【イベントレポート】和歌山の箒職人「Broom Craft」のさんち語り&手箒づくりワークショップ開催 in「ものづくりから覗き見るディープな世界展」

先日、「さんち商店街」初のポップアップイベント「ものづくりから覗き見るディープな世界展」が開催されました。この企画は日本各地のものづくりや職人の技、ものづくりから見える各地の歴史や風土、文化に魅せられた学生たちが経営するセレクトショップ「アナザー・ジャパン」とのコラボレーションによって実現したものです。

会期中は、さんち商店街が取り扱う商品のなかから、学生セトラー(※)がセレクトした商品の販売をはじめ、つくり手を招いたワークショップや、特別ゲストとの「異業種コラボな夜咄会」と題したお茶会など、さまざまなイベントが行われました。

※店舗を経営する学生たちのこと

職人の奥深き世界に触れる

プレオープニングイベントとして開催されたのは「和歌山の箒職人『Broom Craft』のさんち語り&手箒づくりワークショップ」です。「Broom Craft」は、棕櫚(しゅろ)製品の一大生産地である和歌山県海南市において約70年の歴史をもつ深海産業が立ち上げた新ブランド。産地ならではの伝統を受け継ぎつつ、掃きやすさを追求した棕櫚箒やキッチンブラシなど、現代に寄り添う製品を数多く手がけています。

3人の息の合った掛け合いで笑い溢れるトークショーに

前半は、産地である和歌山県海南市の個性や魅力、産業の成り立ち、そして原材料である棕櫚についてなど、スライドを使った〝さんち語り〟からスタート。話し手は「Broom Craft」の専務取締役であり〝ほうき〟プロデューサーの深海耕司さんと職人の津村昂さん、同じく職人の深海由衣さん。3人による楽しいトークショーが繰り広げられました。

「みなさんは棕櫚ってどんな素材か、知っていますか?」と深海耕司さん。

すでに箒やブラシになった状態は知っているものの、その原材料の棕櫚となると……参加者の頭にはパッと思い浮かばない様子です。

「棕櫚とはヤシ科の植物。その昔、和歌山県には山間部一帯に棕櫚が自生する〝棕櫚山〟があって、その収穫を生業とする山師は、当時の公務員の月給がたった1日で稼げるほどだったといわれています」

和歌山には、今でも棕櫚が多く自生する山がある(写真:阿部高之)

「実際、箒やブラシなどに使用するのは棕櫚の皮の部分。木の幹を守るように巻き付いている皮を1枚1枚丁寧にはいで使うんです」と話す深海さんの言葉に、「皮をはぐ様子は筍の皮に似ていますよね」と津村さんは加えます。

「Broom Craft」専務取締役の深海耕司さん(右)と、棕櫚を手にもつ職人の津村昂さん

ちなみに「Broom Craft」の母体である深海産業は、全国各地で使用される緑化資材(街路樹などの植栽の幹に巻きつける棕櫚テープや、植物の成長を支える棕櫚縄など)の90%以上のシェアを誇っているとか。まさに棕櫚のスペシャリストです。

これが棕櫚。皮を輪転機にかけて繊維状にしていくとか

「ひとくちに棕櫚といっても品質はさまざまですが、良質な棕櫚はハリとコシがあって、かつ、しなやか。水に強く、汚れたら洗って使えるのも特徴です。だからこそ箒やたわし、ブラシなどに向いているんです」(津村さん)

自分だけのオリジナル手箒をつくる

さて、トークショーの後はワークショップに突入。今回は卓上用箒として開発された手箒の仕上げ作業を体験していただくことに。テーブルや棚、窓のサッシなどに溜まったゴミや埃をサッと掃き出してくれるコンパクトな手箒です。

「Broom Craft」の手箒は埃を舞い上げることなくサッと掃き出せるのが魅力

赤やピンク、オレンジ、紺、茶色など、色や質感の違う15種ほどのレザーのなかから、自分の好きなものを選び、「Broom Craft」さんが用意してくれた手箒本体の持ち手に巻いて、銅線で留める作業を行いました。

「えー、たくさんあって迷う……どのレザーにしようかな」
「きれいに巻きつけられるかしら」
「銅線で巻きつけるってどうやるの?」

そんな声が挙がりながらも、作業開始です。

1人1人丁寧に指導する深海さん。笑いも絶えません
縁の下の力持ち!優しく教えてくれた深海由衣さん

ただ巻きつけるだけなのに、これがなかなか難しい。銅線をきつく巻きつけなければレザーが浮いてしまい、かといって力を入れすぎればレザーがよれたり、導線が切れてしまったり……。自分で実際に手を動かしてみると、こうした作業の一つ一つに職人の知恵や技が詰まっているのだと、改めて実感します。

少し戸惑い気味で始まったワークショップですが、作業を進める間にみなさん、なんだか楽しそうな雰囲気に……。

「これはなんだろう……?」「どうやって使うの?」との声が

作業に使う工具にも興味津々の様子です。たとえば上記写真の参加者が手にしているのは、簡単にいえば、巻きつけた銅線をねじり上げてきれいに締めるための道具ですが、「これは棕櫚箒用の道具なんですか?」との質問に、深海さんから出たのは意外な回答でした。「いいえ、元々は電気工事用の工具なんです。いろいろ試してみたところ、これがもっとも銅線を巻くのに適していたので採用することに。職人それぞれが、自分の扱いやすいように改良しながら使っています」。

掃き心地の良さにびっくり!

参加者がつくった手箒。素敵な仕上がりに!

普段、聞くことのできないさまざまな話をうかがいながら、作業は着々と進み……遂に完成!参加者それぞれに個性の違う、世界に一つだけの手箒が完成しました。

自分でつくった手箒でなんとなく机の上を掃いてみると……正直、驚きました。というのも、棕櫚の繊維そのものは意外としっかりとして硬めなのに、ササッと掃いてみると柔らかくしなり、びっくりするほど掃き心地が良かったのです。テーブルの溝に入り込んだゴミまでしっかりと掃き出してくれました。ほかの参加者からも、

「棕櫚って意外と軽いんですね」
「家で使うのが楽しみです!」
「手箒のとんがった形状が、細かな場所にもフィットして使いやすそう」

さんち商店街 × アナザー・ジャパンコラボ展「ものづくりから覗き見るディープな世界」の楽しいプレオープニングイベントは、こうして無事にお開きとなりました。

・「Broom Craft」のページはこちら:https://www.nakagawa-masashichi.jp/shop/r/rbrand05/

文:葛山あかね

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