【家しごとのてならい】木の道具のお手入れ

毎日の家しごと。それなりに何とかできるようになり、だいたいは心得たつもりだけれど、意外と基本が疎かだったり、何となく自己流にしていたりするものってありませんか?

そのままで不都合はないものの、年齢を重ねてきたからこそ、改めて基本やコツを学んでみたい。頭の片隅にはうっすら、そんな思いがありました。

この連載では、大人になった今こそ気になる“家しごとのいろは”を、中川政七商店の編集スタッフがその道の職人さんたちに、習いに伺います。

とはいえ、難しいことはなかなか覚えられないし、続きません。肩ひじ張らず、構えずに、軽やかに暮らしを楽しむための、ちょっとした術を皆さんにお届けできたらと思います。

今回のテーマは「木の道具のお手入れ」。奈良県でひのき・杉を中心とした国産木材による木製品を製造する、ダイワ産業の専務取締役・中西さんを講師に迎え、編集チームの谷尻が習いました。


今回の講師:ダイワ産業 専務取締役 中西正智さん

1970年創業。奈良県高市郡高取町で、まな板や桶などを中心に国産材を使った木製品全般の製造販売を手がける。自社製品の製造だけでなく、様々な企業からのOEM生産の依頼やノベルティグッズの製造など、幅広い業種業界の製品に対応する木製品製造のプロフェッショナル。
https://daiwa70.com



木の道具の基本

温かみのある見た目や触れたときの質感が、他にはない魅力を持つ木製品。台所や食卓、その他、家のあらゆる場所に木の道具があるだけで、何となく心が落ち着くように思います。

五感に心地好いだけでなく、素材が持つ機能的な良さも確かにある一方で、取り扱いには一定の注意が必要。かくいう私自身、包丁傷が無数に入ったまな板をどうしていいかわからず未だそのまま使い続けていたり、お気に入りの巻きすにカビを生やしてしまったりと、“お手入れつまずき組”の一人でした。

でも、やっぱり木の道具は好きだし、うまく付き合っていきたい。そう思い、木製品一筋のダイワ産業さんを訪れました。雑貨から家具まで様々ある木製品ですが、今回は中でも台所や食卓で使う道具に的を絞り、お話を伺います。

取材の合間に、工場の見学もさせていただきました

木の道具の良い点と、注意点

まずは木の道具の基本から習います。

ご存知の通り、おひつや曲げわっぱなどにごはんを入れておくと、冷えてからももっちりとおいしく食べられますよね。この理由を中西さんに伺うと、「木材の持つ吸放湿の機能によるものです」と回答が。木は調湿性に優れており、炊き立てのご飯など、水分量が多い場合は水分を吸収し、乾燥してきたらまた放出する特性があるといいます。そのため、ちょうどよい水分量が保たれるのだそう。

また見た目の印象が温かいだけでなく、実際に触って温かいのも木の良いところ。これは断熱性能が高いことが理由です。

中西さん:

「木は熱を跳ね返す機能を持っていて、例えば手で木の道具を触って『温かいな』と感じるのは、もともとの手が温かいからなんです。手の熱が握った木から跳ね返り、温かさを感じるという仕組みです」

その他には、木材により木肌の表情や硬さ・やわらかさが異なるため、適材適所で使い分けられるのも素材としての魅力。ひと口に「木」といっても様々な樹種があり、それぞれに特徴が異なるため、いろいろな選択肢からベストを検討できる選びやすさもいいところです。

反対に、素材としての難しさは?と伺うと、「何といってもカビですね」と中西さん。確かに私も前述のとおり、不注意からお気に入りの道具にカビが生えてしまった苦い思い出があります‥‥。

中西さん:

「カビ対策については各メーカーさんそれぞれが工夫をされていると思います。例えばカビが生えないような塗装を施したり、しっかり乾かして収納することを徹底して推奨したりなどですね。お持ちの道具によって加工も異なるので、どうカビ対策をするかは新しく木の道具を迎えるうえで、まず押さえておきたい点です」

その他には「変形」も扱ううえでの注意点。木材は乾燥すると縮み、水を吸うと膨らむ特性を持つため、その時々で多少体積が変わります。さらに、乾燥させすぎると割れに繋がる場合も。極端に乾燥させるような環境では使わないなど、注意が必要です。

