わたしの一皿 たまには失敗
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最初にあやまっておきたい。ごめんなさい。今月は料理の仕上がりがイマイチなのです、とほほ。とほほほほ。みんげい おくむらの奥村です。
食材の色をいかした煮物は、薄口醤油か白醤油が良いのだけど、すっかり切らしていた。あー残念。味はよいのに真っ黒じゃないか。家の料理なのでそういうこともある。ありますよね。前向きにいきましょうか。味はよかったのですよ、実に。
春は苦味の野菜や山菜の季節。きびしい冬が終わり、ぐぐっと伸びてきた緑に苦味がある。これってなんだかすてきじゃないですか。きっとこの苦味には意味がある。口にすればおいしいし、身体をどこかきれいにしてくれるような気がするから。
ということで今月は「ふき」。緑がきれいな食材です。北海道から沖縄まで全国で見られるふき。しかもそこら中にあるので昔からなかなか優秀な春の食材だったのだったんじゃないでしょうか。板ずりして、塩つきのままゆでて、冷水にとり、皮をむく。下ごしらえがちょっと面倒なのは季節食材のかえってよいところじゃないかとも思えます。できあがりがますます楽しみになるから。
小さいころは、ふきってなんともぼんやりとした、あってもなくてもよい食べ物じゃないかと思っていたけれど (ストロー状の食べ物って子供心に楽しいものだけど、なぜかふきはそこまで気持ちが上がらなかった) 、大人になってくるとしみじみ美味しい。むしろ好んで食べたいと思うばかり。
ふきに合わせたうつわは丹波のもの。丹波立杭焼 (たんばたちくいやき) は六古窯の1つで、長い、長い歴史をもつ。このうつわは俊彦窯という窯で焼かれたもので黒い釉薬が掛かっている。黒いうつわも良いもんです、と、この連載で黒いうつわを使うのは二回目。黒い釉薬から時折、赤ともオレンジとも思えるような土の表情が見えます。鉄分の多い土が焼成によってこういう色になっているんです。そのちょっとした表情がまたこのうつわのよいところ。黒なのに強さや暗さは感じない。どこかぼってりと田舎っぽいおだやかな雰囲気がする。民藝のうつわのよさ、というのはまさにこういうところ。
そうそう、丹波というのは兵庫と京都にまたがっている地域ですが、焼き物の丹波は兵庫。丹波篠山と言えば「あっ」と思う食いしん坊がいるかもしれない。黒豆、松茸、栗に猪にワインに‥‥。そう食材の宝庫。そんな土地だから、山が美しいんですよね。大阪からも神戸からも遠くないのにまるで別世界。そろそろ窯元の工房の中にツバメが巣をつくりにやってくる頃かな。
そんな場所で作られるうつわなので、ふきだったり他の山菜だったり、山の食材にもよく似合うのは当然かもしれない。
ところでこのかつおぶしたっぷりに煮る煮物は、ふきの、苦味があるのにどこか柔らかさや丸さがあるという不思議な味わいと、かつおぶしに醤油というわれわれが慣れ親しんだ和食の基本の味わい。どこかなつかしさと、奥ゆかしさや余韻を感じるという、まさに日本の味、日本らしさなんじゃないかと思います。ずーっと伝えていきたい味わいです。
ふきの煮物がうれしいのは冷めてもおいしいこと。作って2日目、3日目ぐらいには、お腹が空いてきた夕方、ホウロウ容器からこれをちょっと取り出してうつわに移し、冷たいままでとりあえず。ちょいとおちょこ一杯の日本酒でもやれば、エンジン掛かって夕飯のしたくも加速します。
そんなだから、何日か持つからと思ってある程度たくさん作るのだけど、すぐなくなってしまう。春はつくづく食いしん坊にはうれしい季節です。
奥村 忍 おくむら しのぶ
世界中の民藝や手仕事の器やガラス、生活道具などのwebショップ
「みんげい おくむら」店主。月の3分の2は産地へ出向き、作り手と向き合い、
選んだものを取り扱う。どこにでも行き、なんでも食べる。
お酒と音楽と本が大好物。
みんげい おくむら
http://www.mingei-okumura.com
文:奥村 忍
写真:山根 衣理