プロが愛する京都の仏像6選。東寺や平等院鳳凰堂など、それぞれの楽しみ方

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清水寺 © ganden クリエイティブ・コモンズ・ライセンス(表示4.0 国際)

秋の京都で、仏像めぐり

四季折々に違う表情を持つ京都の街。秋には、紅葉を楽しみにお寺めぐりを計画中、という人もいらっしゃるかもしれません。

今年はプロおすすめの京都の仏像めぐりもプランに加えてみてはいかがでしょうか。

おすすめを教えてくれたのは河田喜代治 (かわた・きよはる) さん

仏師 河田喜代治さん
撮影:山口裕朗

滋賀に工房を構える仏師さんです。

「仏師」とは造仏師の略で、仏像を作る仕事。修復も行います。例えば東大寺の金剛力士像で有名な運慶さんも、仏師です。

河田さんは千葉のご出身ですが関西の仏像の魅力にひかれ、修行時代に移住されたそうです。

「修行時代にお世話になった方はみんな、仏師の仕事をするには『とにかくいいものを見ないとだめだ』と。それしかない、と言ってました」

そんな河田さんが「僕個人の好みですけど」と控えめに教えてくれた、京都でおすすめの仏像6つをご紹介します。

「思い出すだけで素晴らしい」東寺 講堂「五大明王」

実は京都の6選の他に、関西5選も伺ったのですが、どちらにも名前が挙がっていたのがこの東寺の五大明王像でした。(関西編はこちら!)

*明王とは‥‥大日如来 (だいにちにょらい) の命によって、悪を退治し仏法を守る諸尊。中でも五大明王は、不動明王を中心に四明王が東西南北を守る。

五大明王といえば東寺、というほど有名なもので、やはり河田さんも仏師の仕事を始める頃からずっと心惹かれていたそうです。

「何度か拝見しましたが、思い出すだけで素晴らしいですね。

講堂の空間そのものや、他の像もまたとても良いんですが、五大明王の中でも不動明王像は、ちょっと何かを超越してるという感じがあります。

静かな怒りの表情と、それを支える体幹は、仏師の仕事をすればするほど、すごさを感じます。

お顔に静かな怒りがうまく存在するように、全体のシルエットの作りが絶妙に調和されてるんですよ。

その表情が引き立つ作りをしてるというか。見事だなと思います」

「仏の理想像」がここに。平等院鳳凰堂「阿弥陀如来坐像」

事前に伺ったアンケートで河田さんが「仏の理想像」と書かれていたのが平等院の阿弥陀如来です。

「平安後期に活躍した定朝 (じょうちょう) という仏師の作とされている像です。

定朝さんは寄木造 (よせぎづくり) という技法を確立させた人と言われていて、彼の作る仏像は、その時代から今に至るまで、理想の仏像とされているんです。

定朝様(じょうちょうよう)といって、仏師は彼の仏像を手本として作りなさいという、型になっているんですね。

実際手がけた仏像を見ていただくと、誰が見ても仏様だなと思うような、とても馴染みのあるお顔をされています。

平等院は建築自体も素晴らしいので、空間との関係性の中でお像を見ていただくのもおすすめです」

怖いけれどもどこか愛らしい。醍醐寺「仁王像」

「今挙げた二つは空間との関係性も気に入っているところですが、こちらは像そのものに注目しています。

平安時代の仁王像ってなかなか残っていないんですよ。木彫って野外に出ているから、傷みも早いし、全国的に平安時代の仁王さんは少ない。

この像は、残っている中でも特殊なんです。仁王像というと怒りの表情のイメージですが、こちらは怖いんだけど愛らしいような、ちょっと笑える、愛嬌のある仁王さんだなと感じます。

また全体の形がいい。平安時代の終わりの頃の作ですが、その頃独特の軽やかな感じが反映されていますね」

端正な顔つきが美しい、清凉寺「阿弥陀如来」

「ここは光源氏ゆかりのお寺です。

平安時代の作ですが、同じ時代の他のお像と違ってちょっと男っぽいというか、力強い感じがあるんですよね。

端正な顔つきも見どころです。お顔立ちが格好いいですね」

中国の色香と祈りの形を体現した姿は必見。宝菩提院「如意輪観音」

「このお像はちょっと特殊で、この6つの中では一番技巧的な感じですかね。中国の色気がけっこう強いんです。

例えば衣紋の作りを見ていただくと、ヒダが本当にふっくらと細やかで、木であるのに布のやわらかさが伝わってきます。

手もとてもきれいですね。

国宝になっていますが、まさに国宝にふさわしい祈りの形という感じです」

花のお寺、勝持寺の小さな小さな「薬師如来座像」

「勝持寺は宝菩提院のお隣なんです。ぜひ合わせて参拝されるのをおすすめします。

花の寺としても知られる勝持寺さんには、素朴な優しさを感じられる白檀の薬師如来座像がいらっしゃいます。像高約9センチほどの小さなお像です。

桜や紅葉を愛でながら勝持寺を拝観し、お隣の宝菩提院の如意輪観音像にも手を合わせ挨拶する。

もちろん仏像がお寺の心なるものですが、それをいろどる境内の自然と花々も、総合芸術として安らぎ与えてくれると思います」


 

東寺の五大明王さまや平等院のお像は空間のなかでの姿の素晴らしさ、醍醐寺の仁王像や宝菩提院の阿弥陀如来は表情に注目。

宝菩提院の如意輪観音は大陸の雰囲気が珍しく、お隣の勝持寺は境内の花々とともにお像に向き合うのがおすすめ。

お像によって見どころが違うのも面白いですね。

仏師さんによっても好みは全く違うとのこと。

皆さんも巡ってみて、ご自分の好みのお像を見つけてみてはいかがでしょうか。

<取材協力>
河田喜代治さん


文:尾島可奈子
メイン写真:清水寺 © ganden クリエイティブ・コモンズ・ライセンス(表示4.0 国際)
河田さん肖像:山口裕朗

*こちらは、2019年9月3日の記事を再編集して公開しました。

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