オチビサンと巡る四季の鎌倉 〜木々が色づく文学の秋編〜
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こんにちは。さんち編集部の井上麻那巳です。
『オチビサン』という漫画をご存知でしょうか。『オチビサン』は『働きマン』などで知られる安野モヨコさんの漫画作品。安野さんが過労に倒れてほとんどの漫画の連載をストップしたとき、唯一連載をやめなかったのが、実はこの『オチビサン』なのです。鎌倉に暮らす安野さんが、愛する鎌倉の四季や自然と共に描くオチビサンたち。彼らといっしょに潮風香る古都、鎌倉の街を巡っていきましょう。
まずは、「花の寺」として知られる光則寺へ。ちょうど長谷寺と鎌倉大仏のある高徳院に挟まれるような立地の小さなお寺です。江ノ電長谷駅を降り、てくてく歩いて5分ほど。秋の紅葉にはちょっと早いですが、徐々に色づきはじめた木々をゆったり眺めるのもぜいたくな時間。
住職さんによると、光則寺は四季を通じて花が咲き、訪れる時期によって全く違う表情を見せてくれるそうです。東京よりも少し遅めの鎌倉の紅葉は、11月下旬から12月上旬が見頃だそう。
ひんやりした空気の中、光則寺を後に鎌倉文学館へ向かいます。
物語に出てくるような雰囲気たっぷりの坂をのぼると現れる洋館が目的地、鎌倉文学館。旧前田侯爵家別邸であるこの建物は、第16代当主の前田利為氏によって昭和11年に現在の形に建てられました。和洋入り混じる雰囲気たっぷりの建物は、今でもドラマや漫画のモデルに使われることも多いとか。寄木細工の技術を使用した床など、細かいところも洒落ています。
「鎌倉文士」と呼ばれた川端康成など、鎌倉ゆかりの文学者たちは今ではなんと340名にものぼるそう。常設とは言いながらも季節毎に入れ替えられている彼らの直筆原稿や手紙などを展示する常設展示を見ていると、たくさんの本に目を輝かせるナゼニの顔が目に浮かぶようでした。
建物の外へ出て、バラ園でひとやすみ。三島由紀夫の同名の小説にちなんだ『春の雪』や鎌倉ゆかりの名が付けられたバラはちょうど見頃を迎えていました。天気のよい日はこの香りの中お弁当を広げるのもよいなぁと言いながら、おなかをすかせて鎌倉駅へ移動します。
賑やかな鎌倉駅に戻ると、小町通りを一歩歩くたびによい匂いが…。食べ歩きの誘惑を振り切り、カウンターだけのちいさなお店、穴子ちらし小町にまっしぐら。今なら食いしんぼうのパンくいの気持ちがわかるかも。ここでいただくのはもちろん看板メニュー、穴子ちらし。穴子と言えば夏に旬を迎えるイメージですが、脂の乗った10~12月を好む方も多いのですよ。前のお寿司屋さんから受け継いだという織部焼の丼ぶりには、この器に再会するためにやってくるファンもいるとかいないとか。
元編集者のお洒落なお父さんが切り盛りするランチタイムとは打って変わって、夜は東京で修行を積んだ息子さんが自ら釣ったお魚を料理してくれるそうです。
おなかも満たされたところで、文学の秋へ戻りましょう。新しいお店も目立つ小町通りの中で、ひときわ目をひく古い外観。和紙専門店の社頭は1969年創業の老舗です。当時から川端康成をはじめ、鎌倉の文学者御用達の店として続けてきました。店内には所狭しと千代紙や懐紙などの和紙の小物が並びます。
「もともとは母の趣味ではじめたお店で…」と語る二代目当主は、華やかな千代紙よりも白い和紙に惹かれる。同じ白い紙でも紙漉きはもちろん季節によっても全然違うのよと言ってたくさんの白い紙を見せてくれました。中にはピカソやシャガール、ダリが好んで使っていたという貴重な紙も。それらの紙も約60cm×90cmで4,000円ほどから手に入るというので、手が届かなくはないことに驚きました。