和食器を面白く!愛と情熱の「うつわ研究所」座談会

「大切な人に美味しく食べてもらいたい。ともに楽しい時間を過ごしたい」

昔ながらの和食器には、人を思いやる気持ちが込められています。

そんな和食器を今の暮らしに合わせて再解釈し、あらためてその魅力や楽しみ方を伝えていきたい。そう考えて、うつわを愛してやまない工芸デザイナーが集い、始まったのが「うつわ研究所(うつわ研)」の活動です。

メンバーは、Oji&Design代表の大治さん、中川政七商店の榎本、岩井、大久保。この4名が定期的に集まって議論を交わし、時には産地の現場を訪れながら和食器について考えた結果、第一弾の商品として作ったのは「蓋もの」でした。

今回、今の時代の新たな「蓋もの」として「玉手どんぶり」「おめかし重」という2アイテムが発売されるタイミングで、「うつわ研」のメンバーによる座談会を開催。普段の活動やうつわに対する想い、商品開発の苦労などについて話を聞きました。

「工芸は楽しい!」が伝わるうつわを

—うつわ研がスタートした経緯を教えてください

榎本:社内で今後の「うつわ」作りについて検討していた中で、産地に根ざした手工業デザイナーとして、多くの生活道具を生み出してきた大治さんとご縁があって。なにかご相談できないかなと思ったのが最初ですね。そこからこのメンバーが集まって2025年4月にスタートして。毎月のように集まったり産地を見に行ったりしてきました。

中川政七商店 榎本雄

大治:うつわ研をスタートするにあたって僕から皆に伝えたのは「もっと”中川政七商店らしさ”のあるうつわを作ってもいいんじゃないか」ということでした。

店舗に並んでいる商品を見ていて、産地を応援したいことは伝わってくるし、佇まいも良い。だけど、どこかで遠慮も感じたんですよ。

産地に寄り添いすぎると「この産地はどんぶりを作ってるから、今回も作りましょう」と、手段が目的化してしまう。そうじゃなくて「この時代に和食器を使う意味を考えると、普段のどんぶりじゃなくてこれかも」みたいな提案をしていくというか。そんなことをやりたいなっていう話をしました。

大治 将典(手工業デザイナー/Oji & Design 代表)

日本の様々な手工業品のデザインをし、それら製品群のブランディングや付随するグラフィック等も統合的に手がける。手工業品の生い立ちを踏まえ、行く末を見据えながらデザインしている。

大久保:確かに「この産地はこういう物が得意だから、それを作る」という思考で固まってしまっていたなと思って。

産地の良さを活かすことは大切なんですが、一歩引いて俯瞰で見ることで、本当に必要としていることが分かって、逆に作り手との距離が近くなることもあるんだなと。「うつわ研」の活動を通じて、そんな気づきがありました。

中川政七商店 大久保優希

—第一弾として「蓋もの」を作った理由は?

大治:中川政七商店らしさとはなにかと考えた時に、「工芸を元気にする」ことだという話になって。じゃあ「工芸を元気にする」ために、「工芸は楽しい!」が伝わるうつわを作るのがいいんじゃないかと。

単に「使いやすい」ではなくて、「使いこなしてみたい」もの。手にしたお客さんが能動的に変わっていけるようなものがいいよねって。

「蓋もの」は、電子レンジや冷蔵庫も無かった時代には、食事を保温するために必要だったし、保存容器としても重宝されていたんです。

時代が変わって、そういう和食器ならではの形が必要とされなくなった。でも、たとえば蓋を持ち上げた時、料理の湯気が上がる瞬間には感動がある。そうやって視点を変えれば、うつわの持つ佇まいが喜びや楽しさに変わるようなことはまだまだたくさんあるはずで、それを探していこうよと。

榎本:自分たちで考えていた時は、蓋があるうつわを提案していこうとはまだ思えていなくて。大治さんとご一緒して、その部分が楽しさとか価値になるということに気づけたのは収穫でしたね。

日本人の暮らしと和食との間に距離ができている中で、うつわから入って食事の楽しさに気づくこともあるはずなので、そういったものを作りたいと思いました。

岩井:洗い物もふたつになるし、ものづくりとしても複雑になるし、どちらかと言えばネガティブに捉えてしまいがちなところを、敢えてポジティブに楽しもうという視点にはっとしたというか。すごく腑に落ちました。

中川政七商店 岩井美奈

使い勝手よりも、エモーショナルが少しだけ勝る「和食器」づくり

―「玉手どんぶり」について、どんな風に考えて開発を進めたのでしょうか

大治:「蓋もの」のどんぶりが今の生活にフィットして使えるか考えてみた時に、遅く帰ってくる家族のために、ご飯を盛って蓋をして冷蔵庫に入れておけば「このままチンできますよ」とか。ラップをかけなくても大丈夫とか、そういう便利な方向にも割と使えそうだなと。

被せの蓋なので、小ぶりに見えて意外と容量があることとかも、使い勝手がよい。その辺りは榎本さんがすごく細かい部分のデザインやサイズを突き詰めたからこそ出来上がっていると思っています。

その上で、湯気がブワーッと出る楽しみっていう情緒的な面白いところもあるし。使い勝手も結びつきつつ、最後のところではエモーショナルが勝つような、そこのバランスはとても大事に考えました。

