函館の人に会いたくなる雑誌、peeps hakodate
エリア
きれいじゃない函館を知ってほしい
———函館以外の人が旅をしに来た時に“peeps hakodate”を見てどういうことを思って欲しいですか?
わかりやすくいうと“イカや夜景だけじゃない函館”を知ってほしい。それ以外が函館の面白い所なんですよ。旅をするにしても1回目は定番の観光で、2回目は“peeps hakodate”に載ってるような場所に来てほしいですね。観光施設の赤レンガ倉庫ではなく、さらにその奥にある廃れた古い倉庫とか、人がいない寂れた商店街。寂しい所もまた函館の良さなんです。定番の観光名所は1回目に行ってもらうとして、2~3回目はまた違う函館を楽しんでもらえると思います。ひらたくいうときれいじゃない函館が楽しいんです。
東京でもローカルの文化で成り立っている場所はありますよね。ちょっと歩くと神社が現れたり…函館はそれだけでできているような街なんです。
前に、東京在住の散策好きな女性から聞いたんですが、彼女みたいな人からすると「函館はもうよだれが出るほど楽しい」って。(笑)
わざと知らない道を通る、高台から海が開けて見えたり、急に猫がいっぱいいたり。思ってもみないような場所にあたるのが多いのではと思いますね。あえて調べないで気ままに歩くと楽しいですよ。そんなに広い街でもないから迷いませんし。
若い頃は不便な印象でも、大人になってみると暮らしやすい、大人の街なのかもしれません。30を過ぎてから函館に戻ってくる人も多いんです。仕事がないのは覚悟の上で戻ってくる、本気で好きな人。戻るには覚悟がいりますけどね、収入はさがるし。でも年を取ればとるほど楽しい街だと思います。
毎月必ず人を出す
———毎号ごとに裏テーマはあるんですか?
テーマによって違いはありますけど、とにかく人を出す。函館は人が財産、人がおもしろいという自負があって。そういう人を1人でも多く出したいですね。若い子が「函館はおもしろくない」と言ったら「だったらこういうおもしろい人いるよ~」って、それこそ喫茶店のマスターでも八百屋の親父でも。
函館の人間はシャイだから、過去にやったこととかあまり言わないんですけど、取材して半生を聞くと、びっくりするような事実が出てくるんです。製麺所の社長の取材をした時は、その方はもともと俳優になりたくて文学座に通ってたそうで。中村雅俊と同期で今でも仲良くしているんですって。松田優作や桃井かおりがいた時代ですね。多分若い子が聞いてもおもしろい話がたくさんありますよ。
地元のメディアって、どこでも取り上げるのは「箱」なんです。それは確かに必要ですが、他のメディアがやってるなら我々はラーメン屋(箱)ではなくラーメン屋の親父(人)を紹介する、という感じ。毎月必ず人は出す。小さくても人の顔を出すようにしています。ラーメン屋は食べてもすぐお店を出るでしょう?よっぽどの常連じゃないと、ほとんどの人はその親父がどういう人なのかは知らないまま。でもあえてそういうところにスポットを当てるのが我々の役目だと思ってます。
———この10年の函館を見ていて、何か感じられることはありますか?
外からの函館の印象は飛躍的に良くなって、まず観光客が増えましたよね。メディアが取り上げた新幹線の効果もあって。ブランドイメージは妙にあがっている気がします。でもその一方で、住んでいる人間からすると無くなってほしくない店や場所が無くなっていますね。跡取りがいなかったり、建物が壊されて更地になっていたり。特に西部地区の風景はだいぶ失われたかもしれません。
せっかく観光客が増えたのに、見てほしかったお店や建物がなくなったから、その時期がずれていたらよかったな…というジレンマはあります。
たしかに函館 蔦屋書店ができてからは、生活が変わったと思います。それまで郊外型のショッピングモールに行っていましたが、そこでは見たことのないものが置いてある。こういういいものあるんだ、ちょっと高いけど!これは進歩だと思います。
ある人が言っていたのは「函館 蔦屋書店はスーパーに行く格好では行けないよね」と。それってすごくいいなと。着飾るまでいかなくても、スウェットでは行けない場所。函館は、車で移動する文化だから服にお金をかけないんですよ。でも蔦屋書店はいろんな人に会うし、恥ずかしくない格好をして行こうって思える。それが服だったり、メイクだったり、ただ人が集まる場所ができただけではなく、少なからず経済活動に影響していると思います。あとはおしゃれな文房具を持つ人が増えましたね。
———そういう変化が雑誌の中とリンクしているところはあるんですか。
この雑誌で人選して取材する人は、何かひとつ趣味があったり、自分を持ってる人が多い。取材相手の持ち物を見て、普段どういうところに行ってるんですかって聞くと、「パチンコしか行かない」って言う人はほとんどいない(笑)。持ち物にしても、服にしても、ビジュアルに影響しているち思いますね。この人前こんなにおしゃれだったっけ…とか思ったりして。とてもいいことだと思います。
———この先の目標ややりたいこと(すぐでも、ずっと先でも、函館に関することでなくても)を教えてください!
リアルな目標でも良いですか?去年の春に東京の出版社から“peeps hakodate”を全国に流通させることができたんです。手広くやっていないから限界がありますけど、続けていきたいですね。以前函館に住んでいた読者が「懐かしかった!」と沖縄や九州で買ってくれたという声も嬉しかったです。
無料の本を作りつつ、売るものも作りたいという気持ちがあります。お金を出して手に入れて、尚且つ捨てずにとっておくのが究極ですよね。“peeps hakodate”も大事にしつつ、自分たちの力だけでは難しいところがあるかもしれませんが、全国の方が見てもらえるような本も出していきたいですね。
———最後に、この連載で紹介した他のローカルマガジンについてどう思われましたか
過去のローカルマガジン、あれだけですごい刺激になりました!すごい嫉妬しましたよ、どれもかっこよくて。確実に紙のローカルメディアのレベルがあがってますね。大都市で大手の雑誌編集をやっていた知人も、とにかく今後は地方のことがやりたいと言っていますよ。
———吉田さん、長い時間ありがとうございました。
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東京に戻ってから、資料をまとめていると、こんな記事を発見しました。
———“peeps hakodate”、2014年日本タウン誌・フリーペーパー大賞受賞———
“peeps hakodate”が創刊からわずか1年で、日本タウン誌・フリーペーパー大賞を受賞されていたことを知り、たいへん驚きました。吉田さんは受賞に関することをひとこともおっしゃっていなかったのです。函館の人は、自分のことを多く語らないシャイな人が多いと聞きましたが、まさに身をもって感じたのでした。
函館にお出かけの際は、初めての方も2度目以降の方も、まず“peeps hakodate”を手に入れることからおすすめします!
ここにあります。
北海道内、東京の一部で配布しています。
詳しくは公式facebookページ基本データ内をご覧ください。(peeps 函館)で検索
函館 蔦屋書店
函館をめぐる冒険
全国各地のローカルマガジンを探しています。
旅をもっと楽しむために手に入れたい、全国各地から発信されているローカルマガジンの情報を募集しています。うちの地元にはこんな素敵なローカルマガジンがあるよ、という方、ぜひお問い合わせフォームよりお知らせくださいませ。
※掲載をお約束するものではございません。あらかじめご了承ください。
文:山口綾子
写真:菅井俊之