日本の生薬を食やコスメに。新たな奈良土産「大和生薬」とは?

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大和生薬

これからの季節、体のあたためにも活躍する生姜(しょうが)など、人がその成分を暮らしに活かしてきたのが「生薬 (しょうやく) 」。いわば天然の薬です。

白く美しい花を咲かせる大和当帰 (読み方) の花。生薬に長らく使われて来た一種です
白く美しい花を咲かせる大和当帰 (やまととうき) の花。生薬に長らく使われて来た一種です

生薬のルーツでありメッカなのが、奈良です。

日本で初めての生薬採取は、奈良が舞台。飛鳥時代の女帝、推古天皇が薬狩りをしたと『日本書紀』に記されています。

さらにシルクロードの終着点でもあり、大陸から古代医療が伝わったことで、寺院では治療薬の施しが行われ、薬草が栽培されるようになりました。

江戸時代には質の高い「大和生薬」を栽培する薬草園がいくつもあり、奈良は生薬栽培の中心地であり続けました。

まさに「ルーツでありメッカ」の地。そんな奈良で今、数百年の時を経て再び生薬を活かしたさまざまなアイテムが開発され、注目を集めています。

「くすりの町」が町ぐるみで手がける大和生薬の商品とは?

奈良県高市郡高取町(たかとりちょう)は、推古天皇が薬狩りをした地。そして全国に奈良生まれの「大和生薬」を広めてきた「くすりの町」として知られます。

高取町の様子
高取町の様子
「夢創舘」の奥にある「くすり資料館」
「夢創舘」の奥にある「くすり資料館」
「くすり資料館」では昔のレトロなパッケージを展示する
「くすり資料館」では昔のレトロなパッケージを展示する

そんな高取町が今、町ぐるみで大和生薬を使った商品の開発に取り組んでいます。

「始まりは大和当帰(やまととうき)の薬湯のヒットです」と語るのは、高取町観光協会会長の吉田浩司さん。

高取町観光協会会長の吉田浩司さん
高取町観光協会会長の吉田浩司さん

大和当帰は大和生薬の代表格で、古来より伝わる薬草です。

大和当帰
大和当帰

冷え性や貧血に効くとされ、古くから「血の道を良くする薬草」として重宝されたもの。

この大和当帰の葉を入浴剤にしたのが「大和当帰の湯」。

お風呂にサッと入れるだけ。独特の爽やかな香りが広がって、
古代から続く薬湯気分を手軽に味わえます。

大和当帰の湯。レトロなパッケージは町の資料館に残る商標を参考にしたもの
大和当帰の湯。レトロなパッケージは町の資料館に残る商標を参考にしたもの

歴史ロマン感じるデザインで、奈良土産としても喜ばれています。

町はヒットを受けて大和生薬を使った商品を次々とリリース。

高取町で作られている大和生薬の商品たち。大和当帰など和洋ハーブを、朝、昼、夜のシーンに合わせてブレンドした「やまと健やか茶」や、ハーブエキス配合の「喉太郎飴」など
高取町で作られている大和生薬の商品たち。大和当帰など和洋ハーブを、朝、昼、夜のシーンに合わせてブレンドした「やまと健やか茶」(写真上)や、ハーブエキス配合の「喉太郎飴」(写真左下)など

そのうちの一つ、「香塩(かおりじお)」は大和当帰の葉をふんだんに使った和のハーブソルトです。

当帰葉入り香塩
当帰葉入り香塩

オレガノや岩塩などとブレンドした豊かな香味は食欲をそそるだけでなく、毎日の食事で簡単に「薬膳」を取り入れることができます。

「肉や魚などいろんな料理のアクセントに使えます。サラダにふりかけて香りづけにしても。大和当帰を初めて知る人にも使いやすい商品です」と語るのは、「香塩」を開発し、町内で大和当帰の生産・販売を手がける「ポニーの里ファーム」の保科政秀さん。

栽培が難しく手間がかかる大和当帰を、農薬を使わず丁寧に栽培し、手摘みで収穫しています。

 

高取町にある「ポニーの里ファーム」
高取町にある「ポニーの里ファーム」
「ポニーの里ファーム」の保科政秀さん
「ポニーの里ファーム」の保科政秀さん

無農薬で高品質。希少な大和当帰の復活にかける思い

実は今、日本で使われる生薬のほとんどは安価な中国・韓国製。

「当帰」も例外ではありません。理由のひとつに収穫までの期間の長さがあります。

大和当帰は、種を蒔いて苗ができるまで1年かかります。漢方の材料となる根の収穫は2年目の冬か翌春。さらに葉に育つまでは、早い葉モノなら半年で収穫できるのに対し、2年を要します。

