3つの人気ローカルショップ店主が明かす、お店の作り方、「好き」の伝え方

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地方都市で魅力的なお店を開いている3人からお店づくりの秘訣を伺う、トークイベントレポート第2話。

「人が集まるローカルショップのつくり方」と題して開催されました
「人が集まるローカルショップのつくり方」と題して開催されました

3人それぞれの「お店をはじめたきっかけ」を伺った第1話から、話はお店づくりの核心とも言える、商品の仕入れ方や空間づくりの話へ。

印象的だったのが、3人それぞれの「好き」との向き合い方でした。

300年以上続く漆器メーカーの跡継ぎとしてUターンした、福井県鯖江市『ataW (アタウ)』関坂達弘さん
300年以上続く漆器メーカーの跡継ぎとしてUターンした、福井県鯖江市『ataW (アタウ)』関坂達弘さん
以前さんちでも取材したataW (アタウ)
縁もゆかりもない丹波篠山に移住して、お店を開いた『archipelago (アーキペラゴ) 』小菅庸喜さん
縁もゆかりもない丹波篠山に移住して、お店を開いた『archipelago (アーキペラゴ) 』小菅庸喜さん
archipelago
archipelago (アーキペラゴ)
蔦屋書店の六本松店の中にお店があるというユニークな業態で、地元福岡で、地域に根ざした独自のお店づくりをしている『吉嗣 (よしつぐ) 商店』の吉嗣直恭さん
蔦屋書店の六本松店の中にお店があるというユニークな業態で、地元福岡で、地域に根ざした独自のお店づくりをしている『吉嗣 (よしつぐ) 商店』の吉嗣直恭さん
localshop 吉嗣商店
吉嗣 (よしつぐ) 商店

司会:「ここからは、4つのテーマに分けてお話を伺っていきたいと思います」

司会を務めた中川政七商店の高倉泰
司会を務めた中川政七商店の高倉泰

「1つ目が『人が集まるお店をつくるには』。2つ目が『ローカルショップって儲かるの?』、3つ目が『地域と作る、ものづくり』、4つ目が『これからのこと』です」

イベントレポート第2話は「人が集まるお店をつくるには」「ローカルショップって儲かるの?」からレポートをお届けします!


*3人がお店を始めたきっかけを語った第1話はこちら:「自分のお店を持つという人生の選択。3つの人気ローカルショップ店主の場合」

仕入れ、どうしていますか?
ataW 関坂さんの場合:「大事なのはまず、自分が好きかどうか。売れないことを、もののせいにしないこと」

3人の中で唯一店舗運営の経験を持たずにお店を開いたのが、「嫌々ながら」Uターン、から思いがけずお店づくりが始まった、ataWの関坂さんです。

ataW関坂さん

仕入れはビジネス的な「売れる・売れない」ではなく、関坂さんならではの2つの視点で行なっているといいます。

関坂:「僕はもともとお店で働いた経験もバイヤーとしての実績も一切ありません。本当にど素人からスタートしたお店なんですね。

それで、もともと学んでいたデザインの視点で何か面白いアイデアがあったり、作り方がユニークなものを選ぶようにしてきました。

本業はメーカーなので、ものづくりのヒントや刺激になるようなものも、積極的に仕入れています」

例えばこれ、と関坂さんが紹介したのがこちら。

流木に刺したピンの頂点を線で繋ぎ、面で全体を覆うことでもう1つの外皮を制作したオブジェ「Crust of the polygon_流木01」
流木に刺したピンの頂点を線で繋ぎ、面で全体を覆うことでもう1つの外皮を制作したオブジェ「Crust of the polygon_流木01」

「ただの流木だったものが、線をつなぐことで全く違ったものとして立ち現れるという作品です。

作り手である寺山紀彦さんの作品が僕はもともと大好きで、お店を始める時に、最初に取り扱いを決めました。

きっと『こういうものが、売れるんですか?』って思われると思うんですけど、実は仕入れ始めてからずっとレギュラー商品として扱っています。

リピートで買うというものでもありませんし、万人ウケするタイプのものでもありませんが、特定の層の方に、細く長く支持されているという印象ですね」

立ち上げから今にいたるまで、仕入れの時に大事なのは「自分が好きかどうか」。結果としてよく動くもの、あまり売れないものとあるそうですが、関坂さんの考え方はとてもシンプルです。

