ピンク色を「桜色」と呼ぶのはなぜだろう。実は難しい桜色のものづくり
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きっぱりとした晒の白や漆塗りの深い赤のように、日用の道具の中には、その素材、製法だからこそ表せる美しい色があります。
その色はどうやって生み出されるのか?なぜその色なのか?この連載では、ものづくりの「色」にまつわる物語をお届けします。
今回は、日本の春を染める、桜色。
桜色とは?花の色に思うあれこれ
実は英語でpinkといえば、ナデシコ属の花を指します。カーネーションもそのひとつ。
薄桃色の何かを見て「ピンク色」ではなく「桜色」と呼んだりするのは、日本人ならではなのかもしれません。
小野小町が詠んだという有名な一首にも、桜が登場します。
花の色は うつりにけりな いたづらに
わがみよにふる ながめせしまに
古い歌で「花」といえば桜のこと。咲き誇る桜がいつの間にか色あせてしまう様を、自身の美貌の衰えと重ねて詠んだとも言われています。
毎年その開花を我がことのように喜び、その散り際に人生まで重ねてしまう。
桜がこれほどまでに日本で愛されてきたのは、桜の開花を1年の農耕がはじまる予兆として人々が重んじてきたためとも言われています。
サクラの語源は、「さ」が田畑の神様、「くら」が神様が鎮座する場所。「桜の木の下で宴を開くことが、自然と農耕の始まるこの季節の行事になっていったんだと思います」と、以前桜についてお話を伺ったプラントハンターの西畠清順さんは教えてくれました。
桜の楽しみ方は、お花見だけに終わりません。園芸として自ら育てたり、歌に詠んだり描いたり、塩漬けにして食したり。そして小野小町も「花の色は」と詠んだように、その淡いピンク色をこよなく愛してきました。
桜色をつくるには。工房夢細工が叶えた「桜染め」
その桜色、実は作りだすには従来、紅花や茜が用いられてきました。
桜の木から抽出する染料の中にはオレンジ系の色素が多く含まれ、ピンク色だけを取り出すことは技術的に不可能とされてきたそうです。
しかし近年、福岡にある工房夢細工さんが日本で初めて、原材料に桜のみを使った桜染めに成功。
「さくら初め」と名付けて、様々な美しい桜色の染めものを生み出しています。
さて、今年の桜はどんな具合でしょう。
なかなかお花見に行けないという日は、持ち物や家の中に「桜色」のものを取り入れて愛でてみるのも、いいかもしれません。
<協力>
株式会社工房夢細工
文:尾島可奈子
*2017年4月11日の記事を再編集して掲載しています。