木の種類による違い

木材は大きく分けると針葉樹と広葉樹の二つがあり、杉やひのきなどは軽くてやわらかい針葉樹、山桜やタモなどは硬くて重い広葉樹に属します。道具を作る際は基本的に、硬い必要があるものには硬い木材を採用するなど使い分けが行われており、例えばダイワ産業さんでは、まな板はひのきで作ることが多いよう。

中西さん:

「まな板は片手で持ち上げることもありますし、洗うときも軽い方が作業がしやすいですよね。あと、ひのきの一番のいい点は刃当たり。まな板が硬いと包丁の刃が傷みやすいのですが、やわらかいことで刃を受け止めやすく、包丁の刃が長持ちします。もちろんその分多少まな板に傷はつきやすいのですが、しっかり洗って乾かしていれば、その傷によって汚れや菌が増えるなんてこともありません。そういった理由からうちではひのきを使って作ることが多いですね」

向かって左2枚が広葉樹、右2枚が針葉樹。体積はほぼ一緒ですが、持つとはっきりと重さが異なりました

その他には桶も針葉樹で作られることの多い道具の一つで、この理由も軽いことが大きいそう。また針葉樹の方が加工後の変形が比較的少ないため、この点も考慮し採用しているといいます。

一方、広葉樹が使われる食卓道具の代表例としては、お椀やお皿など。木材がやわらかいと使っているうちに傷がつきやすいので、硬い素材を使うことが多いようです。さらには、硬い木材の方が加工がしやすく、きれいに仕上がることから使われるという理由もあるそう。

中西さん:

「僕たちは“荒れ”って呼ぶんですけど、やわらかい木材は加工すると木の表面の仕上がりがざらざらっと毛羽立ちやすいんです。反対に硬い木はつるりと仕上げやすいので、お椀などの食器には硬いものが使われることが多いです」

ちなみに「家具や家の床に使用する木材は、どう使い分けるのですか?」と伺うと、「決まりがあるわけではなく、風合いの好みで決めていただいて問題ありませんが、和の家には杉やひのきといった国産の針葉樹を、洋風の家には海外産の広葉樹が主に使われますね。そもそも一部を除いて多くの家具は外国から入ってきた文化なので、それに倣って家具屋さんも海外産の木材で作ることが多いんだと思います」とお答えがありました。

中西さん:

「国産と海外産で機能に差があるわけではないのですが、うちではほとんどの商品で国産材を使用しています。例えば一般的によく使用される海外産木材の一つであるウォールナットは、国産だとくるみの木。どちらが良い悪いという話ではなく、印象的に国産材を好まれる方が多いこともあり、国産を中心に提案させていただいてます。特にうちの主力であるまな板などのひのき製品には、紀伊山地のひのきにこだわって使うことが多いですね」

木の道具のお手入れ方法

基本を押さえたら、続いては長く付き合っていくためのお手入れ方法について伺います。まずはすべての道具に共通することを確認してから、塗装の違いによる扱い方の注意点を教えていただきました。

共通するお手入れ方法

洗う:

塗装・無塗装に関係なく、金属タワシなどの硬い素材で洗うのは避けましょう。木は表面が荒れるほど中に水が入りやすくなり、菌が繁殖する原因となります。

乾かす:

木の道具を乾かす際、食洗機にかけたり直射日光にあてたりすることは避けましょう。木が熱や乾燥によって変形したり、割れたりするおそれがあります。家のなかの乾燥している場所に置く程度であれば、問題ありません。洗った後は水分をしっかりと拭き取り、陰干ししていれば基本的に安心です。

また、同じ理由で電子レンジにかけることも避けましょう。

※食洗機や電子レンジについては、商品により対応可能なものもあります。詳しくはお持ちの道具の取扱説明書をご確認ください。

収納する:

高温になる場所を避け、直射日光のあたらない場所で保管しましょう。

<木の道具のお手入れ心得:全般>

・金属タワシなど、硬い素材では洗わない
・乾かす際は水分をしっかりと拭き取り、陰干しで
・収納は高温と直射日光を避ける

塗装・無塗装それぞれの、お手入れ方法の違い

塗装品

中川政七商店で販売する、無塗装・オイル塗装の木の道具例

塗装は主に、木材の表面に膜をはることで汚れを防いだり、木材の内部へ水分が浸入したりを防ぐといった、機能面を目的として施されます。最近はまな板や曲げわっぱのお弁当箱でも、カビが生えにくいよう塗装をされる品が多くなりました。