「売れる、売れないよりも、その作家さんのものづくりや考え方に共感して仕入れたものが、結果として売り上げに繋がるのが、お店としては何より嬉しいです。

だから何かを扱うときは、あまり短いスパンで見ないようにしていますね。

短期間で見て売れないと、もののせいにしてしまいがちなんですけど、それはしたくないと思って。

まだお店を始めて3年ちょっとですが、新しくものを扱うときは、1、2年とか長いスパンで考えるようにしているんです。

その上で、良さがちゃんと伝わるように力を注げばいい。ディスプレイを変えたり、発信の仕方を工夫したり」

この話に、強く共感、と応えたのが小菅さんです。

仕入れ、どうしていますか?
archipelago 小菅さんの場合:「作り手へのお声がけは、相手と心中するような気持ち。基準は愛せるか、どうか」

「小さなお店なので、潤沢な予算があるわけでもないですし。どうせ関わるなら、長くお付き合いしたい、より関係性を深めていきたいという思いがありますね」

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店内の様子

「だからパッと見て、かっこいいな、素敵だなと思っても、お声がけするまでにはたぶん、普通のお店さんより時間がかかっていると思います。

使ってみての感覚や、ものが生まれる現場や作っている人のことを、時間をかけて知っていくんです」

お店のロゴ。archipelagoとは、多島海という意味だそう。奥さんと2人、手漕ぎボートで島々を渡るように、必ず作り手を訪ねて仕入れをするそうです。「島々で僕たちが感じた雰囲気も含めて、ボートに荷物を積んで自分たちの港に持ち帰る。そこで風呂敷を広げて小さな市場を開いているような感覚で、お店をしたいですね」
お店のロゴ。archipelagoとは、多島海という意味だそう。奥さんと2人、手漕ぎボートで島々を渡るように、必ず作り手を訪ねて仕入れをするそうです。「島々で僕たちが感じた雰囲気も含めて、ボートに荷物を積んで自分たちの港に持ち帰る。そこで風呂敷を広げて小さな市場を開いているような感覚で、お店をしたいですね」

「世間一般の尺度でいうと、売れる・売れないという考えはもちろんあると思います。でも、それは僕らと作り手との関係性を測る尺度とは、別の話かなと思って。

彼らが何ヶ月もかけて品物を作ってくれていることをわかった上で、仕入れる覚悟ができているかどうか。なぜその品物を扱うのか、お客さんにきちんと意思表明ができているか。

だから作り手にお声がけする場合は、それこそ相手と心中するような感覚ですよね (笑)

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でも、そうやって僕らがお店を通して意思表明をきちんとやって行くと、受け取った人がお客さんになってくれて、そういうお客さんがまた、長い目で見るとお店を育ててくれるように思います」

「だから選ぶ基準は、まず自分が覚悟を持って愛せるか、ですね」

やはりみなさん、自分でお店を開くだけあって、ものに対する愛情は人一倍。

そんな、ものを好きになる、興味を持つ「きっかけづくり」をお店のテーマにしていると語ったのが、吉嗣商店の吉嗣さんでした。

仕入れ、どうしていますか?
吉嗣商店 吉嗣さんの場合:「興味の入り口としてのお店づくり。定石はあえて行わない」

吉嗣:「私は20年近く、ファションを仕事にしてきたのですが、ある時期から路面店が目に見えて減っていって、アパレル業界にとって厳しい時代と言われるようになりました」

吉嗣商店

「ところが一時期別の仕事をやっていた時に、専門外の色々な人に話を聞くと、どうやらファッションへの興味が減ったという訳でもなさそうだったんですね。

『魅力的なものが置いてあるお店があれば、買いに行きたい。でもなかなかそういうお店に出会いにくい』という。

一方で本屋さんって、自分だけかもしれないですけど、とりあえず何か探しに行こうかな、みたいな場所だと思うんです。ふらっと気軽に行ける。

「実際に今の吉嗣商店がある六本松蔦屋書店にも、多くのお客さんがいらっしゃいます。うちのお店のことは特に知らずに、ふらっと立ち寄られる方も多いです。

そういう何気なくアクセスできる場所で、例えば『自分の好きなファッションはこれ』が見つかるような、新たな興味の入り口を、提案できる空間になれたらいいなと思って、お店づくりをはじめました」

