「驚きと喜びのある物づくり」で、人の手のぬくもりと文化を未来へつなぐ。COCHAEと作るお正月飾り

新年を祝い、しつらいを楽しみ、よい一年になることを願うお正月飾り。

今年のお正月は、昔から続くお飾りを、今の暮らしに寄り添うようアップデート。「驚きと喜びのある物づくり」をモットーとするCOCHAEさんとともに、運を開くきっかけとなるようなお正月飾りを作りました。

岡山を拠点に活動するデザイン・ユニット「COCHAE(コチャエ)」さんの事務所を訪ね、デザインへの思いやものづくりの背景を伺いました。

伝統の息を今に映す、COCHAEの“あそびのデザイン”

郷土玩具の魅力に惹かれ、「忘れられかけた伝統や地域に根ざした文化を発掘し、継承していきたい」との思いから“あそびのデザイン”をテーマに活動するCOCHAE。その仕事場には、壁一面の本棚にどこか懐かしくかわいらしい人形やパッケージが並び、紙や木などで作られた生き物たちが顔をのぞかせます。

「パッケージのお仕事も多いんですが、専門というわけではないんですよ」と笑う、軸原ヨウスケさん。

COCAEの軸原ヨウスケさん

東京でCOCHAEを結成した後、2011年の震災を機に生まれ故郷の岡山へ拠点を移し、紙のプロダクトや新しい視点を持った玩具・雑貨の開発、商品企画、展示など、幅広い活動を行っています。岡山を訪れたことのある人なら、お土産売り場で軸原さんがデザインした愛らしいパッケージを目にしているかもしれません。

現在はメンバー3人で活動中。今年新たに加わった長友真昭さんは、長年廃絶していた久
米土人形を軸原さんとともに復刻するなど、立体造形の分野でも活躍しています。

COCAEの長友真昭さん

「古い玩具の中にあるモダンで新しいエッセンスを見いだしたくて。逆に、モダンに見えるけど土着的な要素や手仕事を感じるものにも惹かれます。その両方向から近づけるプロダクトづくりやデザインがしたいですね」と軸原さん。

軸原さんのコレクション。「“新しいけど惹かれるような玩具的魅力がある”をものづくりがしたい」と軸原さん

COCHAEが目指すデザインは、手に取った人が幸せな気持ちになり、運を開くきっかけとなるようなもの。その想いに中川政七商店が強く共感したことから、今回の企画はスタート。COCHAEの“楽しいデザイン”に奈良県香芝市の福祉施設Good Job!センター香芝の個性豊かな手仕事が加わり、より楽しくおめでたい、お正月に限らず長く飾っていただける縁起物が生まれました。

中川政七商店ともCOCHAEとも、それぞれ交流があった、奈良の「Good Job!センター香芝」。

「Good Job!センター香芝さんの施設で初めてものづくりを見た時、ものすごく感銘を受けたんです。福祉の現場で地元の素材を活かして、しかもきちんと量産する仕組みが本当に素晴らしくて。あの場に“ネオ郷土玩具” のような空気を感じました」と軸原さんは振り返ります。

郷土玩具の魅力に、自然に惹かれていったという長友さん。今回の企画に関しては、「玩具の実践の場になると思って、挑戦しない手はない」と感じたのだとか

ご神域の杉から生まれた、午の干支飾り

干支飾りは、2026年の干支・午(うま)をモチーフにした木製の置物です。世界遺産・春日大社(奈良市)の境内の杉を使用しています。
(※春日大社の杉の木については、こちらの読みものをご覧ください)

COCHAEさんとGood Job!センター香芝さんは以前にも春日大社境内の杉を用いて「コッパン人形」という人形を制作しており、その技法を、今回の干支飾りにも応用しました。

「コッパン人形」。大正時代中期に生まれた木端(こっぱ)人形を模して作られている

「コッパン人形を作る時も顔はスタンプで描きました。今回、Good Job!センターさんのスタンプ使いがさらに進化していて素晴らしいなと思いましたね」(軸原さん)

干支飾りの模様は、オリジナルのスタンプで表現

「デザインとしては、杉の模様が最初にできました。他にも杉の模様で何かできないかと検討しましたが、もう少しリアルな杉になるとスタンプでの表現が難しくて。杉の木を三角形で抽象化して、そこから模様を展開していきました。色も、微妙なトーンを含めて最後の最後まで意見を出し合い、検討を重ねて決めています」(長友さん)

頭や足の部分の塗分けにはマスキングテープを活用
「頭に塗っている三角形が立体感を生み出すポイントなので、マスキングテープで綺麗に塗ってもらえるのはありがたかった」と長友さん

スタンプの押し方や力加減によって、同じ形でも一つひとつ表情が変わります。また、制作で意識したのは「工程を減らす」こと。色数や手順を整理し、福祉の現場で無理なく“同じに量産できる工夫”検討しました。