大和当帰の種
大和当帰の種

「僕が関わり始めた5年前は、大和当帰の存在を知る人すら少なかった」と保科さん。

歴史ある生薬ながら、作る人がいない。それが現状でした。

しかしこれまで根のみ生薬として利用されてきた大和当帰が、2012年から薬事法の緩和で、葉を食品として扱えるように。

これを受けて、伝承の薬草を特産として復活させようと奈良県が推進プロジェクトをスタート。採算性が上がったことから、日本の製薬会社も質の良い大和当帰に着目するように。

高取町はこの追い風を受け、「大和当帰をもっと多くの人に知ってほしい」と町ぐるみで栽培、開発を重ねてきました。今、その結果がさまざまな商品として実を結び、少しずつ注目を集めています。

たくましく育った2年もの、3年ものの大和当帰葉の栽培、加工を担当している保科さん。「蒔いた種が育ってきましたね」
たくましく育った2年もの、3年ものの大和当帰葉の栽培、加工を担当している保科さん。「蒔いた種が育ってきましたね」

「無農薬で“生まれも育ちもホンマもん”です」と保科さんは胸を張ります。

大和生薬をコスメにも!

「大和生薬はコスメにも優秀なパワーを発揮します」

こう語るのは、日本産の素材を活かしたヘルス&ビューティブランド「THERA(テラ)」の代表、橋本真季さんです。

株式会社ALAMBLA代表の橋本真季さん。
株式会社ALHAMBRA代表の橋本真季さん。

「THERA(テラ)」では日本人が古来より持つ文化や思想、漢方などの考え方に基づき、大和生薬などの自然由来原料を配合した、心身を内側から整える商品を展開しています。

THERAシリーズの商品。上から時計回りに、保湿クリームのマルチバーム、洗顔料の酵素のあらい粉 あお、化粧油のロールオンプレスオイル アロマイン
THERAシリーズの商品。上から時計回りに、保湿クリームのマルチバーム、洗顔料の酵素のあらい粉 あお、化粧油のロールオンプレスオイル アロマイン

実は橋本さんは奈良生まれ。

かつては奈良から広い世の中に飛び出したくて海外へ。オーガニックコスメの仕事に携わるように。

ところが欧米のハーブ文化を学ぶにつれて、日本のハーブのストーリーを知りたくなったそう。

「すると調べれば調べるほど、始まりは奈良でした」

正倉院には約1300年前の薬物や、最古の香木も残ります。

世界へ出た橋本さんは、後にしたはずのふるさと奈良で日本人の心身に本当に合う和のハーブ、大和生薬に出会い、THERAシリーズを立ち上げたのでした。

そんなTHERAの洗顔料「酵素のあらい粉 あお」には、大和当帰葉の粉末や奈良・曽爾村の米ぬかが配合されています。ダブル洗顔は不要で、洗い上がりはしっとりつるつるになるそう。

他にも美肌効果があるとされる芍薬の成分を活かした、チークにも使える口紅「日本美人紅」なども。

芍薬の花
芍薬の花

「奈良は日本のヘルス&ビューティ発祥の地。ここから素晴らしい生薬の美をお届けしていきたいです」

古代日本のヒーロー、ヤマトタケルは「倭(奈良)は国のまほろば」、最も良いところだと称えたと、『古事記』に伝わります。その奈良は生薬のまほろばでもありました。

今、その魅力に気づいた人たちの手で、再び今の暮らしに息づこうとしています。


<企画展のお知らせ>

「大和生薬」の商品が展示販売される企画展が開催されます。

企画展「大和生薬の食とコスメ」

日時:10月9日(水)〜11月12日(火)
開催場所:「大和路 暮らしの間」 (中川政七商店 近鉄百貨店奈良店内)

https://www.d-kintetsu.co.jp/store/nara/yamatoji/shop/index02.html

大和路

<取材協力>
高取町観光協会
奈良県高市郡高取町上土佐20-2 高取町観光案内所 夢創舘
0744-52-1150

ポニーの里
奈良県高市郡高取町丹生谷883-6
0745-67-0104
http://ponynosatofarm.shop-pro.jp

株式会社ALHAMBRA
奈良県奈良市南半田中町17-2(奈良支店)
0742-23-5867

*企画展の開催場所「大和路 暮らしの間」について

中川政七商店 近鉄百貨店奈良店内にある「大和路 暮らしの間」では、奈良らしい商品を取り揃え、月替わりの企画展で注目のアイテムを紹介しています。

伝統を守り伝えながら、作り手が積み重ねる時代時代の「新しい挑戦」。

ものづくりの背景を知ると、作り手の想いや、ハッとする気づきに出会う瞬間があります。

「大和路 暮らしの間」では、長い歴史と豊かな自然が共存する奈良で、そんな伝統と挑戦の間に生まれた暮らしに寄り添う品々を、作り手の想いとともにお届けします。

この連載では、企画展に合わせて毎月ひとつ、奈良生まれの暮らしのアイテムをお届け。

次回11月は、「広陵町の靴下」の記事をお届けします。

文:園城和子、徳永祐巳子
写真:北尾篤司 写真提供:株式会社ALHAMBRA

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