京都の紅葉は小さな美術館が穴場。混雑を避けて楽しむ、12月の賢い巡り方

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京都の紅葉。そう聞いて、あたり一面真っ赤に染まる風光明媚な景色とともに、人混みを思い浮かべる人も多いのでは。

例年、京都の紅葉は11月の勤労感謝の日前後から見頃を迎え、第3、第4土日は尋常ではない数の人で街中が溢れかえります。

紅葉の狙い目は、12月第1週の東山界隈

実は、京都でも屈指の紅葉の名所・南禅寺と永観堂を擁する東山一帯は、12月第1週ともなれば観光客もひと段落する時期。

例年京都の紅葉が見ごろを迎えるのは11月下旬~12月上旬ですが、年によっては12月の第1週のところもあり、多くの寺院が12月の第1日曜~第2日曜あたりまでライトアップをしています。

バラつきがあるため時期の断言はできませんが、ゆっくりと楽しみたい方にはおすすめです。

そして紅葉の名所がひしめく東山は、小さいけれど秀逸な美術館の宝庫。しかもそのほとんどが王道の紅葉狩りルートに点在しています。

今回は、紅葉の名所と共に、美術館を巡る東山黄金ルートの紹介です。

真如堂の紅葉

名所の間に点在する小さな美術館を楽しむ

東山散策の起点といえば、「南禅寺」や「無鄰菴」に近い地下鉄蹴上駅が候補にあがりますが、ひと駅手前の東山駅での下車がおすすめです。

山県有朋旧邸・無鄰菴の庭はあまりにも有名ですが、ここにも、あの名手が手がけたお庭を持つ小さな美術館があります。

並河靖之七宝記念館(なみかわやすゆきしっぽうきねんかん)

三条通りから平安神宮へ抜ける白川沿いにある、七宝家・並河靖之の自宅兼工房を開放した美術館。

明治から大正期に活躍した並河は生涯をかけて七宝を探求し、有線七宝の技法を用いてさまざまな作品を生み出しました。

並河が七宝で描く季節の花や鳥などの優美な図柄や、多彩な釉薬の色味、独創的な形状は国内外で高く評価され、内国勧業博覧会や万国博覧会などでも多くの賞を受賞しています。

館内では並河の作品を春季と秋季の2回に分けて企画毎に展示しているので、季節を変えてまた訪れるのもおすすめです。

建物も見どころが多く、表屋・主屋・旧工房・旧窯場は国の登録有形文化財、京都市景観重要建造物および歴史的風致形成建造物に指定されています。

並河靖之七宝記念館の植治の庭

さらに忘れてはならないのが、七代目小川治兵衛(植治)の庭。あの円山公園や平安神宮、無鄰菴の庭を手掛けた名作庭師の庭が、この小さな美術館で鑑賞できることはあまり知られていません。

ここなら、植治の庭を思う存分楽しめるのではないでしょうか。

南禅寺で紅葉を楽しむ

並河靖之七宝記念館を出て南禅寺へ。縄張りの名手・藤堂高虎(とうどう たかとら)が手がけた、高さ22メートルの「三門」が現れます。

歌舞伎の演目『楼門五三桐』の中の石川五右衛門の名台詞、「絶景かな、絶景かな」でも有名な三門。その周囲を赤や黄色の紅葉が彩る光景は見事です。

南禅寺の紅葉を堪能した後は、永観堂方面へ向かいます。すると、ここにも小さいながら見応えのある美術館が。

野村美術館

野村美術館

こちらは野村財閥を築きあげた野村得庵のコレクションをもとに開館した野村美術館。茶の湯と能に深く傾倒した得庵のコレクションは、重要文化財7件、重要美術品9件を含む約1700点にのぼります。

中でも茶碗のコレクションは素晴らしく、『練上志野茶碗 銘 猛虎』や中国産の大天目、朝鮮王朝時代の『三島茶碗 銘 土井三島』など名品揃い。茶道関係者も多く訪れるそうです。

練上志野茶碗 銘 猛虎
練上志野茶碗 銘 猛虎
中国の大天目
中国の大天目
三島茶碗 銘 土井三島
三島茶碗 銘 土井三島

また、入り口右手には立礼茶席があり、茶席のみの利用も可能。間近で茶道具を鑑賞しながら、実際に所蔵されている現代作家の茶碗でお抹茶と生菓子が楽しめます。

茶碗を実際に手にするのとしないのでは、やはり印象の残り方が違います。鑑賞した後は、茶碗の魅力を肌で感じてみてください。

こちらは南禅寺と永観堂の中間というゴールデンルートに位置しており、東山の紅葉狩りとなれば、ほぼ確実に通り過ぎるルート。足早に通り過ぎるにはあまりにももったいないほど見応えのある美術館です。

野村美術館を出発して、まっすぐ7分ほど。右手に深紅に染まる永観堂の紅葉を横目に、鹿ヶ谷通りを進みます。

泉屋博古館(せんおくはくこかん)

野村美術館と同じ鹿ヶ谷通り沿いには、全国屈指の青銅器コレクションを展示する泉屋博古館があります。

泉屋博古館

紀元前11世紀の中国ものと伝わる青銅製の太鼓、大きな虎が人間を抱きかかえている酒器、精緻な文様が刻まれた鏡鑑の数々など、見たこともない古代中国のデザインやモチーフには思わず感嘆の声が漏れるほど。

