【旬のひと皿】里芋の共和え
みずみずしい旬を、食卓へ。
この連載「旬のひと皿」では、奈良で季節の料理と玄挽きの蕎麦の店「だんだん」を営む店主の新田奈々さんに、季節を味わうエッセイとひと皿をお届けしてもらいます。
顔を近づけ、里芋の面取りをしているとハッとした。
自分の爪が父にそっくりのかたちで、そこに父がいるような感覚になったのです。
爪や手が似ていると思ったのは、父が亡くなってから昔の写真を見返したとき。姿は見えずとも、自分のかたちに父が残っていることに喜びを感じました。
毎年この時期になると干し柿を一緒に作るのが恒例で、柿の皮を剥いている写真を記録していました。その手元を、知らずと覚えていたのですね。
今も生きていれば聞きたいことがたくさんあったなとも思うのですが、自分の記憶と、そして身体にまだ生きているのは心強く、温かい気持ちになったのです。
先日、いろんな方からずっとおすすめしてもらっていた、日本料理のお店へお伺いしてきました。
お父様と娘さんがお二人で切り盛りされるそのお店。外にはきれいな暖簾がかけてあり、一歩入ると店内は隅々まで清潔に磨き上げられている。カウンターはカーブ状にしつらえてあり、棚には漆のお椀やお膳がすっきりとならんでいます。35年続けてこられた時間の織り成す美しさを感じました。
大将は「僕はどこでも修行していません。本を参考にしながら、自分で毎日、一つでもどこかを向上させようと思って仕事に向かっています」とお話してくださいました。
一週間かけて蜜煮にされた花豆や、炭火焼の舞茸が入った澄んだ味のお汁には、ピカピカの銅鍋で丁寧に作られた蕎麦がきが浮かびます。数日たっても忘れられない、どれもシンプルで透き通った味をしたお料理でした。
「僕の料理はおばあちゃんの料理」とおっしゃっていた大将。
家族のために、手間暇かけて料理をしていた少し前の時代。それは不便もあったけれど、身体にも心にも豊かな時間だったのかもしれません。代々続く伝承料理にも本当に感動しました。
帰り際にお見送りしてくださった大将がこうおっしゃいました。「お客さんの喜んでいる顔を見るのが僕、だーいすき!」と。
おばあちゃんも、料理人も、みんな気持ちを込めて料理をしている。その食事が、食べる人のパワーにもなって、また頑張れる。大将に父の姿も重なって、もう一度、父のやさしさに触れられたような気持ちになりました。
仕込みのときの父の姿。大将がくれたあたたかい言葉。料理を食べるのは、一日のなかで長い時間ではありません。けれどその記憶は、永く自分に残っていく。そんな、大切なことに気づかされた日になりました。
<里芋の共和え>

材料(2人分)
・里芋…6~8個
・春菊…1束
・かつお節…2掴み
・白炒りごま…少々
・砂糖…小さじ1
・みりん…小さじ1
・醤油(お好みで)…小さじ1/2
・出汁…適量
今回ご提案するのは、里芋を里芋で和える「共焼き」。むいた皮は捨てずにサクサクのガレットとして食べられるよう、おまけのレシピも用意しました。

作りかた
鍋に湯を沸かして塩(分量外)を入れ、春菊をサッとゆでる。茹でた春菊は冷水にとり、水気を絞っておく。

里芋の皮をむいて半分に切る。鍋にたっぷりの水とともに入れ、水から下茹でする。3割程度まで火が入ればOK。米のとぎ汁があるときは一緒に入れると、ぬめりやアクが取れやすくなるのでおすすめ。

里芋を煮ている間に春菊を食べやすい大きさに切っておく。茹であがった里芋をザルにあげる。


鍋に里芋を入れ、出汁を里芋の半量程度のかさまで注ぐ。砂糖、みりんを入れたら落し蓋をし、少し煮て味をなじませる。

煮ながら味をみて、お好みで醤油を足しさらに煮詰める。味がぼんやりするなと感じた場合は味噌を少し足すと、味が引き締まるのでおすすめ。煮汁が少なくなったら、里芋の半量を軽くつぶす。

火を止めて鍋に春菊を入れ、軽く和える。うつわに里芋と春菊をバランスよく盛り付け、かつお節とごまをかけて完成!


おまけのレシピ「里芋の皮のガレット」

里芋の皮をよく洗って水けをふき、千切りする。片栗粉・米粉 各小さじ2、水小さじ1と一緒に入れてさっくりと絡める。

フライパンを熱しやや多めの油をひいたら、先ほどのタネを丸く入れて揚げ焼きにする。

片面がカリッと焼けたら裏も同様に焼く。焼き上がった生地はピザ切りで6等分し、小ねぎを入れたぽん酢につけていただく。

うつわ紹介
里芋の共和え

・【WEB限定】明山窯 HIJICA シリアルボウル14cm ダークグレー
里芋の皮のガレット

写真:奥山晴日
料理・執筆

だんだん店主・新田奈々
島根県生まれ。 調理師学校卒業後都内のレストランで働く。 両親が母の故郷である奈良へ移住することを決め、3人で出雲そばの店を開業する。
野に咲く花を生けられるようになりたいと大和未生流のお稽古に通い、師範のお免状を頂く。 父の他界後、季節の花や食材を楽しみながら母と二人三脚でお店を守っている。
https://dandannara.com/