塗料には色の入ったものから、木材の色を活かして仕上げる透明の塗料までさまざまな種類があり、例えばクリア塗装の場合にはウレタンやラッカーなどが主に使用されます。

木の道具のメンテナンスには「布を使いオイルを塗る」といった方法もありますが、塗装された道具の場合は表面に膜をはっている状態のため、オイルでのお手入れは避けましょう。その上から何か手入れしようにも、塗装されているためお手入れの意味をなしません。つまり、塗装された道具は定期的なメンテナンスよりも、塗装がはがれないよう日々注意して扱うことのほうが、長持ちさせるうえでは大切となります。

塗装品を使用した際は、水拭きや、やわらかいスポンジでの水洗いで、塗膜がはがれないようお取り扱いください。

中西さん:

「食周りの道具などは塗装と聞くと安全性を気にされるお客様もいらっしゃるのですが、木工で使う塗料はとても安全性が高いものなので、心配いただく必要はありません。機能面でもカビや汚れを防げるなどお手入れしやすくなりますし、僕たちが道具を作る際は、積極的におすすめしています」

その他、塗装品へのアルコールスプレーの使用は基本的に厳禁。吹きかけると、多くのものは塗装がはがれてしまいます。なお、塗装された道具については基本的に修理は難しいものがほとんど。扱い方に注意し、長持ちさせるのが一番です。

中西さん:

「特にクリア塗装は、透明なので塗装がはがれたかどうかは見極められないんです。機能面が落ちてきて気づけるくらいですね。とはいえ、タワシやサンドペーパーでこするといったような、極端に強い力をかけなければ十分長く使っていただけます」

<木の道具のお手入れ心得:塗装品>

・洗う際はやわらかいスポンジで
・アルコールスプレーは使用しない
・再塗装などの修理は難しいため、長持ちさせることを主眼に置く

※塗装の種類によってはアルコールスプレーをかけても大丈夫なものもあります。

◆無塗装、オイル仕上げ品

機能面の利点から塗装仕上げの木の道具が増えている一方、おひつや寿司桶などはご飯の余分な水分を吸う必要があるため、今も無塗装で仕上げられることがほとんど。塗装をしていない分、カビや汚れがつかないよう取り扱いには注意が必要です。

中西さん:

「各商品の取扱説明書の注意点にもだいたいは書いてあると思いますが、無塗装品に関しては、洗ったあとは必ず水気を拭き取ってから保管してください。そうするだけで断然持ちがよくなります。乾拭きする際はふきんを使ってもいいし、キッチンペーパーでも大丈夫です」

またオイル仕上げの商品に関しては、油分によりツヤは増すものの、いわゆる塗装品と比べると撥水性能は高くなく、オイルがはげてしまいやすいそう。特に食卓道具に関しては水洗いがよく発生するため、洗った後はしっかりと水気をふき取ることや、その他定期的にオイルを塗り直すといったメンテナンスが必要です。

お手入れの際は180~240番くらいのサンドペーパーで木目に沿って表面をきれいに磨き、削りカスを取り除いてから、布などにオイルを含ませて道具全体を拭いて膜をはるようにします。

使用するオイルの種類は、食卓道具の場合は口に入れても大丈夫なもの(食用でも可)を使いましょう。なおオイルには不乾性(常温環境で固まらないもの。オリーブオイルやサラダ油など)と乾性(常温環境で固まるもの。エゴマ油やアマニ油など)があり、どちらもメンテナンスに使えます。ただし、不乾性の場合は厚く塗るとベタついてしまい、薄く塗ってもすぐに取れてしまうため、あまりおすすめではないようです。

反対に乾性油は常温環境で固まるため、撥水性も高まる他、しっかり塗りこめる利点もあって塗り直しの頻度も下がります。塗り直しのタイミングは、道具表面のツヤが失われてきたタイミングが一つの目安です。

中西さん:

「オイルメンテナンスの良さは、ツヤを取り戻せることと、撥水性を増すことの二つ。不乾性のオイルだと前者は問題なく対応できるのですが、固まらず水に流れやすいので、撥水性を期待したい場合はかなり高頻度での塗り直しが必要です。一方、乾性油は撥水効果も比較的長く持ちますし、常温環境で固まるためベタつきも少ないので、できればよく使い、洗うような食の道具は、乾性油を使ってのお手入れの方がおすすめです」

