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江戸友禅とは

洗練されたデザインの特徴と歴史

江戸友禅

江戸友禅の基本情報

江戸友禅は、東京都を産地とする友禅染。東京手描友禅、東京友禅の名でも知られ、京都の京友禅、金沢の加賀友禅と並び、三大友禅の一つとされる。

江戸時代の町人文化の粋や侘びの影響を受けて発展し、都会的とも言うべき洗練された洒脱なデザインが特徴だ。

余白部分の多いすっきりとした構図で、色数少なく渋めの色も好んで使われる江戸友禅。全体的に藍や白を効果的に用いて、さっぱりとした色使いでに仕上げられる。一方、模様の一つひとつが比較的大きく絵画的な図柄の京友禅は、色数も多く箔や金銀粉などの加飾が施された華麗さが特徴。同じ友禅でも対照的だ。

また、渋い色と合わせて糊を置いて白く抜いた部分をそのまま生かす「白上がり技法」を使う傾向にある。その特色が生かされ、配色に冴えをみせる色留袖、付け下げに逸品が多いといわれる。

こうしたデザインの江戸友禅を代表するものとして、黒地の着物の裾まわりに模様を描く江戸褄 (えどづま) がある。もっとも粋な色とされた黒地に艶やかな図柄を裾まわりにのみ描く着物は、地味と派手の両方をあわせ持つ粋の最たるものとされた。

江戸褄の図柄はのちに黒留袖へと受け継がれ、現代においても既婚女性の第一正装として着用されている。

  • 主な産地

    東京都

ニューヨークやロンドン、パリなどと並ぶ大都市東京。都会でありながら、この地にも庶民生活の中に育まれた工芸品があります。

その一つが「江戸友禅」。江戸っ子の「粋」の感性で磨かれ、三大友禅の一つにも数えられる江戸友禅の特徴と歴史を紹介します。

江戸褄
黒留袖「蹴鞠図」
江戸褄
江戸時代に製作された江戸友禅「藍鼠縮緬地松原に網干千鳥文様染繍小袖」 (京都国立博物館) 藍鼠色の縮緬に、千鳥に網、松林を配す江戸褄。千鳥は糊置き白上げ。 出典:ColBase (https://colbase.nich.go.jp)

ここに注目。都心で生まれる江戸の美

江戸友禅の工房の多くは、新宿・早稲田に集中している。

染物には水が欠かせないため、江戸時代に染物が始まった当初は日本橋、神田地区などに多くの染師が店を構えていた。のちに、越後屋呉服店 (現在の日本橋三越) が日本橋に開店し、その染工場が神田川の上流である現在の新宿区早稲田のあたりに造られた。これを機に、多数の染師たちがその周辺に移り住み、今も江戸友禅の染師がこのエリアでその技術を継承している。

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江戸友禅・京友禅・加賀友禅 それぞれどう違う?

三大友禅と呼ばれる、江戸友禅、京友禅、加賀友禅。その違いを見ていこう。

通説として、京友禅は絵画的な柄模様による「はんなり」、加賀友禅は紅を中心とした加賀五彩と呼ばれる基本色の濃淡を活かす「華麗」、江戸友禅は「粋」と「洒脱」と表現される。

京友禅
絵画的な京友禅。東京国立博物館所蔵「京友禅技術記録(1)一越縮緬地友禅訪問着・歓喜」 出典:ColBase (https://colbase.nich.go.jp)
加賀友禅
加賀五彩の濃淡を活かす、華麗な加賀友禅

色数を競った京友禅、加賀友禅に対し、江戸友禅は生地色は単彩であくまでも地味に抑え、その上にすっきりと「粋」の表現を追求している。一見地味な背景に明るい色彩でデザインを施すその上品なコントラストが魅力となっている。

