に実施予定です。ご予約の詳細はこちらからご覧ください。

気分や味わいを左右する、茶器選び

健一自然農園 伊川健一さん

「お茶は加工方法や飲み方によって千変万化するもので、その愉しみ方も本当に様々です。その中で今日お伝えするのは、“お番茶の愉しみ方”。

産地も形も大きさも違う、個性あふれる9種類の湯呑を用意したので、お好みのものを選んでください。その湯呑でお番茶を飲み比べていただきます」

そんな伊川さんの案内から始まったワークショップ。まずは番茶を味わうための湯呑選びを通じて、自分の感覚に向き合っていきます。

用意された9種類の湯呑。中川政七商店から10月に新発売されたもの
色や形、サイズもさまざま

「色や形などの見た目、手に持った時の感覚など、なんとなくしっくりくるなというものを、ぜひ直観で選んでみて下さい」

そうは言っても、個性豊かな湯呑に目移りしてしまい、なかなか選びきれない参加者の方々。伊川さんがそれぞれの湯呑について解説しつつ、選び方をサポートしていきます。

一つずつ手に取りながら、今日の自分に合った湯呑を選んでいく

「たとえば、少し『ほっこりしたい』という時は、手ですっと包み込めるサイズの、このあたりがおすすめです。この高台がついているものはやや高貴な印象があるというか、逆に『凛としたい』時にいいかもしれません。

これなんかは面白い形で、なにか面白いことや発想を引き出してくれそうですよね」

と、湯呑の違いで心持ちにも影響が出るという話に皆さん興味津々。

さらに、「香りを感じやすいのは、筒形のもの。真上に香りが上がってきます。色味をしっかり見たいときは、下地が白のものが良さそうです」という風に五感への影響も聞いて、本命の湯呑を絞り込んでいきます。

それぞれの湯呑に特徴があり、あれこれ考えて選ぶだけでも楽しくなってくる

自分に“しっくりくる”お茶を見つける「自分番茶探し」

湯呑を選び終えた後は、番茶の飲み比べ。土瓶で淹れた4種類の番茶を味わって、自分に“しっくりくる”お茶はどんなものなのかを探していきます。

「しっくりくるお茶って、日々変わるもので、時間や体調によっても変化します。

今日は、少し集中してお茶と向き合っていただいて、今のご自分に合うお茶というものがなんなのか、問いかけていただければと思います」

直火にかけられる土瓶でお茶を淹れ、南部鉄器のウォーマーで保温。時間が経っても渋くなり過ぎず、長く楽しめるのも番茶ならでは
番茶を飲む前に、瞑想などでも使われる「ティンシャ」という道具を鳴らす趣向。目を閉じて音だけに集中して深呼吸をすると、余計な情報が遮断され、お茶と向き合う準備が整う

今回飲み比べをしたのは、青柳番茶・ほうじ番茶・天日干し番茶・茶の木番茶という4種類。

それぞれの番茶を飲んだ後でどんな気持ちになったか、「美味しい!」という体への浸み込み具合はどうだったか、一杯ずつメモを取りながら自分の気持ちや感覚を整理していきます。

どう感じたかをメモしながら、しっくりくるお茶を探していく

「最初の青柳番茶は秋に摘まれる葉っぱで作ったもので、今日の中では唯一焙煎していないお茶です。緑の風味が強く感じられるかもしれません」

ーー「最初はすっと爽やかな感じで、でも段々と甘くなってきました。なんとなく夏っぽい気もして、秋に摘まれたと聞いて意外な気もします」

「ほうじ番茶は梅雨の頃に葉っぱを摘みます。製茶方法は途中まで青柳番茶と同じで、最後に焙煎して仕上げています」

ーー「美味しいです!なんとなくミルクのような甘さも感じる気がします」

ーー「青柳はすっきりした気持ちになって、これは落ち着くというか、飲んだ後の気分が全然違います」

「茶の木番茶はお茶の木そのものを召し上がっていただいているようなお茶です。3年以上かけて育った茶の木を収穫して、結構太い枝や幹も全部、薪の火で焙煎しています。そこに、玄米や黒豆といった穀物をブレンドしました」