商品のセレクトは、一般的なアパレルショップや雑貨店の「定石」をあえて行なっていないそう。

「例えば冬時期だったらコートとかブーツとか、ずらっと面で揃えるのが定石なんですけど、うちのお店ではほぼ、それはやっていないんです。

シーズンで多少は変えますけど、基本的には着心地の良いカットソーだけとか、半袖・長袖だけとか。あくまで、切り口だけを用意します」

吉嗣商店
吉嗣商店

「そこで気に入ったブランドがあれば、今はお客さん自身が簡単に調べる方法がたくさんありますからね。

まずは小さな『好き』を提供できたらいいなという思いで品揃えをしています」

また、きっかけづくりのひとつとして「九州出身の作り手」「九州初上陸」のものも積極的に取り扱いしているといいます。

「例えば、東京のようにある程度の都市圏にあるお店では品揃えが豊富にある作家さんでも、『東京までなかなか行く機会がない』とか。逆に、地元の作家さんでも『気になるけれど、なかなかお店を訪ねて入っていく勇気がない』という人もいると思うんです。

そういった人でも気軽に手に取れる機会を提供できたらと思って、企画を組んだりしています」

福岡在住若手アーティスト「PEN PUBLIC」さんの企画展
福岡在住若手アーティスト「PEN PUBLIC」さんの企画展

実は吉嗣さん、この多くの人がやってくる環境を、作り手さんにも機会として還元しています。

商品を手がけたデザイナーさんや作家さんに声をかけて、一緒に売り場に立ってもらったり、お客さんの声を直接聞いてもらうようにしているそうです。

「私自身、お店を開いてみたら予想よりも上の世代のお客さんが多く来てくれて、それで仕入れるものを少し方向転換したりという経験がありました。

やっぱり現場に入ってみないとわからないことって多くあるので、自分でもできるだけお店に立つようにして、お客さんの状況は常に見るようにしています」

ここで対照的で面白かったのが、ataWの関坂さんのお話。ここから話題は、お客さんとの向き合い方や、空間づくりの話に移っていきます。

お客さんとの向き合い方、どうしていますか?
ataW 関坂さんの場合:「自分は店頭に立たない。『30歳分のギャップ』が、思わぬ効果も」

関坂:「実は僕自身は、店頭に立っていないんです。お店は僕の妹と母の2人に任せています。

彼女たち自身、デザインやこういうプロダクトに対する知識や理解は一切無いところからスタートしました」

ataW関坂さん

現在、妹さんは30代、お母様は60代とのこと。このギャップが、「たまに、うまく働いてくれるときがある」のだそう。

「全体としてうまくいっているかは、わからないのですが、お客さんの層が幅広いんですね。

20代くらいのすごく若い方も来てくれるし、一方で60代、70代くらいの方がきて、思いがけないものを買っていってくれることがあるんです」

例えば、と例にあげてくれたのが、奈良のbenchというブランドの「BENSAN」というサンダル。ベンサン、つまり便所サンダルです。

こうした商品の撮影も、関坂さんが妹さんにイチから教え込み、少しずつ腕を鍛えていったそうです
こうした商品の撮影も、関坂さんが妹さんにイチから教え込み、少しずつ腕を鍛えていったそうです

実は奈良県は国産便所サンダルの主要産地。そんな地元の良品を知ってもらいたいと誕生したのが、本来のベンサンのはき心地を活かしつつデザインをアップデートした、このbenchの「BENSAN」だそう。

「最初はみんな、え、便所サンダル?っていうんですけど、商品自体の知名度も上がって来たのか、最近は本当によく売れています。ご高齢の方も買っていってくれたり」

先ほど関坂さんが言っていた「考え方に共感して取り扱いをはじめたものが、結果的に売り上げに繋がるのが一番嬉しい」という、まさに好例。

関坂さんが惚れ込んで仕入れたものを、年代も違う、アートやプロダクトデザインが専門でないご家族のお二人が、フラットな視点で店頭に立って扱うことで、デザインやプロダクト好きだけに絞られない、地域の方も気軽に買い物しやすい環境が生まれているのかもしれません。

一方、来る人が自然と絞られるんです、と語るのはarchipelago小菅さん。

お客さんとの向き合い方、どうしていますか?
archipelago 小菅さんの場合:「わざわざ来てくれたお客さんの、心地よい居場所・逃げ場所をどう作るか」

小菅:「お客さんにはおこがましいんですけれど、うちのお店は本当に、わざわざ来ていただくような場所にあるんですね。決して入りやすいお店でも、ないと思います。

そうするといらっしゃる方は自然と、うちのお店に何か興味や意思を持って来てくださる方の割合が多くなる。

だからせっかく来ていただいたなら、どうやって満足して時間を過ごしていただくか、ということを、とても意識しています。

archipelago

この仕事ってお店で買われていくものと、買ってくれたお客さんの、その後の「人生」に関与する仕事だなと思っていて。消費を促す仕事だからこそ、ものとの出会いをどういう風に体験いただくのかは、責任を持ってやりたいなと思うんです。

