「東京手描友禅」を普段着に。精彩な筆致とデジタル捺染の融合が叶えた「友禅アートブラウス」【地産地匠アワード】

土地の風土や素材、産地や業界の課題に、真摯に向き合って生まれたプロダクト。

そこには、日本のものづくりの歴史を未来につなぐそれぞれの物語がつまっています。

「地産地匠アワード」は、地域に根ざすメーカーとデザイナーとともに、新たな「暮らしの道具」の可能性を考える試みです。

2026年の受賞プロダクトの中から、「友禅アートブラウス」をご紹介します。それぞれの背景にある物語をぜひお楽しみください。

友禅だけど着物じゃない

「東京手描友禅」なんて聞くと、少しハードルが高いと感じる人がいるかもしれません。

でも今回、地産地匠アワードを受賞したのは、友禅は友禅でも着物ではなく、洋服。デニムにさっと合わせたり、Tシャツの上にふわっと羽織ったり。カジュアルに着こなすことのできる日常着「友禅アートブラウス」です。

「僕が想像しているのは、たとえばファッションに興味のある若い子たちが、このブラウスを着て表参道や明治通りを楽しそうに歩いている姿。そんなふうに日本の伝統工芸が、日常にあたり前のように溶け込んでいる未来になればいいと思っているんです」

そう話すのはファッションブランド「カルマ・カリーナ」デザイナーであり、クリエイティブディレクターの北迫秀明さん。

舞台や映画の衣装デザインを手がける傍ら、日本のものづくり、なかでも衣服産業に興味を持ち、さまざまな産地を訪れたといいます。そんな北迫さんが各地で目の当たりにしたのは、失われつつある伝統工芸の姿だったとか。

フランスの「エスモード・パリ・インターナショナル」を卒業後、劇団四季や松竹の衣装デザインから、海外ブランドの企画・デザインを経て、2018年に自身のブランド「カルマ・カリーナ」を立ち上げる

「以前、京都で丹後ちりめんの工房を訪れたんです。着物を着る人が減り、生産量は軒並み縮小。職人もどんどん少なくなっているというお話を聞いて……。

同じようにほかの産地でも過疎化が進んだり、地場産業が成り立たなくなっていく現状を知りました。このままでは本当に日本の伝統工芸は失われてしまうのではないか、と。

ルイ・ヴィトンが家紋を見てモノグラムに応用したり、マルジェラが足袋のブーツを創作したりと、海外のハイブランドが日本の伝統工芸に着想を得て多彩な商品に昇華しているのに、日本ではそういった事例が見られないのはどうしてなんだろうって、ずっと思っていたんです。

日本の伝統工芸は海外ブランドと肩を並べるだけの力がある。それを活かすためには職人とデザイナーが二人三脚で取り組むことが必要なんじゃないか……ということを、はじめてお会いしたときに熱く語ったのを覚えています(笑)」

北迫さんが熱弁を振るったお相手は、ユキヤ株式会社の町田久美子さんと大野深雪さん。東京手描友禅を手がける染め職人のお二人です。

町田久美子さん。東京都工芸染色協同組合理事を務める伝統工芸士。日本の古き良き古典柄から、時流に合わせた現代柄まで「同じ人が描いたとは思えない」と言われるほど多彩な筆致の持ち主
大野深雪さん。東京都工芸染色協同組合正会員。美大で建築を学んでいたものの、京友禅作家の森口華弘さんの画集に衝撃を受けて、この道へ。百鬼夜行を題材にした作品や愛嬌のある妖怪柄がすこぶる人気

出会ったのは2年前の夏。東京都が主催する異業種交流会でのことでした。

「確かに熱かったですね(笑)。でも、東京手描友禅の未来については私たちも常に考えていること。自分たちがどういうものづくりをしていくか、どんなアプローチが必要なのかといったことは目下の課題でしたから、北迫さんの話には共感しかありませんでした」と町田さん。

「今はまだ着物を買ってくださる方はいるんですけど、正直な話、それだけでは立ち行かないところに来ているのかなとは思っていて。東京手描友禅を一つのブランドとして守り、残していくために、作家としてできることをしていかなければ」と大野さんも言います。

お二人はこれまでも、伝統工芸を受け継ぐ作家集団「そめもよう」を立ち上げ、着物を通じて“着られるアート”を提案したり、もっと多くの方に東京手描友禅に触れてほしいとプリントブランド「some-pri」を発足。作家が丁寧に染め上げた友禅を生地にプリントし、半衿や帯、スカーフ、小物などに展開するなど多様な活動に取り組んできました。

