きものを今様に愉しむ きもので町歩き 初夏の浅草へ
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こんにちは。ライターの小俣荘子です。
私はここ数年、洋装と和装それぞれ半分ずつくらいの割合で外出するようになりました。慣れてしまうと思いのほか楽しく快適なものですが、出かける先々で「大変でしょう」と労いの言葉をかけられてしまったり、不安を口にされつつも興味を持ってくださる方にたくさん出会いました。きものは現代の装いとして身近なものではなくなっている一方で、いつかは着てみたいと興味を持っている方も多いようです。
洋服と同じようにきものも日常に取り入れられたら、毎日はもっと彩り豊かになるはず。連載「きものを今様に愉しむ」では、きものとの付き合い方や、愉しむヒントをご紹介してまいります!
第1回では、「きもの やまと」会長できもの文化育成にも多大な貢献をされている矢嶋孝敏 (やじま・たかとし) さんにお話を伺い、「きものはもっと自由でいい!」ということを知り、勇気づけられました。
第1回 「歴史を知り、自由にきものと向き合う」はこちら
案ずるよりも、まずは纏ってみる
きものの大きなハードルとして、持っていない、着付けが自分ではできないという点がよく挙げられます。しかし、最近ではカジュアルに楽しめる着付け付きレンタルサービスが様々な形で展開されており、活用すると気軽にきものでお出かけできるようになりました。
今回は、「まずはきものを纏って出かけてみよう!」と、レンタルサービスを利用してきもの姿で浅草の町を散策してみることにしました。
浅草や鎌倉、京都や金沢など、昔ながらの日本の街並みの残る地域では、きもののレンタルサービスが数多く展開されています。今回は、浅草駅直結の商業施設、EKIMISEの4階にある呉服店「なでしこ」のレンタルサービス「えきレン」を利用させていただきました。レンタルの方式はお店によって様々ですが、こちらのお店では、きものの着付込 (ヘアセット無し) で5,400円 (税込) 、レンタルしたきものは気に入ればそのまま持ち帰ることができます (追加料金はかかりません。小物や帯は要返却) 。着替えた洋服などの預かりサービスもあり、身軽に出かけられるのも嬉しいところ。電話またはWEBで事前予約し、約束の日時にお店を訪れます。
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スタイリングの愉しさを知る
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レンタルできるきものは、なんと約60種類ほど。様々なデザインの中から自分のお気に入りが選べます。
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洋服とはまた違った柄や色が似合ったり、いつもとは少し違う自分に変身できるのもきものの魅力。可愛らしく着てみたり、はんなりとした雰囲気を纏ってみたり、いつもより少し大人っぽい装いを試してみたり。迷ったらお店の方に相談してみましょう。思いがけない似合うものを教えてもらえたり、イメージに合うスタイリングを提案してもらえます。
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少しずつ候補を絞っていき、鏡の前で合わせてお気に入りの一着を選びます。洋服では無地のシンプルな着こなしがお似合いのモデルさん。今日は、提案していただいた花柄にチャレンジです。ちょっと派手かな?と思うような大柄でも、きものだと自然と着こなせることがよくあります。洋服ときもの、両方を選択できるとおしゃれの幅も広がりますね。
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きものでは、お洒落のひとつとして半衿 (はんえり) とよばれる衿をインナーの長襦袢 (ながじゅばん) につけて重ね着します。
半衿は、白い無地の他、刺繍が入っているものや柄があるものなど様々です。こちらのお店では半衿も好みのものを借りられます。今日はドット柄を合わせました。
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ささっと着付けていただき、次は帯を選びます。同じきものでも帯を変えるだけで雰囲気ががらりと変わります。どんな風に着たいか気分に合わせて選びます。
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今日は、可愛らしさのある花柄に締め色となる濃いめの紫の帯を合わせて、柔らかさの中に少し落ち着きのある雰囲気に。初夏の爽やかな気候にもぴったりの装いとなりました。
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きものと帯にあわせて帯揚げ (おびあげ) と帯締め (おびじめ) も選びます。この部分の色合いを変えるだけでも雰囲気が変わるので、1着のきものでもスタイリングは無限大です。
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こちらのレンタルサービスでは、足袋とバッグ以外は全て借りることができます。足元も装いに合わせて好きなデザインのものを選んで、全身のスタイリングの出来上がりです。
きもの選びから着付けまで30〜40分ほど。楽しんでいる内に、あっという間に完成しました。お会計と荷物を預ける時間を含めて1時間くらいを見ておくと安心です。
さあ、町歩きへ!
