食卓のうつわはどこから来るのか、どこへ還るのか。ものづくりを未来につなぐ「土」のはなし

私たちが暮らしの中で愛用している、工芸の品々。

なかでも、毎日の食卓を彩るうつわたちは、特に身近な存在のひとつ。

そんなうつわの原料について、深く考えたことはあるでしょうか?

職人の手によって作られていることはわかっていても、その手前の原料となる「土」は一体どこからやって来るのか。逆に、役目を終えたうつわはどこへ還るのか。

美濃焼の産地、岐阜県多治見で「土」をめぐる課題に向き合い、さまざまな取り組みを進めている株式会社井澤コーポレーションの代表 井澤秀哉さんに話を聞きました。

中川政七商店が新たに始動した「“工芸のしまいかた”を考える循環プログラム『C KOGEI(シー コウゲイ)』」を担当する羽端が聞き手を務めます。


枯渇しつつある、世界で唯一無二の奇跡の「粘土」

羽端:昨年、井澤さんたちが主催されている「土談(つちだん)」*というイベントに参加させていただいて、「土」が置かれている危機的な状況を知りました。「土」に対する課題はいつ頃から意識されていたのでしょうか?

※土談:地域の「土」に着目し、その価値や課題を共有しながら、次のものづくりの可能性を探るための新しいコミュニティ。土を知り、土を語り合い、土から学ぶことで、これからのものづくりや地域産業のあり方を考えることを目指す。

井澤:実は私も、2017年に鉱山会社の社長さんから「このままいくと陶磁器に使う『土』、特に『粘土』が枯渇する」という事実を教えてもらうまではまったく意識していませんでした。産地の中でもほとんどの人がそうだったと思います。

土が枯渇するとは誰も知らずに、どんどん掘っていた。そこで、まずはこの事実を産地の中でシェアしないといけないよねと。

今このあたりで掘られている「土」は、琵琶湖の6倍の大きさだったともいわれる「東海湖(とうかいこ)」が存在した時代のもの。その「東海湖」をひとつの産地として捉えると、萬古焼も瀬戸焼も常滑焼も美濃焼も、同じ「土」を使う仲間じゃん!となって、有志が集まりました。

それが「東海湖産地構想」。そして窯業に携わるすべての人に「土」の現状や課題、ポテンシャルを自覚してもらおうと始めたイベントが、羽端さんも参加してくれた「土談」なんです。

株式会社井澤コーポレーション 代表取締役 井澤秀哉さん。
うつわの製造販売からスタートした同社の四代目。雑貨マーケットへの参入や、陶磁器デザイン会社の設立など新たな試みを積極的に展開。「東海湖産地構想」や「セラミックバレー構想」など、「土」をコンセプトにした地域ブランディングの活動にも力を注ぐ。陶磁器という枠を超え、街の課題解決のために複合施設「THE GROUND MINO」を開発し、運営している。
「土」をコンセプトにした複合施設「THE GROUND MINO」 
街・窯業・料理人の3つの課題を解決するための、ショップやギャラリー、陶芸工房、シェアキッチンなどが入る。

羽端:実際に鉱山にも案内していただいて、最初はその規模感に圧倒されて。これだけたくさんの「土」があるのに枯渇するの?という感覚をもったくらいです。でも詳しく伺ってみると、そんなに単純な話ではないということが分かってきました。

中川政七商店 羽端

井澤:ひとつの鉱山から採れる土は、陶磁器用のものだけじゃないんですよね。どんな土でも焼けばそれなりに固まりはしますが、うつわ作りには適していない。陶磁器に最適な「土」となると、形状をキープする可塑性や耐火性が必要になる。

なかでも蛙目(がいろめ)、木節(きぶし)と呼ばれる「粘土」は、世界中探してもこの東海地区でしか採れない貴重なものなんです。陶磁器の「土」は、粘土・長石・珪石の3つの要素からできているんですが、ここに蛙目を少し混ぜるだけでも成形性が良くなる、いわば魔法の「粘土」なんですね。

マグマが冷えて風化した花崗岩が流れていった先に「東海湖」があったおかげでそこに堆積して。奇跡的なプロセスをふみながら何百万年もかけて醸成され、「粘土」へと変化していった。でも、それがこのままだと枯渇するという話なんです。

実際に案内していただいた、多治見の鉱山
かつて「東海湖」の一部だった鉱山にて
500万年前から600万年前とされる貴重な粘土層。蛙目や木節と呼ばれる「粘土」が採れる

陶磁器は、二度と「土」には還らない

羽端:「土」が枯渇してしまうということもそうですが、陶磁器は「土」に還らないというお話も聞いて、さらに驚きました。自然素材なので、それこそ庭に置いておけばいずれ「土」に戻るものだと、なんとなく思っていたので。

井澤:役目を終えた陶磁器の処理も、大きな課題のひとつです。多くの方が「土」に還るイメージを持たれていますが、高温で焼きしめた陶磁器が自然に「土」に還ることはありません。遺跡などで、一万年前の土器が出土しているのはそういうわけなんです。

自治体が回収してリサイクルする仕組みもありますが、現状は廃棄物として埋め立てられているもののほうが多くなっていて。埋立地のスペースを圧迫するだけでなく、微生物などの生物多様性を奪っていくことにもつながると、専門家も警鐘をならしています。

「土」は地球から窯業界に託された素材です。何百万年経っても「土」には還れないことを理解したうえで、「土」を扱い「土」を焼くという責任を、作り手は持たないといけない。ここに向き合わない限り、次の世代につないでいくことはできないと思っています。

