津軽の伝承料理をフルコースで味わえる。「津軽あかつきの会」が仕掛ける、楽しい「食の伝え方」
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津軽に寄ったら必ず訪れてほしいごはん処があります。
といっても表立った看板はなく、一見普通のお家。
しかし中に入れば10人近い「シェフ」が厨房を切り盛りする、ここは「津軽あかつきの会」。
会長である工藤良子さん宅を開放して、週に4日、地元津軽の伝承料理を提供しています。
この日お膳に並んだのは春の素材をふんだんに使った16品。
手がけた「シェフ」はみな、地元のお母さんたちです。
「子どもも手が離れてやっと自分の時間ができたから、ここで料理を勉強させてもらっているの」
長年台所に立ってきたであろうベテランの主婦の方でもそう語るほど、津軽に代々伝わる料理のレパートリーは幅広く、奥深いもの。
作物の採れない冬を越すために、工夫を凝らした様々な保存食が大切に伝承されてきました。
そのできる限りを記録し、自ら作って後世に残していこうと工藤さんはじめ有志数人が活動を始めたのは、20年近く前のこと。
地域のお年寄りに伝承料理について聞いてみると、「知らなかった」料理に次々に出会ったそうです。
米、山菜、豆、海草など、土地の素材を生かし、無駄にせず、美味しく。
流通や食品管理が発達し、保存食の必要性は既にすっかり薄くなっていた時代、「今継いで行かなければ、消えてしまう」と工藤さんたちは危機感を抱いたそうです。
仲間で地域の家々を周って料理上手のお年寄りから伝統的な料理を教わり、地元の道の駅で伝承料理の朝ごはんを提供するように。
早朝から活動するので、「あかつきの会」と名前がつきました。
2006年には聞き取った料理の作り方をまとめた本も発刊。
活動の一環として開くようになった予約制の食事会は、今では遠方からも人が訪ねて来ます。
会のメンバーも次第に輪が広まり、今では29名の方が名を連ねるほどに。
それぞれの都合に合わせ、常時7,8名が入れ替わり立ち代わり、あかつきの厨房に立ちます。
「作るときはね、お盆と正月がいっぺんに来たような忙しさ。でもそれが楽しいの」
この日来ていたのは偶然にも、工藤さんの中学時代の同級生という女性。かつての学友の活躍を知って、友人を誘って訪ねて来たそうです。
「このうつわ懐かしいわ」
「こんな風に味付けするの」
やはり地元のお母さんたちでも、知らないレシピばかりのよう。嬉しそうに会話を弾ませながら、一品一品発見を楽しむように食卓を囲んでいました。
食べている間にもどんどん次の一品が運ばれて来ます。食感も味付けもそれぞれに違って楽しめるのに、どれも共通して優しい味わい。
「大事なのは、塩じゃなくて、出汁を効かせること。そうするとしょっぱくなく味が出るの」
保存食には、こうした出汁の準備など下ごしらえが欠かせません。そのため予約は3日前までにとの決まりがあります。
何日も手間暇をかけ、10人がかりで作る食べきれないほどのご馳走。それが一人たった1500円で味わえるということに、さらに驚きます。
「お金にならない場所は、楽しくないと誰も来ないでしょ」
大事なのは儲けることより、作る人も、食べる人も、この土地の料理を囲んで楽しい時間を過ごすこと。
20年前に工藤さんたちが願った未来は、明るい食卓の周りにしっかりと実っていました。
<取材協力>
津軽あかつきの会
青森県弘前市石川家岸44-13
0172-49-7002
※食事会は木、金、土、日の12:00~14:00。4名から受付、3日前までに要予約。
文:尾島可奈子
写真:船橋陽馬