夔神鼓(きじんこ)商時代後期 前12~前11世紀 正面に人面を刻んだ青銅製の太鼓
夔神鼓(きじんこ)商時代後期 前12~前11世紀 正面に人面を刻んだ青銅製の太鼓
商時代後期 前11世紀 虎が人間を抱きかかえる青銅製の酒器
商時代後期 前11世紀 虎が人間を抱きかかえる青銅製の酒器

青銅器の概念が覆されるだけでなく、その膨大なコレクションにも圧倒されるばかりです。

休憩スペースが紅葉の穴場

そして素晴らしいのは休憩スペースからの眺め。東山が迫る広々とした庭園が大きなガラス張りの窓いっぱいに望め、赤や黄色に染まる晩秋の東山との対比が見事。

休憩室から見た中庭の風景

広い館内を存分に楽しんだ後は、鹿ヶ谷の雅な風景を眺めてひと息。本当は秘密にしておきたい穴場スポットのひとつです。

泉屋博古館から少し東へ逸れて哲学の道へ。春は世界中からの観光客で賑わうこの場所は、秋になれば人もまばらでひっそりとした静寂が訪れます。哲学者・西田幾多郎が思索にふけって歩いた道は、こんな雰囲気だったかもしれません。

再び鹿ヶ谷通りへ向かい、さらに白川通りを渡って吉田山方面へ進みます。

真如堂

哲学の道から徒歩10分ほどの吉田山の麓にあるのは、京都屈指の紅葉名所・真如堂。色とりどりの景色の中に三重塔がそびえる様は目を見張るほど美しく、本堂をぐるりと一周囲むように真っ赤な紅葉が燃え広がります。

真如堂の紅葉

どこを見渡しても紅葉・紅葉・紅葉。

何層にも紅葉の葉が重なっており、先に色づいた上層の葉が落ち、それによって下層の葉が日に当たって紅くなるので、時期によっては、上も下も紅一色の世界に染まる幻想的な景色が見られます。

真如堂の紅葉

そして驚くべきは、これだけ豪勢な景色が無料で楽しめること。ここまで贅沢な紅葉狩りは、京都の街中ではなかなかできない体験です。

真如堂の紅葉

真如堂の門の正面にある宗忠神社の入口から吉田山に入り、宗忠神社の境内を経て竹中稲荷神社へ。

吉田山一帯

参道に並ぶ赤い鳥居や本殿と紅葉のコントラストは息を飲むほど美しく、観光客の滅多に来ない穴場の紅葉スポットです。真如堂から徒歩5分とは思えない静寂に包まれます。

竹中稲荷神社から徒歩5分ほどの山頂にあるのが、吉田山の名店・茂庵。2階の客席では東に大文字山、西に京都市街を眺めながら、美味しいコーヒーや手づくりのケーキなどがいただけます。

吉田山の名店・茂庵

重要文化財に指定されている木造建築の空間も素敵です。

茂庵から吉田山の反対側へ下り、吉田神社の境内を通って重森三玲庭園美術館へ。

重森三玲庭園美術館

こちらは東福寺本坊庭園や光明院の庭を手掛けた作庭家・重森三玲の旧宅で、吉田神社界隈で残る本格的な社家の唯一の遺構。

寺院の庭と違い、住宅建築に適合した三玲の庭が京都で見られるのはここだけです。

重森三玲庭園美術館

モダンな市松模様で波を表現した襖絵など、桂離宮にも見られるような、歴史的建築と現代的なデザインとの融合も新鮮です。

重森三玲庭園美術館

見学は午前・午後それぞれ1回ずつの予約制。重森家の親族の方の解説を聞きながら見学できます。

ご紹介したすべての行程は距離にして5キロほど。各スポット間の移動所要時間は長くて徒歩10分程度です。

由緒ある名所・旧跡が一堂に会し、紅葉と同時に世界中から人々が押し寄せる東山エリア。人混みに負けず王道を行くのも京都の秋の風物詩ながら、たまには少し横道へ逸れて、京都の持つ数々の「美」を楽しむ紅葉散策はいかがでしょうか。

<取材協力>

並河靖之七宝記念館
京都市東山区三条通北裏白川筋東入ル堀池町388-2
075-752-3277
10:00~16:30(入館/16:00)
休館日/月・木曜(祝日の場合は翌日)
※夏季・冬季長期休館有
http://www.kyoto-namikawa.jp

野村美術館
京都市左京区南禅寺下河原町61
075-751-0374
10:00~16:30(入館/16:00)
休館日/月曜(祝日の場合は翌日)
※夏季(6月下旬-8月下旬)、冬季(12月下旬-2月下旬)は休館
http://nomura-museum.or.jp

泉屋博古館
京都市左京区鹿ヶ谷下宮ノ前町24
075-771-6411
10:00~17:00(入館/16:30)
休館日/月曜(祝日の場合は翌日)
https://www.sen-oku.or.jp

真如堂(真正極楽寺)
京都市左京区浄土寺真如町82
075-771-0915
9:00~16:00
https://shin-nyo-do.jp/

重森三玲庭園美術館
京都市左京区吉田上大路町34
075-761-8776
予約観覧制
電話またはメール(shigemori@est.hi-ho.ne.jp)にて予約
http://www.est.hi-ho.ne.jp/shigemori/association-jp.html

文:佐藤桂子

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