日本の暮らしの豆知識 文月
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こんにちは。中川政七商店のバイヤーの細萱久美です。
連載「日本の暮らしの豆知識」の7月は旧暦で文月のお話です。
文月の由来は、短冊に願い事や詩歌を書いて笹に吊り、書道の上達を祈った七夕の行事にちなみ、「文披(ふみひら)き月」が転じたとする説が有力と言われています。ただ文月は現在の7月下旬から9月上旬頃にあたるので、新暦の七夕は7月7日だから時期が合わないなと思いました。そこは、七夕も旧暦による太陰太陽暦では、今の暦のだいたい1カ月程度遅れの8月くらいに行われていたことで辻褄が合います。旧暦は月の満ち欠けにより月日が決まるので、七夕の日にちも毎年変わっていたとのこと。実際、現在も8月の方が夏空が安定し、織姫星や彦星、天の川もよく見えるそうな。益々、伝統的な日本の行事は旧暦で考える方が理にかなっていると感じます。
さて、新暦に戻って7月の七夕の頃は、二十四節気で小暑にあたり、梅雨が明けてこれから本格的な夏が始まる!という暑さに備える頃です。今年の夏も猛暑の予報が出ており、年々どれだけ暑くなるのかと恐ろしい話ですが、暑さに負けないよう用心したいと思います。と言いつつ、夏の日差しを避けるファッションアイテムの、帽子や日傘はあまり持つ習慣がなく、かさ張らず気軽に持てる「扇子」を少しずつ集めています。よく考えると、とても完成度の高いアイテム。開くと扇げて、閉じると非常にコンパクトになる機能美に加え、小さな世界に様々なデザイン性が凝縮しています。扇骨と呼ばれる骨組みの上に紙や布を貼りますが、色や柄によってイメージが全く変わるので選ぶ楽しさがあります。中国伝来の物事が多い中で、扇子は大凡1200年前の平安時代に京都で誕生したと言われており、現在でも京都で作られる京扇子は国の伝統工芸品指定を受けた確かな品質を誇ります。
私が扇子を選ぶのは、やはり京都にある扇子専門メーカーの「宮脇賣扇庵(みやわきばいせんあん)」。創業文政6年と200年近い老舗です。京都市街の中心部にありながら、古き良き京の面影を残す町家そのままの店構え。老舗ならではの風格を感じ、一見敷居が高そうにも見えますが、入ってしまえばゆったりとした雰囲気と、キリッと気持ちの良い接客で迎えていただけます。ずらりと並ぶ扇子は、自由に広げてじっくり色柄を見て選ぶことが出来ますが、種類が余りに多いので迷った時には店員の方に相談してみましょう。高価な扇子もありますが、意外とお手頃な価格の扇子も多いのです。
宮脇賣扇庵の扇子は、熟練の職人さんが一本一本仕上げていますが、一本の扇子を作るのには、何と87回も職人の手を通るとのこと。扇面の多彩なオリジナルの絵の多くは、手描きされています。中には、一番外側の太い骨にも蒔絵などの装飾がある扇子もあって、それを描く職人さんは相当限られるそうです。実用で使うのが勿体無いほど美しく、いつか手に入れたい憧れの扇子です。
ところで私の母方の祖母は、京都生まれ京都育ちの、生粋の京女でした。物や食などを選ぶ上で、京都ブランドを贔屓にしつつ、更に一品につきご贔屓ブランドがひとつ、というような強いこだわりがあったと記憶しています。気に入ったら一筋、逆に品質が落ちたら離れるという厳しさもあったかもしれません。まだまだ優柔不断なモノ選びをしている私としては、見習いたい気もします。そして、その祖母が扇子と言えば、宮脇賣扇庵をご贔屓にしていました。日本舞踊や茶道も嗜んでいたこともあり、常に着物で扇子も必需品だったようです。「久美」と名入りにしてくれた扇子は今でも大切に持っています。
普段使いには、好きで食器や文具などいろいろなアイテムを持っている「鳥獣戯画」を描いた扇子や、ちょっとモダンな幾何学模様の扇子を使っています。ピシャっと気持ちの良い閉まり具合が心地よく、暑い夏も小粋に乗り切りたいと思わせる文月の暮しの道具です。
<掲載商品>
宮脇賣扇庵
鳥獣戯画扇子/名入り別注扇子
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細萱久美 ほそがやくみ
東京出身。お茶の商社を経て、工芸の業界に。
お茶も工芸も、好きがきっかけです。
好きで言えば、旅先で地元のものづくり、美味しい食事、
美味しいパン屋、猫に出会えると幸せです。
断捨離をしつつ、買物もする今日この頃。
素敵な工芸を紹介したいと思います。
文:細萱久美
※こちらは、2017年6月29日の記事を再編集して公開しました。