なお、無塗装品にもツヤを出すなどの目的でオイルを塗りこむことは可能ですが、その場合木材の持つ調湿機能は弱まるため、吸放湿が必要な道具では避けましょう。

<木の道具のお手入れ心得:無塗装、オイル仕上げ品>

・無塗装品はカビに注意。洗った後は必ず水分を拭き取り、陰干しでよく乾かす
・オイル仕上げの品は、表面にツヤがなくなってきたら乾性油を全体に塗り直す
・無塗装品をオイルコーティングすると、調湿機能が弱まるので注意
・オイルを塗る前にはサンドペーパーで木目に沿って表面をきれいに磨く

お手入れ実践:木べらのオイル塗りに挑戦

一通り習った後は、実践としてオイルでのメンテナンスに挑戦してみます。今回は中川政七商店で販売中の商品である「木べら」のメンテナンスを試みました。

用意するもの:

・布やキッチンペーパー(油分を吸い、塗れればOK)
・乾性油(今回は食用のエゴマ油を使用)
・サンドペーパー(180~240番程度の粗さのもの。今回は240番を使用)

◆お手入れするもの:

もともとは無塗装で仕上げられているこちらの木べら。そのまま使うと経年変化が楽しめるのですが、使っているうちに先端部分と柄の部分の色味が変わってきたので、試しにオイルメンテナンスをしてみました。

お手入れのステップ:

1. 道具の表面を木目に平行になるようにして、サンドペーパーでこする

中西さん:

「余計なものが表面についていると油を吸わないだけでなく、仕上がりのムラにも影響してしまうので、まずはサンドペーパーで表面を磨き、汚れを取ってください。木目に対して垂直にこすると道具が傷んでしまうので、磨く方向には注意してくださいね。結構ガシガシこすって大丈夫です」

2. 木の粉を拭き取る

中西さん:

「サンドペーパーで磨いた際に出た木の粉は、残っていると油を塗った際にムラの原因となります。乾拭きできれいに拭き取ってください」

3. 布に油を染み込ませ、道具の表面に油を塗っていく

4. 2日ほどおき、油が固まったら完成

中西さん:

「塗料が固まるまでは絶対に使わないようにしましょう。指で触って表面が乾いていても、完全に固まっていない場合もあるので、2日ほどはそのまま置いておきます。油ごとに乾くまでの時間に差はあるので、詳しくはインターネットや取扱説明書で確認してください」

特別編:まな板のお手入れ

最後に、ダイワ産業さんの主力製品であるまな板のお手入れについても特別に教えていただきました。

中西さん:

「インターネットなどで調べると、まな板に傷がいった場合のお手入れ方法としてサンドペーパーで磨いたり、かんなで削ったりするといった方法が掲載されているのですが、当社が中川政七商店さんと作っているような塗装されたまな板の場合は、表面を削ってしまうと塗装がはがれるため、そういったお手入れはNGです。塗装されているものについては木の食卓道具同様に、やわらかいスポンジなどで洗い、水気を拭き取ってからしっかり乾かして使ってください。包丁傷がついた場合も、しっかり洗っていれば菌はほとんど広がりません。

無塗装のまな板の場合は、かんなで表面を削ってお手入れする方法もありますが、なかなかハードルが高いと思います。またサンドペーパーでこするのは、表面が荒れて水を吸いやすくなってしまう可能性があるため、あまりおすすめしません。

他にも、薄いまな板を削るとさらに薄くなってしまい、切り心地が悪くなってしまうデメリットも。無塗装のまな板をお手入れするなら、専門の業者さんへ依頼してかんなで削ってもらうか、もしくは食卓道具同様にかんなやサンドペーパーをかけてからオイル仕上げをすれば、表面の荒れがおさまり水をはじきやすくなりますよ。

ただし、まな板はちゃんと扱えば何年も長持ちするので、傷が入っても気にせず使うのが一番だと思います」

お手入れや扱いに難しいイメージがあり、迎えたものの恐るおそる使っていた木の道具。今回教えていただいたのはいずれも簡単に対応できるものばかりで、木の道具を使うことに少し勇気が持てました。経年変化していくのも、木ならではの良さ。自分なりに育てながら、大事な道具として長く使っていけたらと思います。中西さん、ありがとうございました。


<関連商品>
中川政七商店ではダイワ産業さんと、以下の商品を作っています。

食洗機で洗えるひのきのまな板 小・大

文:谷尻純子
写真:奥山晴日

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