ーー「すごく懐かしい、祖母の家に帰った時の感覚というか。ウエハースのような甘さも感じます。一番深く向き合えたというか、浸み込んできたと思いました」

ーー「私も懐かしくて、毎日飲みたいです。でも、一番癒されたのはほうじ番茶かもしれません」

お茶を飲み、感じたことを言葉にしていく参加者の皆さん。番茶の違いに驚きながら、自分の感覚と向き合っていきます。

好きなお茶と、今の気分で飲みたいお茶が異なっていたり、お茶の味と自分の状態に対する解像度が上がっていく様子が印象的でした。

集中して番茶を味わう
体が求めているお茶を飲むと、すーっと浸み込んでくる感覚がある
すっきりとした「青柳番茶」を午前中、リラックスしたい夜の時間に「茶の木番茶」というように、時間帯で飲み分けるのもおススメだと話す伊川さん

自分だけの「フレーバー番茶作り」

最後は、用意された奈良県由来の香りをブレンドし、自分だけのフレーバー番茶を作るプログラム。プレーンな状態の茶の木番茶に、好みの香りをブレンドしていきます。

用意されたフレーバーは、「ごぼう」「柿の葉」「トゥルシー」「橘」の4種類。すべて奈良で栽培し、加工されたもの
香りや見た目の好みで選んでいく。どのくらいの量を配合するのかも悩みどころ

「基本は一種類ですが、二種類くらいブレンドしても大丈夫です。

トゥルシ―は鮮烈な香りで、癒し効果があるとされています。ごぼうは有機栽培の夏ごぼうを使っていて、お味噌汁に入れたいくらいですね(笑)。

香りづけとしてはごぼうを入れつつ、見た目のあしらいで橘を少し入れる、というのもいいのかなと」

ここまで、番茶の飲み比べを通じて自分の好みや今の状態を確認してきた参加者の方々。4つのフレーバーに悩みつつも、自分が好きな香りはこれだと思う、とワークショップ開始時よりも少し自信に満ちた表情で選んでいきます。

互いに作ったお茶の香りを嗅ぎ合って違いを愉しんだり、お茶がある空間の安心感から、参加者同士も打ち解けた様子が見られました。

彩りも美しい、オリジナルフレーバー番茶
お茶の名前を命名し、茶缶に入れて完成

オリジナル番茶が完成し、いよいよワークショップも終わりの時間へ。

お茶請けのお菓子をいただきながら、お気に入りの番茶をおかわりしつつ、和やかな雰囲気で雑談を交わします。約2時間のワークショップで、お茶を注ぎ合いながら過ごした時間は終始、大らかなものでした。

自分の好みや感覚を見つめることで、お茶を愉しむ時間がさらに豊かになる体験をした参加者の方々。皆さんもぜひ普段の暮らしの中で、少しだけ深く自分のことを見つめ、お茶やお茶の道具に触れてみてほしいと思います。

もっともっとお茶を好きになってくれたら、茶園にも遊びに来てほしいと伊川さんは目を輝かせます。

「お茶って、まず植物を育てる農業の部分があって、加工は職人的というか工芸的な部分で、最後の淹れ方・飲み方のところでは料理の要素もある。

複雑な要素が一体になっているのがお茶なので、いくらやっても奥行きがあって、本当に面白いです。

ぜひ茶園にもお越しいただいて、お茶に関わるもっとたくさんのことを経験していただく機会があれば素敵だなと思います」

文:白石雄太
写真:奥山晴日

※本ワークショップは、阪急うめだ本店9F祝祭広場で開催の「6日間限りの家政学校 by 中川政七商店」の中でも、11/11(月)に実施予定です。ご予約の詳細はこちらからご覧ください。

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