マニアックすぎる金沢案内。『金沢民景』仕掛け人と行く

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金沢民景

この橋の名前、わかりますか?

こういう個人のお宅にかかっている橋、なんと呼ぶかわかりますか?

金沢民景

「私有橋って言うんですよ」

本を作るまではそういう名前があることすら知らなかった、と語るのは『金沢民景 (みんけい) 』主宰の山本周さん。

金沢民景

「金沢の街って、住んでいる人が自分で家の周りをカスタムしているような面白さがあるんです」

と、住民が作り出した景色=「民景」を金沢市内のあちこちから見つけ出して紹介する、ローカルマガジン『金沢民景』を発行しています。

金沢民景

今日はそんな山本さんが実際の「民景」を案内してくれることに。マニアックすぎる金沢案内、始まります!

金沢民景

現地へ赴く前に伺った『金沢民景』の事務所で伺ったインタビューの様子はこちら:「ローカルマガジン『金沢民景』で、街の『名前を知らないアレ』の面白さにハマる」

バルコニーの「進化」

出発前に伺って印象的だったのが「進化」というフレーズ。

金沢市内にある事務所にて
金沢市内にある事務所にて

「例えばバルコニーが家ごとにカスタマイズされていたりするのを、僕らは『進化』って呼んでいるんです。

おそらくは土地の事情とか気候が関係して、独特の変化をしているんですね。

これから見に行く私有橋は、金沢だけじゃなくほかの土地にもあるんです。でもやっぱり地域ごとに珍しい橋があったりします」

ということで今日案内いただくテーマは「私有橋」に決定。

金沢民景

「本当に、その土地独自の進化を遂げているんですよね。見に行ってみましょう」

噂の現場に到着

幹線道路から一筋奥まった住宅街。大通りに背を向けるようにして建っている家々の、その背中にあたる勝手口側には、小さな用水路が流れています。

今日の探訪の舞台はその用水路と、脇に沿って続く小道。そして両者をつなぐ「私有橋」です。

金沢民景

これが噂の私有橋。

言われないと見逃してしまいそうですが、奥へ奥へと小道をどこまで行っても橋が続く風景は、立ち止まってみると確かに、見応えがあります。

山本さんの集計によると、700メートルの間になんと60もの橋がかかっているそう。

「例えば大通りのお店に行くには、勝手口から出た方が近いですしね。そういう事情もあったのかもしれません」

お隣どうし

なんどもこの場所に足を運んで取材してきた山本さん。それぞれの私有橋について、嬉しそうに教えてくれます。

金沢民景

「この手すり、かわいいじゃないですか。シンプルで」

にこにこしながら示してくれたのは「私有橋」号の表紙を飾った橋。

金沢民景
金沢民景
こうなりました

「素材や色使いも、みんな違うんですよ。ここはアルミ製の角材に板貼り、ここはコンクリート」

こんなタイプや
こんなタイプや
こちらはコンクリートタイプ
こちらはコンクリートタイプ
板一枚タイプ
板一枚タイプ
色付きのものも
色付きのものも
こちらは色あざやかな赤い橋
こちらは色あざやかな赤い橋

「面白いのが、お隣どうし、なんとなく似ているんです」

金沢民景
確かにお隣どうし、姿かたちが‥‥
似ている!
似ている!
幅や角度も似ている‥‥
幅や角度も似ている‥‥

山本さんの推測によると、お隣のを見てうちもやろうとなると、自然とどこに頼んでいるかを聞く。「じゃあ紹介しましょう」と同じ大工さんに頼んだりして、それで似てくるんじゃないか、とのこと。

「反対に、あっちは赤だからこっちは青にしようかなとかもあるかもしれませんよね。そうやって周りと折り合いをつけながら生まれてきたのが、この私有橋の『民景』だと思います」

味わいのある青い橋
味わいのある青い橋

取材はべた褒めから

ところで『金沢民景』の紙面は、1ページに1民景のスタイル。

金沢民景

魅力的な場所に出会ったら、その「民景」を作った人(多くはその家の住人の方)にカスタマイズの経緯などをたずね、写真にコメントをつけて掲載します。

「この橋とか中々ない色使いですよね。メンバーがご主人に聞いたら、塗り替え用にエメラルドグリーンのペンキ、いくつもストックしてあるそうなんです」

軽快なエメラルドグリーンの橋
軽快なエメラルドグリーンの橋

楽しそうに語る山本さんですが、いまのご時世、家のことを急に聞かれて怪しまれたりしないんでしょうか?「あなたたち一体何なんですか?」みたいに。

「はい、怪しまれます (笑)

でも僕ら、いつも見つけた嬉しさで興奮したまま訪ねて、べた褒めするところから話がはじまるんです。

そうすると住民の方も、のってきてくれて。少しずつお話を聞かせてもらうんです」

暮らす人たちにとっては当たり前の風景。

取材中も住民の方が何気なく通りかかる
取材中も住民の方が何気なく通りかかる

こんな風に「面白い」「素晴らしい」と目をキラキラさせながらたずねられたら、きっと民景の作り手さんも嬉しい気持ちになるのではと想像します。

自分の家の軒先をちょっと楽しくしたい

現在15冊目に突入した『金沢民景』。

金沢民景

金沢の地で独自の進化を遂げた「よくあるけれど切り取るとユニークな風景」の中に、山本さんはある発見をしたそうです。

金沢民景

「街づくりっていうと、どこか偉い人や自治体がやるものってイメージが強いですよね。

市が条例を定めてコントロールするもの、とか建築家や都市計画の専門家が設計図引いてつくるもの、とか」

金沢民景

「でも僕らが集めているものって気づいたら、住んでいる人のちょっとしたアイデアで出来た街並みだったんです。

自分の家の軒先をちょっと楽しくしたいとか、家の裏に用水があるから橋を架けるんだけど、ただ架けるだけじゃつまんないから物干し台にしちゃおうとか」

物干し竿が設置されている私有橋
物干し竿が設置されている私有橋
奥の植木の花とお似合いの赤い橋
奥の植木の花とお似合いの赤い橋

「そういう細かいアイディアの積み重ねだけで出来ている街並みがある。『それってすごいな、自分達の手で街をつくれるんだ』ってある時思いました。

僕たちの身近なところに、住んでいる人たちの手で育ってきた風景が、たくさんあることに気がついたんです。

金沢の場合は特に、大きな天災や戦火の被害が近代なかったので、途切れずに『進化』が続いてきた。

『金沢民景』では、そういう一つの時代だけでは語りきれない金沢を、伝えていきたいなと」

金沢民景
これらは一体、どんな背景から「進化」してきたのでしょう

「自分が快適に住むことで街の風景も面白くなる。住んでいる人がそう思い始めたら、街も変わってくるだろうし、面白くなりそうだなって思うんです」

金沢民景

住民が作り出した「民景」はきっとどの街にもあるはず、と山本さんは語ります。

いつかのれん分けした姉妹版が他の街から出たら、面白そうですね。

<取材協力>

金沢民景
https://kanazawaminkei.tumblr.com/

2月17日まで、東京恵比寿のアートショップ NADiff a/p/a/r/t で『金沢民景』のフェアが開催されています。

文:尾島可奈子

写真:mitsugu uehara

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