【旬のひと皿】もずくのかぼすそうめん

みずみずしい旬を、食卓へ。

この連載「旬のひと皿」では、奈良で創作料理と玄挽きの蕎麦の店「だんだん」を営む店主の新田奈々さんに、季節を味わうエッセイとひと皿をお届けしてもらいます。



毎週水曜日、お花屋さんから届くお花を店内に生けてから一週間の仕事が始まります。
「今週はどんな花材かな」と、包んである新聞紙を覗き込む瞬間が楽しみです。

華道の経験も知識もない私に、ご近所にお住まいの先生がお声がけくださったことが、生け花を習い始めたきっかけです。その時は奈良に越してきたばかりだったので、お花の知識はもちろん、365日、毎日行事の行われる奈良のことなど、先生のお話を伺うたびに「自分の知らなかった広い世界があるのだな」と、パッと煌めきを感じていました。

お稽古を始めた頃は、一杯の花を生けるのにお稽古で2時間、帰ってから同じように生けるのに同じくらいの時間をかけていました。花や、枝物のバランス次第で、同じ花材でも間延びしたような雰囲気になってしまいます。何だか納得いかない出来のものも先生に手直ししていただくと、そこに自然に、花が野に咲く景色が生まれるのです。

お稽古をとても楽しみにしていましたが、当店の代替わりと共に店にいる時間が長くなり、ひとまず辞めることに。教室には行けなくなってしまいましたが、今でも花を生けることは続けています。上手ではないですが、お客様に楽しんでいただけたら嬉しいなと思っています。

しばらくお稽古から離れてしまっている間も先生は「このお花、お店で生けてね」とお越しくださったり、お手紙をくださったりと、私を気にかけてくださっていました。いつも、いつでもお会いできると思っていたあの頃。まさか、先生のお別れの会に行くことになるとは思ってもいませんでした。

聞くところによると、入院されていた病院の中庭に何も植えられていなかったので、先生はご自身も大変ななか、病院の方に「あの場所へお花を植えてはどうでしょう?きっと患者さんの癒しになるでしょう」と動かれたそう。最終的には院長先生にまで話が行き、たくさんの人で花の球根を植えられたと伺いました。

先日、病院へその花を見に行きました。夏に向かう陽ざしのなかで、いきいきと咲く花たち。一緒に過ごさせていただいた時間を思いながら、私もまた花を生けようと思います。年齢も離れた私にたくさんの優しさを与えてくださったことに感謝して。

<もずくのかぼすそうめん>

材料(2人分)

・素麺…2束
・もずく(沖縄の太もずくがおすすめ)…100g
・麺つゆ…200ml
・かぼすの果汁…小さじ4
・薬味(大葉、茗荷、きゅうりなど)…適宜

生のもずくが手に入らない場合は酢もずくを使っても。その場合はかぼすは入れずにお作りください。かぼすがない場合はレモンやすだちなどで代用いただくのもよいのですが、かぼすの風味がとても合うので、ぜひお試しいただけると嬉しいです。

作り方

薬味類を準備しておく。大葉は千切りに。茗荷も同じく千切りにして水にさらす。きゅうりは塩(分量外)で表面をもみ、しばらく置いたら千切りにする。

少し濃いめの麺つゆを用意し、かぼす果汁を加えたら冷蔵庫で冷やす。

素麺を茹でて器に盛り、薬味を乗せたらできあがり。別に添えた麺つゆに浸けながら食べる。

うつわ紹介

・そうめんを入れたうつわ:有田焼の中鉢 微塵唐草
・麵つゆを入れたうつわ:RIN&CO. 越前硬漆 深ボウル S NORTH GRAY 03

写真:奥山晴日


料理・執筆

だんだん店主・新田奈々

島根県生まれ。 調理師学校卒業後都内のレストランで働く。 両親が母の故郷である奈良へ移住することを決め、3人で出雲そばの店を開業する。  
野に咲く花を生けられるようになりたいと大和末生流のお稽古に通い、師範のお免状を頂く。 父の他界後、季節の花や食材を楽しみながら母と二人三脚でお店を守っている。
https://dandannara.com/

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