生産工程においては、京友禅、加賀友禅が表現が大掛かりになり分業化が進んだのに対して、江戸友禅は、下絵から仕上げまでを1人の職人が一貫して行う。

江戸時代に生まれた手描き友禅に加え、型紙を用いて大量生産ができる型紙友禅という技法が明治期に誕生し、現在の友禅の多くはこの2つの技法を表現によって使い分けながら作られるが、江戸友禅は今も手描きにこだわり続けている人が多い。

東京を代表する染め「江戸友禅」と「江戸小紋」

江戸っ子の愛した「粋」が詰まった東京の染物として、もう一つ忘れてはならないのが江戸小紋だ。

江戸小紋は、江戸時代に武士の裃として用いられ発展した。細かな模様を伊勢型紙を用いて染める。一色染の淡彩で、柄は細かいほど価値があるとされ、一見無地のように見えるが近寄れば精巧な技が光る。品格のある精緻さが特徴となっている。

手描き染めの江戸友禅、型染めの江戸小紋、いずれも江戸の地ならではの感性が生み出した染物といえる。

江戸小紋の着物
江戸小紋の着物


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江戸友禅の歴史

京友禅、江戸友禅の起こり

友禅の起こりは貞享・元禄年間 (1664年〜1704年) とするのが通説である。創始のキーパーソンと言われる宮崎友禅斎が友禅染の名前の由来となっている。

京都に端を発した友禅は次第に江戸に伝わり、大名はお抱えの染め師を江戸に住まわせ、技術を競わせた。染色には水が必要不可欠であるため、染師の多くは神田川流域を中心に浅草見附、日本橋に住んでいた。

1673年に日本橋に越後屋呉服店 (現在の日本橋・三越) が開店すると、その染工場が神田川上流域の高田馬場付近に造られ、多くの染師や染物関連の職種に携わる人達が移り住み、現在もこの地域が産業の中心となっている。

江戸時代に何度も発令された倹約令や美服禁止令により、金糸や色糸を用いた豪華な刺繍や、金・銀箔を重ねる装飾法が禁じられ、そうした技法を使わずに美しい模様を表す方法が模索される中で友禅は流行し、発展を遂げた。文化・文政年間 (1804年〜1830年) に江戸友禅は最盛期を迎える。

江戸友禅の多様化

文化の担い手が大名から町民に移った江戸時代後期、粋や侘びといった感覚が広まり、豪華絢爛な模様から品の良い単彩模様が江戸友禅の主流に。こうして今に受け継がれる江戸 (東京) の手描き友禅のスタイルが確立した。一見地味な背景模様の中に「粋」な表現を重ねるコントラストがたちまち評判となり、多くの職人を輩出した。

現代の江戸友禅

関東大震災や東京大空襲の影響により多くが焼失してしまった東京。復興を契機に、江戸友禅は東京の地場産業として、目覚ましい発展を遂げた。

1962年、東京の手描友禅染の専業者が集まり「東京都工芸染色協同組合」を設立。1980年には「東京手描友禅」の名前で国の伝統的工芸品に指定された。



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江戸友禅 基本データ

素材


代表的な技法

・糸目友禅
・蝋纈染 (ろうけちぞめ)
・無線描 (むせんがき)


数字で見る江戸友禅 (東京都工芸染色協同組合)

・出荷額:220百万円

・従事者数:50人

・組合員数:44人

参考

・鈴木章生 監『江戸の職人 その「技」と「粋」な暮らし』プライム涌光 (2003年)
・鈴木裕子 著『女職人になる』アスペクト (2005年)
・滝沢静江 著『着物の織りと染めがわかる事典』日本実業出版社 (2007年)
・立松和平 著『きもの紀行 染め人織り人を訪ねて』家の光協会 (2005年)
・出山健示 著『匠の姿 VOL.1 衣』二玄社 (1999年)
・丸山伸彦 監『産地別 すぐわかる 染め・織りの見わけ方』東京美術 (2002年)
東京文化財研究所 公式サイト
http://www.jtco.or.jp/日本伝統文化振興機構 公式サイト

(以上サイトアクセス日: 2020年7月25日)