日本唯一の木工技術!職人ワザを間近で見学できる「BUNACO(ブナコ)西目屋工場」
エリア
青森県の南西部にある西目屋村 (にしめやむら) 。
人口1400人ほどという県内最小人口の村に、JR東日本の豪華列車「TRAIN SUITE 四季島」がわざわざコースの一部に採用している場所があります。
木工品の工場見学や製作体験で人気の、BUNACO (ブナコ) の西目屋工場です。
BUNACOとは、青森から秋田にかけて世界最大級の原生林がある、ブナの木を用いて作る木工品。お皿やトレーなど、一見すると普通の木工品のようにも見えますが、その作り方がとってもユニークなのです。
その独自の木工技術から食器やトレーに限らずランプシェードや椅子などのインテリアも手がけ、青森県立美術館や世界的な外資系ホテルの照明にも採用されています。
百聞は一見にしかず。とにかく、BUNACOの木工工場へと向かってみましょう!
小学校が木工職人の仕事場に。BUNACOの西目屋工場へ
JR弘前駅から車を走らせること約30分。住所どおりの場所に向かうと、そこにはどこか懐かしい雰囲気の小学校の校舎がありました。
BUNACOの西目屋工場は、小学校だった建物を再活用して2017年4月にオープン。当初から開かれた工場を目指すべく、工場見学や木工品の製作体験も受け付けています (※製作体験のみ有料) 。
工場見学は10名以上の団体でなければ事前予約は不要。工場や職人さんのお休みを除き、受付時間内であれば、ふらりと立ち寄って誰でも見学可能です。気軽に行けるのも人気の理由の一つかもしれません。
BUNACOの工場見学は、ガイドさんが引率して工場内を巡るようなツアーではなく、見学者が自分のペースで順路通りにまわれるセルフ式。
今回は特別にブナコ株式会社の広報担当、秋田谷恵 (あきたや・めぐみ) さんに案内していただきました。
工場見学のスタートは2階から。
まずは、秋田谷さんの案内で、元音楽室という「スピーカー試聴室」へ。
そこにはBUNACOのスピーカーや照明が展示されており、音と光が体感できるようになっています。
「こういう大きなランプを作るようになって、広い場所が必要になったんですよね。そんな時にちょうど西目屋村の村長さんから、小学校の校舎の再活用のお話をいただいたんです」
ブナコ株式会社は1963年に弘前市で設立。もともとはテーブルウェアなどのサイズの小さい木工品を中心に作っていたので、市内の工場でも広さは十分だったといいます。
それが、2003年からランプシェードを販売するようになり、直径90センチほどのものを取り扱うようになると弘前の工場がやや手狭に。現地採用などで職人さんやスタッフを確保しながら生産体制を整え、西目屋に新たな工場を構えました。
今では、BUNACO作りの基本工程は全て、ここ西目屋工場で行っています。
日本一の蓄積量。ブナを有効利用した木工技術
いよいよその製造現場へ。
元教室が並ぶ廊下を進んでいくと、各教室で工程ごとに分かれて職人さんたちが手を動かしていました。
まずは、BUNACO作りの基本、巻き上げ工程を見学。職人さんが、グルグルと何かを巻きつけています。
近づいて、職人さんの手元をのぞいてみると‥‥
巻いていたのは、なにやらテープのようなもの。
「これは、ブナの木をテープ状にしたものなんですよ」
え⁉︎木ってこんなに薄くできるものなんですか。
ブナの木をテープ状にしたものを土台に巻きつけて造形していく。日本で唯一というこの木工技術が、BUNACOの最大の特長です。
なんでも、ここでしっかりと巻かれていないと後々の工程で作業が大変になるのだとか。
それにしても、なぜわざわざ木をテープ状にして使うのでしょう?
