8月8日は妖怪の日。『付喪神絵巻』に化けて登場する夏の道具といえば?

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さんちの妖怪

8月8日 (ようか) は妖怪の日。

河童で有名な『遠野物語』など、日本各地の民間伝承に光を当てた日本民俗学の祖、柳田国男の命日でもあるそうです。

そんな日ですから、やっぱり「さんち」にも現れました。不定期に連載している「さんちの妖怪」

見事、妖怪になった古道具たち

題材にしている『付喪神絵巻』には、100年の命を永らえて妖怪に化けた古道具たちが登場しますが、中にはちょうど今頃、夏に活躍する道具の姿も見られます。

物語の冒頭は、路地に捨てられた古道具たちの様子。「長年お仕えしてきたのに‥‥!」と人を恨み、この後妖怪に化けて大暴れします
物語の冒頭は、路地に捨てられた古道具たちの様子。「長年お仕えしてきたのに‥‥!」と人を恨み、この後妖怪に化けて大暴れします

年の瀬の煤払い (大掃除) をきっかけに、人を惑わす「付喪神 (つくもがみ) 」となった姿がこちら。元は何の道具だったかわかりますか?

この妖怪、元は一体何の道具でしょう?
この妖怪、元は一体何の道具でしょう?

これは簡単ですね。元の道具は「扇子」です。

中国伝来かと思いきや、実は日本の発明品。今日はその「化ける前」の道具としての姿に注目してみましょう。

平安時代に京都で誕生したと言われ、平安末期には中国に伝わり、15世紀には中国経由でヨーロッパにも伝来。17世紀にはフランス・パリを中心に盛んに作られ貴族の間で流行しました。

以前、細萱久美さんの記事で紹介された宮脇賣扇庵 (みやわきばいせんあん) さんは、まさに扇子発祥の地、京都で200年続く老舗です
以前、細萱久美さんの記事で紹介された宮脇賣扇庵 (みやわきばいせんあん) さんは、まさに扇子発祥の地、京都で200年続く老舗です

初期の扇子はヒノキの薄板を束ねて作られていましたが、のちに骨に片側だけ紙を貼った紙扇子が登場。

紙を両面に貼った現在の扇子に近い形が確立したのが、ちょうど『付喪神絵巻』の物語が成立したと言われる、室町のころだそうです。

実は、絵巻には妖怪たちが扇子を持っている姿も描かれています。

扇子を使った舞を鑑賞中
扇子を使った舞を鑑賞中

道具が道具を使っていると思うとなんだかユーモラスですが、その姿からは「涼をとる」以外の扇子の使われ方がはっきり見て取れます。

武士のような格好をした妖怪の手には日の丸の扇子
武士のような格好をした妖怪の手には日の丸の扇子

平安時代には貴族の持ち物だった扇子は、鎌倉・室町時代には武士の、江戸時代には町人の手に。その中で武芸や茶道、祝宴に舞踊に落語にと、扇子は今に至るまで様々な使われ方をしてきました。

時代の主役が変わっても廃れることなく、常に新しい役割を見出されてきたのは、道具としての使い勝手の良さ、佇まいの美しさの証と言えるかもしれません。

古道具たちも自在に体を動かせるようになって、その使い心地を思う存分、謳歌したに違いありません。

文:尾島可奈子
出典:国立国会図書館デジタルコレクション「付喪神記」

こちらは、 2018年8月8日の記事を再編集して掲載しました。捨てられた古道具が妖怪になって現れないように、モノは大切にしようと改めて思いました。

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