熊本 小代焼を愛でる一日

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訪ねるといつも元気をもらうような明るい窯がある。

うつわの作り手といえば、気難しいようなイメージが強いかもしれないけど、ここは主やその家族、弟子とみんなが明るく、いつも笑い声が聞こえてくる。熊本の県北、福岡県と隣接する荒尾市の小代焼(しょうだいやき)ふもと窯。

毎年2月の終わりの土日に誰もが参加できる窯開きをやっていて、そこに参加してきました。みんげい おくむらの奥村です。

熊本県荒尾市の小代焼ふもと窯

お客さんと作り手がふれあうイベントがある窯は少なくないが、直前に窯を焚いて、できたてのうつわをその場で取り出す作業まで見せる窯はめずらしい。

しかもそれが作り手とおしゃべりしながら、その場で買えるんだ。そりゃ足が向くでしょう。

熊本県荒尾市の小代焼ふもと窯
熊本県荒尾市の小代焼ふもと窯

ふと見渡せば、当主の井上泰秋さんが窯から出てきたうつわの底をすりながら何人ものお客さんと談笑している。

その奥では、窯から出たうつわの焼き上がりを見ている息子の井上尚之さんと弟子陶工たち。笑い声、時に落胆の声が響いて、それを見ているお客さんも笑っている。

なんともなごやかな時間だが、僕がふだん一人で訪ねてもこの窯はこんな感じなのだ。

熊本県伝統の小代焼

熊本の伝統、小代焼といえば白・黄・青のような色があり、いずれも灰をベースに使った釉薬から生まれる。同じかたちに同じように同じ釉薬を掛けて同じ窯で焼いても、写真のように差が出る。

これ、すごいでしょう。窯のどこに置かれたかによって温度が微妙にちがうし、火の当たり方もちがうのでこれだけの差が出る。

「火にまかせる」「窯にまかせる」という言葉を各地の窯で聞くのだけれど、まさにそう。

こう焼けて欲しい、というイメージを狙って焼くのだけれど、なかなか思い通りにはならない。焼き物のおもしろさってこういうところ。

熊本県荒尾市の小代焼ふもと窯

窯出しも終わって、ふもと窯のある荒尾市から南にくだって熊本市へ。

小代焼を使う郷土料理屋さんもあるけれど、今日のおめあては郷土料理とはちょっとちがう。おめあての店PAVAO(パバオ)は熊本市の中心部、上通りのはずれにある。

雑居ビルの2階。階段をのぼって、ドアの前に立っても中が見えず入るのをためらうが、思い切ってそのドアを開けてもらいたい。

熊本県熊本市の諸国家庭料理PAVAO内観
熊本県熊本市の諸国家庭料理PAVAO内観

この店は、入ったそばからおいしい。

入り口からすぐに本の棚、CDの棚。そしてキッチンが見えてくると、そこかしこにたくさんのうつわ。どの棚もワクワクがあふれている。

店主の思いつくまま集められたそれらは雑多なようでいて、でもどこかまとまりがある。料理のおいしさは味のみならずだな、とつくづく思う。

ここはおいしいものが出てくる予感しかないのだ。旅でまったく初めての土地に降り立ったような高揚感がある。

ふわふわと、どこの国とも言えない不思議な居心地の良さ。そういえば、ここは諸国家庭料理PAVAO。諸国なのだ。そりゃどこでもないわけだ。

熊本県熊本市の諸国家庭料理PAVAOメニュー表
熊本県熊本市の諸国家庭料理PAVAOの定番メニュー「ちくわ天」

黒板のメニューを見ていつもワクワクするこちらですが、定番で外せないのが「ちくわ天」。

店主の出身である、熊本の日奈久(ひなぐ)というちくわの名産地のものを使って。和食の店で使ったらどっしりと重厚に感じそうなこの小代焼のうつわをどこかさらっと気負いなく。

熊本県熊本市の諸国家庭料理PAVAOの「あさりとターサイと生きくらげの和え物」

続いての一品は、あさりとターサイと生きくらげの和え物。酸味と辛味。おお、アジアの味。これまた、肥後鉢という伝統の形の鉢が絶妙に似合うじゃないですか。

ここのうつわのセレクトは国内外、民藝のものもあれば作家のものもさまざま。うつわ好きならカウンターに積まれたうつわにも、隣席のテーブルに並ぶ料理とうつわにもワクワクが止まらないはず。

いつもこの店をスタートに夜の熊本を飲み歩くからなかなか食べられないのだけど、実はこの店カレーもうまい。食事使いでも、ふらっと一人でも。どうぞお気軽に。

 

<取材協力>
PAVAO
熊本県熊本市中央区南坪井町1−9 山村ビル2F
電話 096-351-1158
営業日 木金土 18:00-23:00
※営業日や時間が変わることもあります。最新情報はinstagramをチェックしてください。

奥村 忍 おくむら しのぶ
世界中の民藝や手仕事の器やガラス、生活道具などのwebショップ
「みんげい おくむら」店主。月の2/3は産地へ出向き、作り手と向き合い、
選んだものを取り扱う。どこにでも行き、なんでも食べる。
お酒と音楽と本が大好物。

みんげい おくむら
http://www.mingei-okumura.com

文・写真:奥村 忍

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