半幅帯はブランド「some-pri」の人気商品

同じ思いを持つ三人はすぐに新しいものづくりに向けて出発。その最中、北迫さんが地産地匠アワードの広告を見つけたと言います。「これだ!と思って、すぐさま二人に『出しませんか』と提案したんです。そうしたら二つ返事で『やりましょう』ということに」。

ここから、このプロジェクトは実用化に向けて本格的に動き出します。

一人一人違う、奥深き筆致の妙

そもそも東京手描友禅(東京友禅)とは京都の京友禅、金沢の加賀友禅と並ぶ日本三大友禅の一つです。江戸時代に、京都の友禅染が伝わったことが始まりとされています。華やかで雅な京友禅、美しく繊細な加賀友禅に対し、江戸の町人文化の中で独自に発展してきた東京友禅は都会的で、どこか“粋”。鮮やかな色彩やすっきりとした絵柄が特徴です。

下絵描き。青花液という露草花の汁を筆ににじませ、白生地に絵を描いていく
「何を描こうかしら……」と言いながら、サラサラと桜を描く大野さん

「ほかの産地と違うのは制作のほとんどを一人で手がけることでしょうか。図案から染色、仕上げに至るまで分業することなく、作家がすべてを行います」(大野さん)

東京友禅づくりは大きく分けて13工程。まずはどんなデザインにしようか、図案を考案します。それを元に白い生地に下絵を描いていく。「このとき型を使わず、手描きするのも東京友禅ならではかもしれません」

下絵を描いたら糸目を引きます。これは下絵に沿って糊をのせる作業で、色を挿したときにほかの部分の色と混ざらないようにするための工程です。

これが糸目引き
色を挿した絵の上に伏せ糊をする。「きちんとしないと地色が柄を潰すことになるので、伏せはとても重要」(町田さん)

「で、絵に色を挿したら、今塗った色がにじまないように伏せ糊をして、今度は生地を塗る地入れ(引染)へ」(町田さん)

伸子(しんし)という独特の道具を使って生地をピンと張り、大きな刷毛で染料などを均一に塗っていく。その後、染料を定着させるために生地を蒸して水洗い。さらに湯のしをして生地を伸ばしたら、最後に金箔や銀などの仕上げを施すなどして、ようやく1枚の反物が出来上がります。

細い竹棒の両端に針がついた伸子(しんし)という道具を使って、生地をピンと張る
フノリを溶いたものを塗り広げてから、染料を入れていく

一人の職人がすべての工程を行う東京手描友禅。だからこそ、個性的で多彩、豊かな表情が描かれる。東京手描友禅の魅力はまさに「そこにある」と北迫さんは言います。

「職人による手描きにはグラフィックなどでは決して真似できない深みがあるんです。筆のかすれ具合や繊細なタッチ、日本画ならではのぼかしや揺らぎといった美しさ。こうした筆致の豊かさを、きちんと伝えられるものづくりをしなければ、と考えたんです」

毎日着たくなる友禅のかたちとは?

目指したのは東京手描友禅が、日本の日常に溶け込む未来です。

「そのためには何を作ろうかという相談から始まりました。ワンピースやロングジレという案もあったんですけど」と話す北迫さんに、町田さんは「自分が着る身になったら袖は欲しいよねっていう話になって(笑)」、「お尻も隠したい……」(大野さん)といった意見も受けて、北迫さんは背面が長く、美しいフレアをもつブラウスをデザイン。

水色のブラウスに使用した原画

柄は北迫さんのブランドが基調としている花柄にすることで意見は一致。三人で花の図鑑を眺めながら「縦のラインが美しい花が欲しいよね」「和花だけでなく洋花も入れたい」「女性のシンボルでもあるミモザもいいなあ」など、あれやこれやと話し合い。

悩んだのが素材です。

「はじめは自然素材がいいんじゃないかという話になったんですけど、現代人はみんな忙しいですよね。忙しい人たちが丁寧に手入れするかね?という話になって、だったら誰もが気軽に着られて、お手入れも簡単な国産のポリエステルがいいんじゃないかと」(町田さん)