試作検討を重ねて、徐々に出来上がっていった新しい「蓋もの」のかたち

榎本:僕の方ではサイズ感をどこに絞るのかっていうのは結構悩みました。どうしたら手軽に感じてもらえるか。いかに親近感を持ってもらえるか。

形状も切立(きったて)に近くして容量も稼ぎつつ、ご飯の盛りやすさにもつなげたりとか。

大治:普通に見えるけど、ぜんぜん普通じゃないんだよね。

榎本:そうなんです(笑)。この蓋の形自体も気に入っています。ありそうで無い形。やっぱり、蓋が美しいということは、パカっと開けた時の喜びに繋がると思うので。博物館へ行って「奈良茶碗」をリサーチしてみたり、本当に‟研究”しながら作っていきましたね。

実際に料理を入れて使ってみましたが、湯気が出るときは本当に美しくて。ああいう体験を皆さんにしてもらいたいなと思いました。

絵付けも、あえて釉薬がちょっと滲むようなものを意図的に狙っていて。一つひとつが違って見えてくるっていうところをメーカーさんと一緒にできたのは良かったですね。手の跡が感じられるものはやっぱり面白いです。

伝統的なうつわの形状やデザインをあらためて研究

――おめかし重についてはどうでしょうか

大治:苦労しましたね。最初は普段の使い勝手を意識していたけど、最終的に‟ハレ”の方向にギュッと寄せた。

岩井:ハレとケのバランスを取ろうとして、ずいぶんぐるぐる行ったり来たりしました(笑)。

お重というものの性質をあらためて考えてみると、お花見や運動会、おせち料理など、誰かと一緒に楽しむ際に使われてきたうつわなんですよね。

そこに気づき始めた時に、やっぱり‟ハレ”かもって。お正月だけじゃなくて、日常の中の小さな特別の時に使いたくなる‟ハレ”感を出せればと腑に落ちて。

あとは自分でも毎日のように使ってみながら、「これだと小さいかも」「あと5mmあればもうふたつお皿が入るのに」とか、使いこなす楽しみみたいなものを体感しながら開発できました。皆さんにもそういった楽しみを、使いながら見つけてもらえれば嬉しいなと思います。

大治:諦めずに形になって本当に良かった。料理が美しく見えるように蓋の小口を斜めに切って、その角度も蓋がずれない最適な傾斜を追及して。細かいところも工夫が行き届いている。

守破離で言うところの「守」だったお客さんが、「破」にジャンプするためのジャンプ台というか。そんな商品になっているんじゃないかと思います。

誰かを想う気持ちが込められたうつわで、暮らしを楽しくする

―今回、和食器に向き合って気づいたことは?

榎本:和食器の意匠とか形状って、大切な人に食事をどう届けるか、どう一緒に楽しむかということがすごく考えられてきたんだなと思いました。

冷めないように美味しく食べてもらいたいから蓋があって、開けた時の湯気もそうだし、蓋の裏にちょっとした絵が描いてあったりする驚きもあって。誰かを想う気持ちを形にしてきた。そこを深堀りしていくと、新しい価値が生まれるんじゃないかなと。

大治:装飾イコール悪じゃなくて、思いやりみたいなことになったらとてもいいと思うんですよ。こんな感情になってもらいたい、自分もこうなりたい、みたいなことがあるから、その線やデザインが決まっていくわけで。

柔らかい線だったら柔らかい気持ちに多分なるだろうし。

岩井:「おめかし重」も、開発中に家で出してみると、いつもと違うものが出てきた時の「うわぁー!」という反応があって。

大治:喜んでくれるよね。

岩井:喜びがあって、場の空気が変わる。すごい力を持ってるなというのは純粋にありました。でも、なんていうか、それが普段のほかのうつわとなじんでいる状況が豊かだなぁと思ったんです。

ひとつあるだけで空気は変わるけど、違和感が強すぎても無理があるというか。なので少しずつ、ちゃんと愛されて続いていくものを「うつわ研」としてひとつふたつと増やしていけると、健やかに混ざっていくんじゃないかっていうのを感じながらやっていました。

大久保:僕は今回、このチームで色々な現場に行ったり、打ち合わせを重ねたりする中で、デザインに関する考え方が少し変わりました。

デザインを考えるとき「こういう形がきれいだな」という理想をもって進めるんですが、素材の特徴や作り手の個性の影響を受けるので、100%デザイン通りには仕上がりません。その時に、「デザインと違うからこう修正して」ではなく、「こっちの方が(自分のデザインよりも)良いな」と思えたというか。なぜ完成品の方が良いのかを判断できるようになった感覚があります。

大治:よい変化だと思います。デザインしたものをその通りに作ってくださいというのはものづくりではないんですよ。デザインしながら色々な影響を受けて変わって、その結果が良ければ別にそれでいい。受け入れる気持ちがちゃんとあれば、作り手や素材と混ざって、一緒に作るようになっていく。コントロールしながらコントロールしたくないというか。それがいい物を作る時に大事なことだと思っています。

大久保:あとは、誰が使っても馴染むようなものでなくてもいいのかなっていうか。作る人の個性とかが、もっとものに現れてもいいんじゃないかなということを、あらためて感じました。

大治:僕は普段は一人でやっているので、「やっと工芸デザイナー仲間ができた!」みたいな気持ちで。作家や職人、産地のことなんかを話しても「ふーん」で終わってしまうところが、この3人だと「そうそう!」って共感してもらえる。

商品に関しても「ここがちょっと違和感あるかも」と伝えたらちゃんとディテールが修正されて返ってくるし、打てば響くというか。本当に楽しかったなぁ。

榎本:我々も、大治さんがどんな風に産地でコミュニケーションして、ものを作っているのか見ることができてとても勉強になりました。暮らしが楽しくなる手応えは得られた気がしているので、和食器を面白くする取り組みを今後も続けていきたいですね。

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文:白石雄太
写真:阿部高之

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