【イベントレポート】「石」の魅力を語りつくす。石工職人と石オタクによるクロストーク……「ものづくりから覗き見るディープな世界展」
中川政七商店が全国各地で出会い、心を動かされたものづくりブランドを紹介するECモール「さんち商店街」。その初めてのポップアップイベント「ものづくりから覗き見るディープな世界展」が、先日都内にて開催されました。
この企画は、日本各地のものづくりや歴史、風土に魅せられた学生たちが経営するセレクトショップ「アナザー・ジャパン」とのコラボレーションによって実現したもの。
つくり手を招いたワークショップや、特別ゲストによるトークセッション、学生セトラー(※)がセレクトした商品の販売など、さまざまなイベントが行われました。
※アナザージャパンの店舗を経営する学生たちのこと
「石」の魅力を語りつくすトークセッション
その中で開催されたトークセッションのひとつが、「異業種コラボな夜咄会 第一夜:石は語る〜生活に溶け込む歴史〜」。
ゲストは、さんち商店街でも取り扱っている石器ブランド「INASE(イナセ)」を立ち上げた石材店の4代目 稲垣遼太さん。そして、地質技術者として道路やダムなどのインフラ整備における石や水の調査業務を行い、“石オタク”としても知られている長谷川怜思さん。
それぞれ異なる「石」の仕事をしているお二人をお招きし、ロマン溢れる「石」の魅力を語り合っていただきました。
「かっこいいですよね。ずっと見ていられます」
自己紹介の中で稲垣さんが見せてくれたのは、石の仕入れのために訪れる採石場の様子。自然物である石には二つとして同じものはなく、一つひとつの形や大きさ、色味を見極めているうちに、気づけば半日ほど採石場にいることもあるのだそう。
「地球のすごさを感じます。こういった部分を見せていく活動も、これからどんどんやっていきたいんです」
岩の壁がそびえ立つ迫力のある風景に、会場のお客さんたちも「確かに」と頷きながら耳を傾けます。
愛知県岡崎市で約100年前に創業した稲垣石材店の4代目である稲垣さん。墓石や灯篭といった商品を中心に取り扱う中で、「石が持っている価値や面白さ、そしてそれを加工する職人の技術を多くの人に伝えていきたい」と考えるようになり、石器ブランド「INASE」を立ち上げました。
「石でこんなこともできるんだって自分も常に学びながら、熟練の職人との二人三脚でINASEのものづくりに挑戦しています」
石は本当に面白い
「採石場がかっこいいという話に皆さん頷かれていたので、今日はかなり突っ込んだ石の話もできそうですね」
と、嬉しそうに話し始めたのは、地質技術者で“石オタク”の長谷川さん。
小学生の頃から石に惹かれ、気になる石を見つけては拾って持ち帰っていたという長谷川さん。石好きが高じて、石や地層の地図「地質図」を作成したり、その情報をもとにしたインフラ整備を行う際のリスク調査等を本業としています。
「石って、色々な呼び名があると思うんですが、大きく分けると“岩石”と“鉱物”の二種類になるんです。その違いは、例えるなら岩石がおにぎり、そしてお米の一粒一粒が鉱物、というイメージ。
今ここにある石を見てもらうと、中に黒い粒や白い粒が見えると思いますが、こういった鉱物が集まって岩石になっている。なので、同じものは本当に存在しなくて、それぞれが世界で唯一のものです」
と、宣言通りの深い話を、分かりやすく伝えてくれる長谷川さん。
続けて、お気に入りの石Best3の発表や、石の年齢に関するクイズの出題など、会場の人たちの興味を惹きつけていきます。
「石って本当に面白いんですよね。石が元々持っている色つやだけで無限の表現方法があるというか。
その特性と、現代の加工技術を組み合わせて、暮らしに使えるものに落とし込んでいく。やりがいのある素材で、とにかく楽しんでやっています」
と稲垣さんが話すと、
「見た目の話でいくと、太陽光で見ている状態だけじゃなくて、たとえば紫外線をあてると反応する石もあるんですよね。
これとか、ブラックライトをあてると色が変わる部分が見えると思います」
というように長谷川さんも答えるなど、徐々に二人の石への想いもクロスしていきました。
そんな二人に会場からもさまざまな質問が。
“加工の難しかった石や商品はどんなものですか?”
「鞍馬石のお香立てなんかは、非常に難しくて、石を加工する様々な技術を詰め込んで作っています。しかも、その商品に見合った石をひたすら探すところからやるので、なかなか大大変です」(稲垣さん)
”石によって硬さが違うのはどうしてですか?”
「ひとつは材料の違いです。硬い鉱物の代表はダイヤモンド。硬い鉱物が集まると硬い岩石になるし、柔らかい鉱物だと軟らかい岩石になります。
それと石のでき方によって鉱物の配列が変わるので、それによっても硬さや割れやすさが変化します」(長谷川さん)
質問に応じて「これは私から答えますね」というように、それぞれの専門分野を理解しあった二人の様子が印象的な質疑応答でした。
石の価値を伝えていくために
最後に会場から、“稲垣さんに加工してもらうとすれば、長谷川さんはどんな石を選びますか?”というマニアックな質問が。
「難しい…材料の珍しさでいくと、例えば蛇紋岩(じゃもんがん)とか。緑色でかっこいいし、面白いかもしれないですね。
あ、日本全国の石を使った商品というのは、どうですか?」(長谷川さん)
「それは確かに。沖縄の琉球石灰岩とか、北海道の札幌軟石とか、日本全国、北から南まで本当に色々な石があるので。
恐らく職人泣かせではありますけど、やってみたいですね」(稲垣さん)
と、聞いているだけで心躍るアイデアも飛び出したところで、惜しまれながらイベントは閉会。普段、身近なようであまり知らなかった石の面白さや魅力に気づき、石の可能性にとても期待が高まるトークセッションでした。
「岡崎の(石加工の)技術力って、全国でもトップクラスだと思っています。ただ、たとえどんなに美しい石灯篭が作れても、今の住環境では必要とされない。
そのギャップを埋めるために、どんな加工をして、どうやって価値を伝えていくのか。もっと学んで、チャレンジしていきたいと考えています」
今後の取り組みについて稲垣さんはこんな風に話してくれました。
これからのINASEや稲垣さん、長谷川さんの取り組みからも目が離せません。ぜひ注目してください。
文:白石雄太