「土」のことを語っていくと、自然と環境のことに繋がっていくと語る井澤さん

リサイクル(再利用)からサーキュラー(循環)へ

羽端:「THE GROUND MINO」の入り口に回収ワゴンがありましたが、美濃では、不要食器の持ち込み、回収が日常的におこなわれているんでしょうか。

電化製品やペットボトル、最近ではアパレルなども、回収が当たり前という感覚になっています。それと比べると工芸の世界はまだまだと感じるので、全国的にそうした機運が高まれば良いなと。

「THE GROUND MINO」入り口にある回収ワゴン。地域の人が不要なうつわを持ち込み、使用不可能なうつわは細かく粉砕してリサイクル陶器「セルベン」に。

井澤:美濃では、30年近く前から不要食器の回収・リサイクルの活動があり、不要食器を粉砕したリサイクル陶土(以下、「セルベン」)や、それを20%ブレンドしたリサイクル陶磁器の開発も行われてきました。

ただ、ものづくりを取り巻く状況が変化していく中で、リサイクルという言葉だけに捉われず、資源も含めた循環を意識した「サーキュラーエコノミー」へのアップデートが必要ではないかと話し合っているところです。

サステナブルやリサイクルという機能ばかりに価値を求めすぎるのもいけないというか。たとえば、「セルベン」を調合する割合が20%に満たなくて「リサイクル陶磁器」の定義から外れるとしても、3%でも5%でも、技術的なことも含め無理なく作りやすい調合で「サーキュラー」させていくほうが大事だと思っています。

羽端:なるほど。それぞれの状況に応じた循環をまず実践していくというか。そこにきちんと魅力や価値が生まれていくとなおよいですよね。

井澤:「東海湖産地構想」の仲間とともに、新たな商品の開発なども進めているところです。

また、この「GROUND MINO」を拠点にして、美濃の魅力につながるものを展示したり、地元の若手作家のうつわを販売したり。併設のキッチンスタジオで料理人の方々とコラボしつつ、うつわと料理の関係をみんなで学んだり。エンドユーザーさんに陶芸体験を通して土の価値をお伝えしたり。さまざまなことに取り組んでいければ。

「土」の問題を抜きにしても、全国の窯業の衰退は1990年後半から起きていて、今もその流れは止められていません。もし僕たちの構想がうまく機能した時には、ほかの産地にもその成功体験をシェアする活動ができたらいいなと思っています。

レストランなどのマーケット向けのうつわの展示(THE GROUND MINO)
土の特徴や魅力が伝わる展示もあり、ミュージアム的な側面も(THE GROUND MINO)
陶芸体験ができるスペース(THE GROUND MINO)
「東海湖産地構想」に参画している美濃焼の窯元「晋山窯ヤマツ」が開発した花器「Crunch vase(クランチベース)」。あえて粗く粉砕した「セルベン」を混ぜた独特の表情が人気(2023年グッドデザイン賞 受賞)
晋山窯ヤマツ株式会社 代表取締役 土本正芳さん。作り手として、ものづくりを循環させることと、消費者にとっての価値になることを両立させるために日々思考錯誤を繰り返している。

消費者も、「資源提供者」として工芸の担い手に

羽端:ちょうど、中川政七商店らしいサステナビリティについて議論していた時期でもあり、美濃の話は本当に興味深く、社内でも刺激になりました。

これまで、「日本の工芸を元気にする!」をビジョンに掲げて産地や作り手さんたちを支援してきましたが、工芸の始まりである「原料」を意識することは少なかったのが正直なところです。

陶磁器以外の商品もたくさん扱っている中で、まずうつわから「C KOGEI」をスタートさせたのは、井澤さんたち産地の方々が自ら課題解決のために発信されていたのが大きかった。昨年の夏から、実際に相談にも乗っていただいていました。

井澤:私たちもプロジェクトを進める中で、情報を産地内でシェアするだけでは、なかなか行動につながりにくいこともあります。中川政七商店さんが「C KOGEI」のような取り組みを始めて、やらなくてはいけないことだと言ってもらえると、まだ行動できていなかった産地の関係者が動き始めるきっかけにもつながっていくんです。ありがたいことだと思っています。

羽端:こうした取り組みをお客さまへどう伝えていくかなど、アドバイスがあればぜひお聞かせいただきたいです。

井澤:そうですね。私たちは最初に「消費者参加型のものづくり」だと伝えています。中川政七商店さんに、割れたり不要になったりした食器を持っていった時点で、そのお客さまはもう「資源提供者」なんです。

そうして受け取った資源を産地に返してものづくりをスタートさせる。お客さまが参加してくださってはじめて「サーキュラー」なものづくりが始まるんです。

羽端:なるほど、そして作り手を経て、再びうつわとなってお客さまの元に還ってくる。難しいことは考えずとも、工芸の担い手になっていけるんですね。

井澤:まだ使えるうつわに関しては、金継ぎなどをして再販もできますよね。

そこにも次の価値が生まれる余地があるなと思っていて。たとえば、古い産地の食器に現代のアーティストが絵を描くと、今までにない面白さが生まれる。一万年以上持つ素材ですから、世代を超えてリメイクしていく面白みが残っていくと思うんです。

羽端:何百万年前の奇跡の「土」で作ったうつわを、現在の私たちが使っているという時点でロマンを感じています。それに手を加えて100年後に誰かの手に渡り、さらに手を加えてずっと継ぎ足されていく。ものづくりの循環に、すごくポジティブに向き合えそうな気がします。

100年単位で遊ぶつもりで「サーキュラー」していく、そんな当たり前の未来を、皆で作っていきたいと思います。本日はありがとうございました。

廃棄される陶器を美濃で粉砕したリサイクル陶土「セルベン」で作った庭

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「“工芸のしまいかた”を考える、 循環プログラムC KOGEI」

文:石田多美
写真:阿部高之

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