「ブナの木には水分が多く含まれていて、伸縮が激しいんです。建材には向かないので、この辺りではりんご箱や薪としてしか使われてきませんでした。
でも、実は青森県はブナの蓄積量日本一。この自然の恵みを何とか有効利用するために開発されたのがBUNACOの木工技術なんです」
テープ状からインテリアに⁉︎繊細な職人ワザ
巻き上げ工程を終えると、次は型上げ工程です。テープを巻いた状態から、一体どうやってうつわやランプになっていくのでしょうか?
さらに面白いのが、その道具。
すでにお気づきかもしれませんが、湯呑み茶碗なんです。
力加減は感覚で、完成形へと近づけていきます。まさに職人の勘がないと難しい作業です。
今でこそ、既製品を使っているとのことですが、かつての職人は骨董市などで自分の手にフィットする湯呑みを探したといいます。
テープのずらし方によって、立ち上がる面の角度が変わり、変幻自在に姿を変えていく様は見ていて飽きません。
テープをずらしすぎてしまうと重なり合う部分がなくなってしまい、巻きがバラバラになってしまいますが、心配ご無用。
テープを巻き直せば、やり直しができます。材料を無駄にせずに済むだけでなく、失敗を恐れずにものづくりに挑戦できるというのは職人さんにとってもありがたいことなのかもしれません。
型上げ作業を経て形ができあがると、塗装前の仕上げへ。木工用ボンドを薄めたものをムラなく全体に塗って、形を固定させます。
乾燥したら、やすりがけをして仕上げへ。
ランプやスツールなど組み立てが必要なものはパーツを組み、製品としての完成形に近づけます。
西目屋に人を呼ぶ。木工工場だけに終わらない戦略
ひととおりの工程を見終えると、1階へ移動。
廊下を抜けると、机と椅子が並ぶ開放的なスペースが広がっていました。奥にはBUNACOの木工製品の数々が購入できるミニショップがあります。
さらにその奥には、元給食室だったところを改装したカフェがあるとのこと。
そこにはBUNACOのランプシェードやスピーカーがあちこちにある、なんともオシャレな空間が広がっていました。
「西目屋村には、これまでこうしたカフェも喫茶店もなかったんだそうです。
小学校再活用のお話を受けて、私たちは西目屋に工場をただつくるのではなく、西目屋を人が呼べる場所にしたいと思うようになりました。
カフェも工場見学もその一環なんですよね」と秋田谷さん。
ものづくりだけじゃない。案内もこなす木工職人たち
「西目屋にたくさんの人を呼びたい」「来た人を喜ばせたい」という思いは、工場にいた職人さん一人一人からも感じられました。
「職人」というと、どこか頑固一徹、寡黙で淡々と作業をしている姿をイメージしがちですが、製造現場にいたBUNACOの職人さんたちはとてもフレンドリー。
作業中にもかかわらず、わからないことや気になることを聞くと、笑顔で丁寧に答えてくれます。
聞けば、工場見学だけでなく、製作体験も全て職人さんたちだけで応対しているとのこと。
そんなおもてなしの素晴らしさもあって、JR東日本の豪華列車「TRAIN SUITE 四季島」のツアーコースの一部にも観光スポットとして採用されています。
でも、細かい作業が多いだけに、作業の邪魔にはならないのでしょうか?
弘前の工場でも働いていた職人さんは、人に見られることによって良い変化があったと言います。
「作業を見られるのは相変わらずめちゃくちゃ緊張しますけど、以前とは気持ちの持ちようが変わりました」
「目の前の人はいずれ自分たちが作ったものを買うかもしれない人。その人たちが手にするものを作っているんだと思うと、よりいっそう気持ちが引き締まるんです」
使い手の姿が見えることでモノに込められる思いがある。訪ねた人も、作り手の姿が見えるとモノに興味や愛着が湧く。
人はやはり、人の姿に心動かされるようです。
BUNACOの素敵な「ものづくり」と「おもてなし」、ぜひ現地で体感してみてください。
<取材協力>
BUNACO
BUNACO 西目屋工場
青森県西目屋村大字田代字稲元196
TEL:0172-88-6730
文:岩本恵美
写真:船橋陽馬