ちそう菰野で、美しい日本庭園と三重のフルコースを味わう休日
ギャラリー・レストラン「ちそう菰野」へ
※現在閉業されております
三重県菰野町で、未来の文化遺産を見つけました。
その場所は、世界的に有名な作庭家、重森三玲(しげもり みれい)が手がけた日本庭園。私邸にあり、今まで家主の親族や近しい友人など以外は、目にすることはできませんでした。
そんな貴重な場所が一般に開かれることとなったのが、2017年9月。
重森氏が手がけた表庭・裏庭に挟まれた邸宅に、新たな息吹をもたらし、「ちそう菰野」というギャラリー・レストランをつくったのが、現代アーティスト田代裕基さん、理恵さん夫妻です。
五感で感じる、空間と料理
近鉄湯の山線「中菰野駅」からほど近く。自然が広がり、住宅が点在する路地を歩いた先にひっそりと佇む、日本家屋の立派な門構え。ここに「ちそう菰野」があります。
「僕たちにとって、ここは表現の場所でもあるんです」
裕基さんの言葉は、室内の奥へと足を踏み入れるごとに実感を増します。
入口すぐの空間は“香りの間”。春夏秋冬、四季の香りにより、1歩1歩、非日常の世界へと誘います。
その先、あえて窓を閉ざし、光を落とした廊下を歩いていると目の前に開けるのが、美しい日本庭園に挟まれたレストランスペース。
耳を澄ますと涼やかな虫の音が聞こえ、嗅覚、視覚、聴覚‥‥と、五感が1つずつ開放されていくような感覚です。
ここで日本庭園の景色とともに味わえるのが、理恵さんの料理。「食材を使ったアーティスト」と裕基さんが称する理恵さんの料理は、素材に手を加えすぎず、その季節の1番おいしい素材を、自然に近しい姿でコース仕立てに。それでいて、突飛な素材同士を見事に融合させるのも、理恵さんの手腕です。
「食材が豊かな菰野町は、贅沢な環境。料理に使うのは、地元で採れたての野菜や、近くで摘んできた山菜やハーブ、県内の漁港で直接仕入れる魚。
お客さまからは、『ここのコース料理は、三重県の縮図みたいだね』って言われることもあるんです」と理恵さんは話します。
田代夫妻が、菰野を拠点に選んだ理由
物心ついた頃からものづくりが好きだったという裕基さんは、芸大在学中からギャラリーからのオファーで作品を展示したり、海外のアート展に出展したりなど、実力の持ち主。
卒業後、彫刻家として活動していく中で、文化庁海外派遣制度でドイツのデュッセルドルフ市に渡り、3年半研修したり個展を開いたりと、活躍の場を広げました。
ドイツから帰国後に、理恵さんとともに「ちそう菰野」をオープン。隣の建物で、彫刻制作も行なっています。
ドイツから帰国した田代夫妻が、なぜ菰野町を活動拠点に選んだのか?
理恵さんの実家が隣接する四日市市と近いこともあり、また、何より山が近くにあり、田園風景が広がる菰野町の自然が、裕基さんのフィーリングに合ったのだといいます。
「大学で東京にでて、在学中には1年のうち3〜4ヶ月はバックパッカーで世界中を旅して、ドイツに行く前は中国にも住んでいたことも。自分の居場所をずっと探してきました。
自分のまわりの友人たちを見ていて、“自然”と近しい暮らしをしている人ほど、生きることに深く向き合う人が多いなと感じてます。だから自然の多い環境へと、自分のベクトルが向いたのかな。
生き方が、その人の表現につながる。そこで僕たちは、この町を選びました」と裕基さん。
「ちそう菰野」の「ちそう」は、「地に沿う」ことや、さまざまなクリエイティブが生まれることを願って「千の創造」だったり、新しいものだけでなく古いものから得る知恵も大事にしていることから「知恵の層」だったり。いろんな意味が込められています。
ギター1本で多重演奏をする、日本でも著名な音楽家TAIKIさんを招いてライブイベントを企画したり、理恵さんが働いていたこともある東京のフレンチレストランのシェフを招いて本格的なフレンチを提供する日を設けたり。
理恵さんの四季により移ろう料理だけでなく、「ちそう菰野」としての空間も進化していきます。
「自分たちの表現だけでなく、ほかの誰かの表現に、ここの料理を融合したり。
『ちそう菰野』は、ひとつのイメージだけではおもしろくないので、常に変化しながら訪れる人の心に残る場でありたいと思っています」とおふたりは話してくれました。
この場所に受け継がれる歴史や自然を尊重しながら、新しいエッセンスを加えていく。
田代さん夫妻が織りなす空間は、訪れる人が自然と五感を開放できる場所でした。
<取材協力>
※現在閉業されております
ちそう菰野
三重県三重郡菰野町大字菰野2657
059-390-1951
http://chisoukomono.com/home/
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文:広瀬良子
写真:西澤智子
*こちらは、2018年10月3日公開の記事を再編集して掲載しました。