和菓子でめぐる出雲・松江
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こんにちは。ライターの築島渉です。
かつて、雲州 (うんしゅう) と呼ばれた神々の国、出雲国。
今では風光明媚な城下町の風情を残す松江や、日本神話が今も息づく出雲が旅先として人気です。
実はこの一帯、時代とともに人々に愛される甘味が生み出されてきました。松江は、京都や金沢と並ぶ日本三大菓子処のひとつ。出雲は「ぜんざい」発祥の地だと言われています。
今日は歴史をなぞりながら、和菓子と土地の美味しい関係を覗いてみましょう。
「ぜんざい」発祥の地、出雲へ
旧暦の10月を意味する「神無月」。出雲大社に神様たちが勢揃いすることから、出雲の地だけがこの時期を「神在月 (かみありづき) 」と呼ぶことは、ご存知の通りです。新暦では11月下旬から12月中旬に当たります。
この時に執り行われる神事「神在祭 (かみありさい) 」で、神様へのお供えとして振る舞われてきたのが「神在 (じんざい) 餅」。
この「神在餅」が出雲弁で少しだけ音を変え、「ぜんざい」となって全国に広まったと言われており、江戸初期の文献でもすでに出雲が「ぜんざい」発祥の地だと記されているのだとか。
現在、出雲大社へ向かう参道は「神前通り」と呼ばれ、今も参拝者たちが喉を潤し、出雲神社ゆかりの「ぜんざい」を楽しむ場所として賑わっています。
出雲大社までは意外と歩くこともあり、お腹もすくもの。たくさんのお店がその店自慢の「ぜんざい」を振る舞っているので、行き帰りで食べ比べをしてみるのも楽しいかもしれませんね。
お参りの手土産に。創業300年の老舗 來間屋の生姜糖
出雲大社へのお参りが済んだら、一畑電車に乗って一路、松江方面へ。雲州平田駅から徒歩10分、出雲土産として人気の「生姜糖」を300年作り続ける、來間屋生姜糖本舗 (くるまやしょうがとうほんぽ) に到着です。
時は江戸時代、松江藩の奉行所務めだったお役人、來間屋文左衛門がお茶に興味を持ったのが名物「生姜糖」の始まり。お役人もやめ、どんどん茶道に熱中していった文左衛門ですが、当時はいわゆる「お茶請け」は生菓子しかない時代です。
日持ちがしてお茶にも合ういいお菓子は無いものか、と考えるようになった文左衛門。当時から出雲で作られていた特産の「出西生姜」を使って試行錯誤の末産み出したのが、「生姜糖」だったといいます。
「文左衛門は、凝り性だったんだと思います」と笑顔でお話を聞かせてくださったのは、來間屋11代目店主の來間久さん。
「材料は、お砂糖と出西生姜だけ。出西生姜は、繊維質が少なく、煮詰めても辛みと香りが変わらないんです。創業時からの製法で手作りしているので、江戸時代の人も、同じものを食べていたんですよ」
300年以上の間、出雲参りの参拝者たちに、そして地域の人達に愛され続けている生姜糖。かりっとかじると、優しい甘さの中に生姜のすっきりとした香りが口の中に広がります。
「その年の出西生姜の味やその日の天候など、自然との関わりの中で手作りをしています。その時その時に合わせ、作り手側も変わっていないと、受け継がれた味にはならないんです」と來間さん。数百年も続く、老舗だからこその言葉です。
銅板から型を外した板状の昔ならではのものや、キャンディ状になった一口サイズのものなど、レトロで可愛いロゴの入った來間屋さんの生姜糖。今も変わらず、出雲土産の定番となっています。これからの季節、紅茶に入れて楽しむのも、おすすめだそうですよ。