日常で使い倒せる軽快さを重視し、着物に似た質感で、柔らかく上品な雰囲気の生地を使うことになりました。

日本画の如き原画を再現するデジタル捺染

さて、大変だったのはここからです。

友禅アートブラウスは描かれた原画を、高精細のスキャンで取り込んでデータ化。そのデータを使ってデジタル捺染するという手法をとっています。デジタル捺染とはデジタルデータを元にしながら布に直接インクを吹き付けて模様を印刷する方法です。

黒色のブラウスに使用したのはこちらの原画

東京手描友禅の肝となる原画の美しさを、いかにデータ化するのか。ぼかしや陰影、グラデーションなど、繊細な筆致を再現するために何度も、繰り返しテストを重ねたといいます。

実際に使用する生地に捺染したところ。鮮やかに、筆致が再現されている

さらに面白いのは原画を配置した服の型紙ごとデジタル捺染する、という特殊な方法です。

「これなら着物の柄入れを踏襲した、柄の入れ方ができるんです。普通は図柄の入った生地に型紙をのせて裁断するんですけど、それだと意図しないところに図柄が出たり、見切れてしまうこともある。でもパターン上にあらかじめ図柄を配置してプリントすれば、職人の思い通りに柄を配置することができる」(北迫さん)

服の型紙に柄を配置している様子

それだけではありません。このやり方なら「再現性も非常に高い。簡単に言えば、型紙に添って生地を裁断したら、あとはそのまま縫製すればもう服になるんです」と北迫さん。

「本格的なアパレルは初めてでしたし、私たちはあくまでも着物メインの直線裁ちの人間なので、洋服のパターンとか、パーツがどこにどう組み合わうのかといったことは、まったく分からなくて。もう北迫さんに頼りきり(笑)」と大野さんと町田さんは口を揃えます。

「そこは任せていただいて(笑)。国内最高峰の縫製工場にご協力いただいて、細かなミシンステッチからボタンホールに至るまで、ディテールもかなりこだわって仕上げています」

カジュアルに友禅を愉しむ

地産地匠アワードの審査会でも、審査員がこぞってこのブラウスに腕を通し、その着心地を楽しんだそうです。

こちらもウズウズ……失礼して、実際に羽織ってみました。

まず軽い。さらさらとして柔らかな生地感は、思わず腕を通してみたくなるのも分かります。多様な世代や体型、男女問わず使えるワインサイズということもあり、ふんわり着られる心地良さ。かといって大きすぎるという印象はまったくありません。着物のように縦にストンと落ちるデザインゆえなのでしょうか。たっぷりとしたフレアは歩くたびに風に揺れる姿もまた美しい。

いつものジーンズに羽織ってカジュアルに着こなすこともできるし、綺麗目なパンツやスカートに合わせればオケージョナルなシーンにも活用できそうです。

「友禅には夏には夏の、秋なら秋の着こなし方や、季節ごとに着物と帯の組み合わせを変えてコーディネートするといった楽しみ方もあるんですよ。たとえば夏なら流水柄の着物に鮎をモチーフにした帯留めをつけるといったように。ちょっと粋でしょう?」(町田さん)

「もちろん最初から着物を着るのはハードルが高いかもしれないので、今回のブラウスみたいなアイテムを通して、友禅に少しでも興味を持っていただけたら。そしてもっと気軽に楽しんもらえたら嬉しいです」(大野さん)

伝統を残すためにハードを変える

「このプロジェクトを通してやりたかったのは新しい仕組みをつくること。今までは描いて染めたらもう終わり、みたいな感じだったんですが、一度つくれば、ずっと職人さんたちの収益になるようなシステムを作りたくて」

「ここ40年くらいの間で着物の生産量は8分の1程度に減っているというデータがあります。着物がなくなることはないでしょうけど、着物を作る技術が残せるかどうかは別問題。技術をどうやって残していくかと考えたとき、着物というハードウェアだけに頼っていてはダメだなと。

着物というハードウェアに東京手描友禅というソフトをインストールするのではなく、ハードウェア自体を変えていかないといけないと考えました」(北迫さん)

伝統工芸の技術を未来に残し、さらに発展させることができるようなハードを生み出すこと。
 
「友禅にはまだまだいろいろな表現の可能性がある。その一歩が今回の友禅アートブラウス。今後もシリーズ化していきたいと思っています」(北迫さん)

「今度はパンツをつくろうか、スカートもありかな……」(町田さん)

「セットアップにしてもいいかもね」(大野さん)
 
なんて楽しそうな……取材後も、次の商品に向けての話し合いが止まらない三人なのでした。
した。

文:葛山あかね
写真:田ノ岡宏明

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