なかなか来づらい場所に、例えば建築を勉強している学生がドキドキしながらやって来て、あまりに高価な商品ばかりで買えるものがなかったら、ちょっとしょんぼりすると思うんです。

逆に何か買い物ができたらその体験って、ちょっとお店と何かを分かち合えたような、嬉しい気持ちになるんじゃないかなと思って。

だから取り扱う品物は、選ぶ基準は共通していますが、価格帯は幅広いです。

4万、5万円する洋服もあれば、1000円くらいのお箸や300円くらいの箸置きや、お土産に買って帰れるクッキーを置いたりもしています」

archipelago

「それと、ゆったり店内を見ていただくには、お客さんの『逃げ場』も大切ですね。

お客さんが一人でいらっしゃって、お店に入ってみたら僕と妻がいて、同じ空間に2対1、という時もあるんですよ。

僕自身も経験があるんですが、そこでどんどん接客されたら、「何か買わなきゃ出られない」みたいに、もう逃げ出したいような気持ちになる方もいらっしゃるんじゃないかなと思って。

そういうお一人で来た方にも、僕らに気をつかうことなくゆったり過ごしていただける場所になればいいなと思って、お店の中に本棚を作りました。本のセレクトで、僕らのことが会話以上に伝わる部分もあると思いますし」

archipelago

「そんな風に、目的の商品がなくてもお店の中に自分の居場所がある、という環境を作っておきたいなと思っています」

この逃げ場所の話、実はお客さんの層の幅広さでは対照的な、吉嗣商店さんでも共通してありました。

お客さんとの向き合い方、どうしていますか?
吉嗣商店 吉嗣さんの場合:「気軽にやってきた人が、心地よく「ちょっと興味のあるもの」と向き合えるように」

「蔦屋書店自体、多くの人が気軽にやって来れる場所であるので、売る・買うという空気がお客さんにとって変にプレッシャーにならないような環境づくりは、一番意識していますね。

お店のコンセプト自体が「興味の入り口」なので、やっぱり大事なのは、ちょっと興味を持ってくれた人がどれだけ心地よく、自分のペースでそのものと向き合ってもらえる時間を作るか。

そのために、例えば在庫をさっと取り出しやすいようなディスプレイにしたり、商品が気になったお客さんが、スタッフに声がけをしなくても買いものをしやすい売り場になるように心がけています」

吉嗣商店

皆さんのお話を聞いていると、お店や売る人こそが、その「もの」のプレゼンターなのだなと改めて思います。

どんな人に、何をどうやって届けるか。

それを考えるには、「届ける環境」もとても重要な要素のようです。

自身は店頭に立たず、世代ギャップのあるコンビにお店を任せる中で、幅広い層のお客さんにもお店が受け入れられてきた関坂さん。

わざわざ行かないと行けない場所にお店を開いて、その空間を最上のものにと育ててきた小菅さん。

蔦屋書店の中という多くの人が集う環境で、「どんな提案ができるか?」を考えた吉嗣さん。

そしてやっぱりみなさん、商売の中心にあるのは、取り扱うものへの愛情です。

関坂:「一点ものもよく扱うので、むしろ、なくなっちゃうと寂しかったりするんです(笑)」

吉嗣:「僕も以前ヴィンテージものを扱う仕事をしていたので、それはもう、日々その葛藤との戦いですよね。売りたくないけど売る、みたいな。そんな気持ちで仕入れをしていました」

小菅:「本当にずっとものを扱っていると、誰かが買ってくださった時は、いいところに嫁いでくれたというような気持ちになりますね」

ものを売る、届けるという役割としての「ローカルショップ」のお話はここまで。次回、最終回は、販売という枠を超えてそれぞれの地域の中で始まっている、これからのローカルショップの可能性をテーマに、お届けします!

<お店紹介> *アイウエオ順

archipelago
兵庫県篠山市古市193-1
079-595-1071
http://archipelago.me/

ataW
福井県越前市赤坂町 3-22-1
0778-43-0009
https://ata-w.jp/

六本松 蔦屋書店 吉嗣商店
福岡県福岡市中央区六本松 4-2-1 六本松421 2F
092-731-7760
https://store.tsite.jp/ropponmatsu/floor/shop/tsutaya-stationery/


文:尾島可奈子
会場写真:中里楓

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