新茶を美味しくいただく、村田森さんの白磁急須
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連載「日本の暮らしの豆知識」の5月は旧暦で皐月(さつき)のお話。
皐月の語源は、耕作の意味をなす「さ」から、稲作の月ということを意味して「さつき」となったとされます。そして、皐の字には、神に捧げる稲という意味があるので、この字が当てられたのだとか。
旧暦はわずかな文字数の中に、日本の自然や風習などが含まれており、言葉から風景を感じますね。
皐月は田植えに始まり、農作業の忙しい時期。例えばお茶も新茶が出回る頃です。
「夏も近づく八十八夜‥‥」の茶摘みの歌はよく知られていますが、立春から数えて八十八日目なので、だいたい5月2日頃に当ります。
ただ日本も南北に長い国なので、茶産地によって茶摘み時期は異なります。一番早い4月上旬の鹿児島県あたりを皮切りに、日本一の茶産地静岡では4月中旬から5月半ば、奈良は少し遅めの5月中旬以降が最盛期です。
新茶と言ったり一番茶と言ったりして、現在の進化した製茶技術では1年中、一番茶を楽しむことが出来ますが、やはり出来立ての新茶は格別の味わいです。
新茶は春の芽生えとともに成長する新芽なので、香りや旨味成分がたっぷり。葉も柔らかく渋みも少ないので、甘くてやさしい味わいのお茶が好きな方には特に飲みやすいと思います。茶殻も柔らかいので、ポン酢やお醤油をかけておつまみとして食べるのも乙な味。
私は、新茶を淹れるのに、「宝瓶(ほうひん)」を活用しています。
宝瓶はあまりメジャーではありませんが、持ち手の無い急須なので場所も取らず、洗いやすく、淹れた後の茶葉がよく見えます。また、人の前で淹れるのにも所作が格好良く決まりますよ。
京都・村田森さんの白磁急須
写真で使っているのは、京都の陶芸家、村田森さんのシンプルな白磁。青々とした茶葉の色が映えます。
美味しい淹れ方ですが、一煎目は70度くらいの低温で30秒。沸騰させたお湯を、まずは湯呑みを温めるなどでややぬるめに冷ましてから宝瓶に注ぎます。低温で淹れると渋みが出にくく、甘味と旨味を堪能できます。
その後二煎目、三煎目は程よい渋味も味わえ、風味の変化を楽しむことができます。宝瓶だと、開いた茶葉の色や清々しい香りも分かりやすいのです。
更に淹れ方のポイントですが、最後の一滴に旨味がギュッと凝縮されています。湯呑みに注ぎ分ける際に最後の一滴がポトリと落ちるまでじっくり構えてください。その湯呑みはお客様におすすめしましょう。
最近、巷でもお茶が注目されている気がします。サードコーヒーブームも少し落ち着いて、次のスポットライトがお茶に当たっている!?
嗜好品なので、好きなものを好きなように飲むのが良いのですが、コーヒーとお茶だと楽しみ方が少し違う気がしています。特に時間の流れが違うような。
個人的な意見ですが、コーヒーはフットワークが軽いイメージもあり、お茶はのんびりまったりな時間が似合うと思いませんか?
例えばアジアでの旅先で、動き疲れた時に茶館でお茶を飲みながらゆっくり過ごしていたら気付くと1時間以上経っていました。お茶は味が変化するので何杯もずっと飲んでいられます。
一見贅沢な時間の使い方ですが、このオフモードが大人の旅にはとても良い時間だと感じました。
家では1人でよくお茶を飲みますが、たまには家族や友人との気軽なお茶会でリラックス時間を共有するのもいいなと思っています。
ちょっと特別なお茶や、美味しいお菓子がある時に、いつもより少し道具の取り合わせを考えて、でもかしこまらずにのんびりと。たいそうなお菓子が無くても、金平糖やナッツ、ドライフルーツのような軽いお茶菓子でも十分です。気軽な会話を楽しんでいると思わず数時間経ちそうです。
今回は道具よりもお茶、そしてお茶の時間が主役の、皐月の暮らしの豆知識でした。
細萱久美 ほそがやくみ
元中川政七商店バイヤー
2018年独立
東京出身。お茶の商社を経て、工芸の業界に。お茶も工芸も、好きがきっかけです。好きで言えば、旅先で地元のものづくり、美味しい食事、美味しいパン屋、猫に出会えると幸せです。断捨離をしつつ、買物もする今日この頃。素敵な工芸を紹介したいと思います。
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文・写真:細萱久美
*こちらは、2017年4月6日の記事を再編集して公開いたしました