品よく着られる定番の一枚。大人ための、杢Tシャツ

年齢を重ねたことで、年々悩ましくなる自分に似合う服選び。
30代後半の今、顔や体とのバランスをとる難しさを日々痛感しています。

個人的にはシンプルな服ほどその難易度が高く、昔愛用していた服を着てもぼんやりした印象になったり、少し疲れて見えてしまったり。いつのまにか、しっくりこなくなっているのです。

そんな悩みを持つ私にも「これなら長く着られそう!」と思える服が、中川政七商店から登場しました。その名も「大人の杢(もく)Tシャツ」。デザイナーが「大人の女性が定番にできる一枚をつくりたい」と、糸からオリジナルで開発したTシャツシリーズです。

杢ならではの奥行きある生地の表情を楽しめながらも、カジュアルさは控えめに。品よく着られる一枚のこだわりを、デザイナーの田出に教えてもらいました。

開発のきっかけは「大人に似合うTシャツをつくりたい」

そもそも「杢糸」とは、一本の糸にいろいろな色が入るように、色の異なるワタを混ぜてつくる糸のこと。一色のワタでつくる糸とは異なり一本に複雑な色感が出るため、そのまま編み上げるだけで生地の表情に奥行きが出るのが特徴です。

一本の糸になる前の色ワタを紡いだ糸巻。最終的にはグレーの生地になる

その独特の生地感から、一般的にはカジュアルな印象に仕上がるものが多い杢Tシャツですが、今回、中川政七商店ではあえて「大人に似合う」をコンセプトにつくりました。

展開するのは生成・グレー・黒の、杢ならではの三色。ベーシックに着られて、それでいて大人っぽい。普通っぽいけど、少し違う。そんなふうに、基本を押さえつつも中川政七商店らしい色表現を追求しています。

「はじめは大人が着られそうなTシャツをつくりたいと思ってたんです。自分もどんどん年齢を重ねて、 普通のTシャツを着るとどうしても家着っぽくなるというか。首まわりのバランスや顔うつりが結構難しくて。

なかでも杢Tシャツは特に、着たい気持ちはあるもののアメカジのような印象になってしまって、着づらさを感じていたんですよね。そんな背景から、大人が着てもきれいに見える杢のTシャツがあったらいいなと挑戦してみたのがきっかけでした」(田出)

そう話す田出が、大人に似合う一枚をつくるために何よりもこだわったのが糸づくり。糸の色がそのまま表情に現れる杢生地だからこそ、理想の色合いを表現するために既成の糸は使わず、色ワタの配合からつくり手さんと一緒に取り組みました。

パートナーとして糸づくりをお願いしたのは1918年の創業以来、大阪で紡績業を営む大正紡績。その丁寧なものづくりに国内メーカーからの信頼も厚く、大手メゾンからも引き合いの多い紡績の老舗メーカーです。

「大正紡績さんとご一緒するのは今回のTシャツがはじめて。素材への向き合い方が真摯な企業だと伺ったのがきっかけで、お声がけさせていただきました。糸の調子とか、素材になるワタの選び方とか、細部まで丁寧に取り組まれているとお話に聞いて」(田出)

人の手が生み出す丁寧なものづくり

大正紡績ならではの丁寧なものづくりに助けられながら、随所にこだわった今回の杢糸。例えば素材は綿を基本にしつつも、アクセントとしてリネンを1%ほどだけ混ぜることで、色の出方を調整しています。

理想の色糸が完成するまでに重ねた試作回数はなんと4回。同社いわくこれだけの試作回数はあまり例にないそうで、その話を伺うだけでも妥協せずに突き詰めたものづくりを感じます。