「手仕事のプロダクトとして、きちんとしたもの作る。今回それが実現できたと思います」(軸原さん)

量産の中にも人のぬくもりを感じられる、優しく力強い作品に仕上がりました。

「程よい複製感」を楽しむ、紙と印刷の力

熊手飾りは「福をかき集める」などの意味を持つ縁起物。お正月だけでなく日常にも飾れるよう、普段の暮らしの中でも願いたいモチーフを考えてお飾りを選定しています。

ふっくらとした笑顔で幸福を呼ぶと言われている「お福」を中心に、「鯛」「鶴」などを配置。上部のスペースには、「天神」「富士山」など、自身や家族に合った願いのモチーフを選んで、オリジナルの熊手飾りを作ることができます。縁起物としての本質を大切にしながら、家庭でも飾りやすい形を探りました。 

COCHAEでデザインした、熊手を彩る縁起物たち

「飾りを熊手にただ挿せばいいと思ったら大間違い。(笑)

重なりやバランスを考えてうまく配置しないと、取り付けにくくなるし落ちてしまうんです。モチーフの提案やサイズ感など難産でしたが、最後は中川政七商店さんの方でサイズ調整をしていただいて、うまく収まったのでよかったです」(長友さん)

どんな素材でどのような表現、作り方で仕上げるのかが悩ましく、何度も試作を重ねて構造やサイズを微調整しました。「お福」以外のモチーフは紙製で、ここにもCOCHAEさんの技とアイデアが光ります。

「懇意にしている岡山の印刷会社の凸版印刷機を使うと、面白いものができるはずという直感があって。味気ないものにはしたくなかったので、紙の質感から、インクの色、エンボス(型で押して凹凸をつける立体加工)や箔押し(熱と圧で箔を転写し輝きを加える印刷加工)などを提案して、質感も色も印刷加工も、それぞれ違うものにしています。

子どもの頃に衝撃を受けたビックリマンチョコのおまけのキャラクターシールのワクワク感のように、印刷の面白さが出せたらと思いました」(軸原さん)

古い凸版印刷機の可能性に着目し、印刷会社と共同で紙と印刷、雑貨と喫茶が楽しめる「備前凸版工作所」も運営中

「紙も、つるつるのものやざらざらのもの、金ぴかのものなどがあって。それぞれの紙で使う色の数を決めて、その中にモチーフをはめ込んで印刷をしてもらいました。紙が変わると発色も変わるので、同じ赤でも鯛のツヤが違って見える。そんな見え方なども一つひとつ調整しています」(長友さん)

細部にわたりこだわりをちりばめたモチーフ。昔ながらの凸版印刷を使うことでかすれやにじみ、平面と立体のメリハリがある豊かな表情が生まれました。

かすれやにじみなどの風合いも魅力的な凸版の印刷物

「凸版は手仕事みたいに一枚一枚ガチャンガチャンと印刷しているので、 “程よい複製感”があるんですよね。まるで版画作品みたいな。古い技法ですが、通常の印刷とは違う個性や新しさが出せるところが興味深いです」

そう軸原さんが語る「程よい複製感」が、完全な均一ではなく少しずつ異なる表情の“ゆらぎ”を生み、手仕事と機械の間にある美しさと魅力を与えています。

伝統の先にひらく未来

日本の文化の中で育まれてきた、工芸や郷土玩具。時代が移り変わる中で、残念ながら失われてしまったものも多くあります。

「全国の玩具を見ると、廃絶したものが本当に多くて。それらを復元・再生していく夢もありますし、アーカイブとして残していきたい。まずは紙作家の大先輩の写真集と展示を企画しています。紙なのに彫刻のようで、本当に格好いいんですよ」(軸原さん)

軸原さんが魅力を感じるという、台湾の出版社「漢聲(ハンシェン)」の書籍。「ここに載っている技法を見れば人形や手芸も再現できそうだし、まるで映画を見ているような本なんです」と、大いに参考にしている

既に実行していること、今後やってみたいことが盛りだくさんなCOCHAEのお二人。過去の文化をそのまま懐古するのではなく、現代の感性で新しい命を吹き込んでいく。紙や印刷、木、土といった素材を通じて、地域の職人や福祉施設とともに新しい価値を生み出していく。それは人の手のぬくもりと文化を未来へつなぐ試みです。

COCHAEさんが生み出す作品は、懐かしさと新しさが交差する、日本の今のものづくりを静かに映し出しているのかもしれません。

そんなCOCHAEさんと一緒に作ったものをはじめとして、今年もたくさんのお正月飾りをご用意しました。「今までお正月飾りを飾ったことがない」という方にもぜひ手に取っていただいて、晴れやかで幸せな気持ちが一人でも多くの方のもとへ運ばれることを願っています。

<取材協力>
「デザイン・ユニット COCHAE」

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文:安倍真弓
写真:黒田タカシ

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