焼酎大国・鹿児島の秘伝。「錫蛇管」の酒造りとは?
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全国でも鹿児島の芋焼酎造りにしか使われない部品があります。
その名も錫蛇管。すずじゃかん、と読みます。
すず?ヘビ?
一体どんなものなのか?なぜ鹿児島にしかないのか?明治創業の老舗酒造、本坊酒造さんにおじゃましてきました。
芋焼酎が生まれる現場へ
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訪れたのは鹿児島市内から車で50分ほど。本坊酒造さんの知覧蒸溜所です。
本坊酒造さんは鹿児島で焼酎造りに錫蛇管を使っている酒造メーカーのひとつです。
車を降りるとふわっとお酒の香りが。
「知覧は芋焼酎の原料となるさつま芋の産地で、水量豊かな天然水にも恵まれています」
迎えてくれたのは蒸溜所所長の瀬崎俊広 (せざき・としひろ) さん。
本坊酒造の中でも最大規模を誇る知覧蒸溜所は、昭和48年の創立当初から「錫蛇管」を使っているそうです。
錫蛇管との対面
さっそく瀬崎さんのご案内で錫蛇管のある蒸溜所の中へ。ワクワクします。
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大きなタンクが整然と並ぶ蒸溜所内。なんだかとってもかっこいいです。
そして‥‥
「これが、役目を終えた錫蛇管です」
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おぉー!これが錫蛇管!
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確かに蛇のように、とぐろを巻いています!
想像していたものより蛇感があって、でもちょっと可愛らしさもあります。なぜ錫を使い、こんな形をしているのでしょうか。
錫蛇管で造ったものは、ふくよかな味になる
瀬崎さんによると、錫には不純物を吸着させる性質があり、錫蛇管を使った原酒は、雑味の少ない、まろやかな風味に仕上がるのだとか。
「錫蛇管が使われているのは、焼酎の元となるもろみを熱して発生した蒸気を、冷やして液体にする部分です。同じもろみでも、錫蛇管で造ったものは味がふくよかな感じになるんですよ。
ただ形状から大きさに限度がありまして、10機ある蒸留機のうち大型4機はステンレス、小型の6機に錫蛇管を使っています」
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本坊酒造さんでは、錫蛇管の特性を活かしたいと、錫蛇管だけで仕込んだ焼酎「錫釜」という銘柄もあります。
錫を使うことで味に変化を与えるというのは、酒造りに携わる方の中では常識だそうですが、なぜ錫蛇管は鹿児島にしかないのでしょうか。
薩摩錫器にルーツをもつ、鹿児島ならではの錫文化
かつて、鹿児島には錫鉱山がありました。
明治期には錫器の生産が盛んになり、贈答品をはじめ、一般家庭でも錫製の酒瓶、盃、チロリ(酒の燗をするもの)、茶壺、仏具などが愛用されてきました。
現在、錫山は閉山されましたが、薩摩錫器は県の伝統工芸品として、その技法が受け継がれています。
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錫は加工がしやすいことなどから、鹿児島では古くから焼酎造りにも使われてきたそうです。
「では、焼酎の造り方をご案内しながら、実際に錫蛇管が使われているところをお見せしましょう」
おいしい焼酎ができるまで
「ここは、もろみをつくるタンクです」
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焼酎も日本酒と同じように米麹造りから始めます。お米を洗って水に浸漬(水に浸ける)させ、蒸して冷ました後、種麹(黒麹・白麹など)を種付けし、発酵させると米麹ができます。
「もろみにも一次と二次があって、まずタンクに米麹と水と酵母を入れて、一次もろみをつくります」
続いて二次もろみに必要なさつま芋の加工場へ。
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大きな保管庫からさつま芋がコンベアを伝って運ばれてきます。
コンベアの両脇に30人ぐらいが座って、大きな傷のあるものなどを選り分け、芋の傷んだところを手作業で削っていくそうです。
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「その後、芋を蒸して冷やし、砕いて、水と一緒に第2タンクに入れて、二次もろみをつくります。二次もろみができると、蒸留機に入れて、いよいよ蒸留していきます」
蒸気から液体に変わる道
「こちらが錫蛇管を使った蒸留機です。6基で大きな蒸留機1個分を蒸留します」
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この中に錫蛇管が!
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蒸留機の中で熱されたもろみから、蒸気が発生します。これを冷やして液体にするのが、錫蛇管の役割です。右側の冷却水を入れるタンクの中に入っています。
タンクの中を見させていただくと…
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いました!いました!錫蛇管!
この管を蒸気が通って原酒になっていくんですね。
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ゆっくり冷やすことでより美味しいお酒になる
「蛇のような管の形になったのは、熱効率がとてもいいからです。上は湯気が出る80度ぐらいの温度で、一番下は20度。急に冷やされるのではなく、じわーっと冷えていく感じですね」
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「管の太さが下にいくにつれて、細くなってるでしょう?
上の部分は蒸気がいっぱいなので太くしてあるんです。気体が冷えてだんだん液体に変わり、体積が小さくなっていくにつれ細くしてあります。こうすることで冷気がじわじわと全体に、効率よく伝わります」
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「作る時は溶かした錫を板にして、曲げて管にしたものを溶接し、蛇管の形にしていくようです。錫は柔らかいので、こうした凝った加工もできますね」
味がより美味しくなるのであれば、全ての蒸留機が錫蛇管であればいいと思うのですが、人の手で作るため大型化には向いてないとのこと。
「これが錫で作れる最大サイズじゃないかな」
また、熱が伝わりやすいがゆえ、熱の収縮で曲がってしまい、5~6年で引退。しかし使ったものは溶かされ、再び錫蛇管となって生まれ変わります。
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土地の豊かな資源から生まれた機能的で味もまろやかになる錫蛇管。
産地ならではの酒造りの様子を知ることができました。
では、この錫蛇管は一体どんな風に作られているのでしょうか。
蛇管を固定している木枠に、造り主の名前が!
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鹿児島の焼酎探訪、錫蛇管を作り続けている「岩崎蛇管」の話に続きます!
<取材協力>
本坊酒造株式会社 知覧蒸溜所
https://www.hombo.co.jp/
文:坂田未希子
写真:尾島可奈子、画像提供:岩切美巧堂