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「きものは、マキシ丈のスカートを履いているようなもの。階段では裾を少し引き上げたり、歩幅に気をつけて歩くと美しく過ごせますよ」と、プレスの青木さんがアドバイスしてくださいました。なるほど、スカートだと思うと身のこなし方がわかりますね。
さて、ここからは私たちの「きもので浅草町歩き!」にお付き合いくださいませ。
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まずはどこかでランチでも、とお店を眺めながら歩きます。浅草の町は、昔ながらの洋食店や、天麩羅、牛丼やすき焼きなど名物グルメの銘店がたくさん。今日はお蕎麦屋さんに入ることにしました。
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きものは袖が長いので、たもとを押さえて手を動かしたり、自然と仕草がていねいになります。食事の際にも少しゆったりと優雅に。それだけで普段と違う時間が訪れるように感じます。お蕎麦のつゆなどのはねが心配な場合は、大判のハンカチや手ぬぐいを用意しておいて、膝の上に敷いたり、帯や衿に掛けて汚れを防ぐなど、ナフキンのように使うと安心です。
非日常感を味わう
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せっかくのきもの姿での浅草散策。思いっきり満喫するのであれば、人力車もおすすめです。爽やかな風を切って車道を駆け抜ける人力車。走っている間も座席は安定していて乗り心地はとても快適。慣れないきものでも安心ですね。
この日乗せてくださったのは、浅草の老舗人力車「時代屋」の鈴木芳昭 (すずき よしあき) さん。この道11年のベテランの方でした。お話も面白くて、オススメの撮影スポットやお店なども紹介していただきました。人力車を操る車夫の方々は、みなさん気さくで観光知識も豊富。最近では海外からの観光客の方も多く、外国語が堪能な方もいらっしゃるのだとか。乗る体験だけでなく、頼れる観光相談役でもありました。
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人力車の乗り降りは段差もありますが、踏み台を用意してくださっていて、ていねいにエスコートしていただけました。どこかの姫君になったような….なんだかドキドキしますね。
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浅草を訪れたからには外せないのが雷門。ここからは仲見世通りを通る王道ルートで浅草寺へ。
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仲見世通りには、お土産物屋さんや、うちわや扇子、履物などの工芸品のお店、人形焼やお煎餅、お団子屋さんなどが軒を連ねていて、歩いているだけでその賑わいを楽しめます。平日のお昼間の撮影でしたが、この日もたくさんの観光客で賑わっていました。
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こちらは名物の揚げまんじゅうのお店。現在、仲見世通りでは、食べながらの歩行は禁止されていますが、こちらのお店はお店の前での飲食はOKとのこと。私たちも1つ頂きました。ホクホクで美味しい。
浅草寺でお詣り
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お詣りのあとは、花やしきの前を通って、六区ブロードウェイから浅草演芸ホールへと歩きました。
「きものは高価なもの、汚してしまったら大変!」という先入観があると、なかなかアクティブに扱えなくなってしまいますが、化繊の洗えるきものは、ネットに入れて自宅の洗濯機で気軽に洗う事ができます。歩き回って汗をかいてしまったり、食べ物や煙のにおいなどが付いてしまったり、裾が汚れてしまった時も、ワンピースのような感覚でお手入れすれば問題ありません。化繊の洗えるきものに限らず、きものでも素材次第で必ずしも難しいお手入れが必要なわけではありません。カジュアルなきものでのお出かけは、思いっきり愉しんでしまいましょう!
レトロモダンを愉しむ
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たくさん歩き回ってたどり着いたのは、レトロな雰囲気が素敵なお店「アンヂェラス」。創業70年以上の浅草の老舗喫茶店でした。
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お酒好きの創業オーナー考案の「梅ダッチコーヒー」や、洋酒をふんだんに使ったケーキ「サバリン」などが有名です。お酒を効かせた看板メニューは作家・池波正太郎や手塚治虫など、多くの著名人にも愛されてきたそうで、机にはサイン入りのイラストが飾られていたり、愛して通った方々の気配がありました。
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町歩きの最後は、吾妻橋へ。川の風を感じながらスカイツリーを眺めて記念写真を撮りました。帰りはレンタルでお世話になった「なでしこ」へ戻ります。着替えて、レンタル品をお返しします。きものはその場でたたんで包んで頂き持ち帰ることができます。きものを始めるきっかけになりますね。
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映る世界が変わって見える
昔ながらの街並みや、純喫茶などのレトロ空間にきもの姿で訪れると、時空を超えたどこかに迷い込んだような、物語の世界に入り込んでしまったような不思議な気分になって色々と想像が膨らみます。出かける場所によって気分が変わることはもちろんのこと、自分自身の装いによっても気持ちは大きく変わります。それは、普段と違う歩幅だったり、仕草に表れる変化がもたらすものかもしれないし、ガラスや鏡に映るきもの姿を見た時の特別感が連れてくるものかもしれません。自分の知らない自分に出会えると、行動や発想にもきっともっと自由で新しいことが生まれるはず。たまには少しおしゃれして出かけよう、そんな思いの選択肢にきものも加わると日々はもっと彩り豊かになるのかもしれません。
これから訪れるゆかたの季節。ゆかたはカジュアルきもの以上に気軽に、初めての方でもハードル低く始められる装いです。レンタルサービスを活用してみたり、着付けレッスンに出かけてみたり、ちょっとしたことで思いのほか簡単に始められるものです。「いつかはきものを着てみたい」そう思っている方は、ぜひこの夏からきものの世界に一歩踏み出してみてはいかがでしょうか。
きっと愉しい、新しい世界が広がっていますよ。
<取材協力>
株式会社やまと
東京都渋谷区千駄ヶ谷5丁目27番3号
株式会社 時代屋
東京都台東区雷門2丁目3番5号
文・写真 : 小俣荘子