日本の森林と暮らしをつなぐ。広葉樹を突き詰める「木と暮らしの制作所」のものづくり

「森の国」。そんなふうに言われることもあるほど、豊かな山や森林に囲まれた日本列島。

離れたところから見る山々の風景も圧巻ですが、少し近づいて森に目をやると、一つひとつの木々にそれぞれ違った特徴や表情があることに気が付きます。特に、広葉樹の森ではそれが顕著で、バラエティ豊かな植生に驚かされるばかりです。

中川政七商店ではこのたび、そんな広葉樹の特徴を活かしたインテリア家具、「木端(こば)の椅子」「木端の花台」を作りました。

木端の椅子
木端の花台

作り手は、「森と木と暮らしをつなぐ」をコンセプトに掲げる「木と暮らしの制作所」さん。そのものづくりについて伺いました。

使われていない、個性豊かな飛騨の木々

「使えそうなものも多いのに、なぜ広葉樹の丸太はチップにしてしまうんだろう」

「木と暮らしの制作所」代表の阿部さんは、山で伐採された樹木の丸太が集まる「中間土場」を見た際にそんな疑問を持ったと言います。

木と暮らしの制作所 代表取締役 阿部貢三さん
地元の林業会社「奥飛騨開発」の「中間土場」。「木と暮らしの制作所」はこちらの敷地内に工房を構えて活動している

標高差が大きく、ブナ・クリ・クルミ・ナラ・サクラ・カエデなどをはじめとして、多種多様な広葉樹が育つ飛騨の森。

しかし、一部を除いて、これらの木が家具や建築のための用材として市場に流通することは滅多にありません。樹種が多く、仕分けが難しいことに加えて、雪の重みで曲がったり、太さがまばらになったりしやすく、決まった規格の木材を安定供給することが困難である、というのが大きな理由です。

伐採された広葉樹の多くは一括りに「雑」と仕分けされ、機械でこまかく刻まれて、燃料やキノコ培養向けの「チップ」として安価に取引きされることが通例となっています。

「奥飛騨開発」が広葉樹を伐採している森。険しい斜面に様々な樹種が生育する
山と山の間に丈夫なワイヤーを張り、そこに伐採した木を吊るして下ろしてくる。急斜面での伐採のために考えられた方法。かつては雪の斜面を使って木を下ろしており、冬にしか伐採ができなかったのだそう
丈夫で重いワイヤーを人が背負って山に登る必要があり、非常に過酷で体力を要する仕事

「山の職人さんたちに聞いてみると『知名度が無いから』といった答えが返ってくることが多くて。

結局、販売者やエンドユーザー側の基準をもとに山で仕分けがなされている。

なので僕らは逆に、山側で基準を決めようと。どう見せればそこに価値を出せるのか、やってみようということで、活動を始めました」

チップに加工されていく丸太たち

豊かで魅力ある森林のはずが、ものづくりには活かされず、結果として十分な対価が得られないために山主や林業従事者の負担ばかりが大きくなっている。「木と暮らしの制作所」では、そんな課題に向き合い、‟飛騨らしさ”を活かして広葉樹の活用を広めようとしています。

広葉樹の活かし方を突き詰めて‟飛騨だからこそ”できる家具を作る

「樹種が豊富であることと、変形木が多いこと。これをどう見せるかにこだわって、その先に‟飛騨の木だからこそ”という表情や魅力を出したいんです。

そうすると、たとえば北海道の木との違いとか、地域性も出てくる気がしています」

そう話す阿部さん。まずは自分たちの手の届く範囲の木を活用するための試行錯誤がはじまりました。

まだ使い道が定まらない木も保管しておいて、かっこよくできる方法を常に考えている

多様な表情を見せる広葉樹を活かすにはどんな技術が必要なのか、どんな見せ方をすれば“飛騨らしさ”が魅力として伝わるのか。

「変形木そのままだと少しワイルド過ぎるところに、切り方を工夫して直線的な要素を入れるとか。真っ直ぐに木が育つ地域では必要のない技術なんかもあって、突き詰めるとオリジナリティが出てきます」

複数の木材を接着して一枚の板にしたり、あいてしまった穴を木の粉をブレンドしたもので違和感なく埋めたり。端材を使い切る技術が蓄積されている
接合面を補強する「チギリ」に真鍮を用いてモダンな雰囲気に

広葉樹の伐採や仕分けの目利きに長けた地場の林業事業者とも連携しながら、それまでであればチップになっていた木材を積極的に買い取り、テーブルや椅子などの家具に加工して、その木だからこその表情を価値として伝える方法を模索し続けています。

「木と暮らしの制作所」の工場

広葉樹の佇まいを活かしたスツールとミニテーブル

今回、中川政七商店では、広葉樹の佇まいを活かした家具シリーズ「木端の椅子と花台」の制作を依頼。素材の魅力を発揮しつつも今の暮らしに馴染みやすい、そのちょうど良いバランスを追及しました。

毎回、特徴の異なる材で新たなプロダクトを作るため、その都度作り方を検討し、工夫する

「不定形な素材を用いて一つひとつの個性は大切に、ただし商品としては安定した定形のものを作るという、難しい挑戦でした。木々の個性をしっかり“良さ”として感じてもらえるように工夫を凝らしています」と阿部さん。

まるで飛騨の森から抜け出してきたような、表情豊かなスツールとミニテーブルに仕上がっています。

丸板の部分も、いくつかの端材をはぎ合わせて制作。それぞれの材をあえて斜めにカットしてはぎ合わせることで、違和感のない仕上がりを実現
脚の部分は樹皮そのもののような表情に

阿部さん達の活動を通じて、地場の人たちの意識にも少しずつ変化が見られ、最近では「こんな木が採れたけど、使えるんじゃないか?」と提案されることも出てきたのだとか。

広葉樹はチップという常識を覆し、飛騨の森ならではの個性あふれる木々を活用するという機運が産地内で高まっています。

「たとえば、大きくて太い木は大手のメーカーさんが。そうでないものは、ひとつの材料に時間かけることができる僕たちのような作り手が。さらには個人作家や趣味で家具作りをする人まで。

関わる人が増えると、もっと色々な木が色々な用途で使えます。そのために、山や森への理解が広がると嬉しいですね。

今、広葉樹の山や森に対して、地域の人たちの気持ちが離れてしまっています。『森と木と暮らしをつなげる』と掲げて活動していますが、山の価値を向上させて、もう一度そこをつなげたいと思っています」

飛騨の豊かな森から木をいただく。伐採した木々の下からは新しい芽が出て、何十年という大きなサイクルで森は循環していく

<取材協力>
木と暮らしの制作所

<関連商品>
「木端の椅子」
「木端の花台」

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文:白石雄太
写真:阿部高之

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