わたしの一皿 血湧き肉躍る
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物申したいことがたくさんある。政治や環境、経済‥‥、いろいろありますけれどもね、今日はもっと小さなテーブルの上の話。みんげい おくむらの奥村です。
肉より魚派の私ですが、たまにはガツンと肉を食べたくなる。そんな時は簡単で、ズドンと肉を食べられるステーキを焼く。
物申したいのは、このステーキなのです。先に言っておこう。肉には罪はない。A5の和牛だろうと、赤身だろうと、オージー、US‥‥なんだろうと、どうぞお好みで。今日は宮城県の牛肉の「ザブトン」。
ちょっと奮発した。赤身と脂身がずいぶん美しいじゃないですか。赤身が好きなので脂はこれだけあればもう充分。
さてステーキの何に物申したいのかと言えば、それはもう圧倒的に「付け合わせ」。こんなことにムキになるのと言われそうだが、そりゃムキにもなる。どこへ行っても、何も考えずにんじん、じゃがいも、それにクレソン (もしくはインゲンか謎のパセリ) 、だ。
そこに季節はあるのかい。それが本当においしいのかい。じゃがいもやにんじんは今やスーパーに行けば365日買えない日はない。飲食店もそりゃ楽だろう。クレソンも最近じゃスーパーにも置いているが、これがなかなかお高いし、正直なところ味もさほど。
家でステーキを食べるなら、この妙な呪縛から解放されるべきでしょう。付け合わせなんて、季節の野菜で十分だ。ということで今日はシェフ奥村 (自称) が、3種の野菜を用意しました。
山形の温海かぶは甘酢漬けに。野菜の甘酢漬けは常備菜。何らかいつもあると便利。このかぶは色がきれいですね。よい口直し。今日は脂もしっかりした肉なので、大根おろしもほしいところ。冬に向かって大根がどんどんおいしくなる。これは地元千葉の大根です。
もう一種、の前に肉を焼く。主役の肉は常温に戻して、しっかり熱したフライパンで外をガリっと。
ホイルで包んで休ませて、好みの厚みに切るだけ。この見た目、もはやタタキ。実にニクニクしい。
最後に、高知の甘長とうがらしは肉を焼いたあとの脂で炒めて、醤油でしっかりと味付け。肉は薄めの塩胡椒のみなので、一緒に食べれば醤油の香りが効いてきます。
付け合わせ、かぶと甘長とうがらしは実は見切り品だったのですよ。肉で贅沢。ここで節約。ふふふふふ。
肉も付け合わせもバチっと決まったらうつわ選び。意外とこれが悩ましい。洋食器はだいたいフラットなんですが、うちで取り扱う皿のほとんどはフラットではなく、深さがある。
これは登り窯で焼かれるうつわが多いからで、多くの産地のうつわが、平らだと土の質として、焼成の時にへたってしまって変形してしまう。なのでフチが上がった、少し深さのある皿が多い。せっかくステーキなので、今日は熊本のまゆみ窯にお願いしている平らなお皿を使いました。
洋風な食材が増えたり、「ワンプレートで」なんてご飯のあり方から、こういったお皿の要望は多い。この皿は、パンの時にもよく使うし、おにぎりとおかず、なんて時にもかなり使い勝手がいい。
日本のうつわの風合いを持ちながら、現代的な生活に合うこんなうつわ。よいもんです。まゆみ窯は、窯元の真弓さんご夫妻が、熊本伝統の小代焼 (しょうだいやき) の窯元ふもと窯に学び、独立した。
民窯に習った確かな技術と、今の暮らしに添った形取りのバランスがよく、うつわ選びのスタートに実はとてもおすすめしたい窯元。
肉よりもうつわよりも付け合わせに熱くなった今回の話。せっかく熊本のうつわだから、熊本の牛肉があれば。と思ったけどうちの近くの肉屋で熊本の「あか牛」売ってるのは見たことがない。
熊本で以前いただいて、ほっぺた落としてきた肉なので、熊本に行かれる用事のある方はぜひ「あか牛」もお試しください。
奥村 忍 おくむら しのぶ
世界中の民藝や手仕事の器やガラス、生活道具などのwebショップ
「みんげい おくむら」店主。月の2/3は産地へ出向き、作り手と向き合い、
選んだものを取り扱う。どこにでも行き、なんでも食べる。
お酒と音楽と本が大好物。
みんげい おくむら
http://www.mingei-okumura.com
文:奥村 忍
写真:山根 衣理