配合率を変えながら、理想の色を目指して試作を繰り返した

また糸にするワタはそのまま使用するのではなく、すべて一度晒してから使用。手間も時間もかかる方法ですが、これも、理想の生地づくりのためにと選んだ工程です。

「多くの杢糸では素材そのままのワタを使用するんですけど、うちの糸はワタを晒してから色を染め上げました。その方が微妙な色の表現ができるし、晒すとワタがきれいになってやわらかくなるから、洗濯をしてもふんわりした風合いが続くんです。大人が着るなら見た目だけではなく肌触りまで意識したいなと思って、この方法でお願いしました」(田出)

さらには大正紡績さんいわく、「通常の杢糸では原綿(げんめん=葉ごみを落としていないそのままのワタ)を80%ほど、葉ごみを落としたワタを20%ほどの割合で混ぜることが多い」そうですが、今回は贅沢に葉ごみのないワタを100%使用。その分もちろん工数は増えますが、糸の表情がなめらかで上品になり、カジュアル感を軽減できるのです。

左が葉ごみが着いた状態のワタ、右が今回使用しているワタ

「大量生産とは真逆で、人の手をかけて、小規模で細やかな対応をしてくださる大正紡績さんだからこそ、今回のものづくりが叶いました。

あとは少し古い機械を使っておられるので、糸がやわらかく仕上がるのも同社と取り組む魅力のひとつですね。大人に着てもらう服なら、高級じゃなくてもいいんだけれど、上質さは叶えたくて。ものを触ったときに本当に『気持ちいいね』って言えるものにしたかったんです」(田出)

糸にした際に色のバランスが偏らないよう、ワタを混ぜる機械へかける前には人が配置を調整
古い機械でやわらかに糸を紡いでいく

ワタをさらし、葉ごみをとり、リネンを混ぜ、そして、古い機械をゆっくり操りながら、人の手で丁寧に作業を進めるつくり手さんのもとでうまれた杢糸。完成した生地は纏うとふんわりと気持ちよく、洗っても風合いが持続します。

きれいに見せられるシルエットで、長く着られる定番に

「大人が着ること」を意識した点は生地感以外にも及びます。そのひとつが、大人にとって使い勝手がよく長く着られるシルエット。ゆとりは持たせつつも程よくきちんと感もあるよう、首元の高さや詰まり具合、身幅のとり方などに調整を重ねました。

「ゆったり着られるけど、きれいに見せられるシルエットにしたいなと思って。例えば首もとって、あき具合によってはずるっと伸びたり横に広がったりしちゃって、少しだらしない印象になってしまいますよね。今回はそうならないようなリブの高さや詰まり具合にしています。

あと、長袖と半袖の二つの形をつくったんですけど、長袖の方は丈感を工夫してあえて前後をずらしました。はじめは長めでつくってたんですけど、それだとカジュアルさが出てしまって。裾を出して着るとカジュアルになるし、ボトムスに入れてブラウジングするのも塩梅が難しいですよね。

だから今回は前を少しショート丈にして、スカートと合わせてもバランスがとれて履けるけど、しゃがんだときに背中は見えないような絶妙な丈感にしています」(田出)

さらには、日本で糸づくりから縫製まで仕上げた質のよい品ではありますが、定番の一枚として色違いや形違いも買い足せるように、手に取りやすい価格帯を目指したのもこだわったポイント。仕立てる際に生地のとりかたを工夫し、端切れの量をできるだけ控えめにするなど、手ごろな価格に近付けられるよう努めました。

こうして出来上がった「大人の杢Tシャツ」。最後に田出さん、どんな着方がおすすめでしょうか。

「もちろん普段から着ていただけるんですけど、上品に着られるように仕上げたので、ジャケットを羽織ったりシャツの中に着てもらったりもして、いろんなコーディネートに合わせていただけたらと思います。何にでも合わせられる、心強い一枚にしていただければ嬉しいです」(田出)

これまでなかなか出会えなかった、シンプルななかに上質さや着心地の詰まったTシャツ。年を重ねても楽しく、自分らしいスタイリングを叶えるような、ワードローブの定番になりますように。

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文:谷尻純子
写真:森一美(大正紡績 取材写真)、枠谷哲也(モデル写真)

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