瀬戸の職人と『宇宙兄弟』が手繰り寄せた、土人形の温もり

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夜空を見上げ、遥か遠くの宇宙に思いを馳せて挑戦し続ける。

途方もないロマンと、人間味あふれるドラマで多くの人を惹きつける『宇宙兄弟』の世界が、手のひらに収まるちいさな焼き物になりました。

『宇宙兄弟』の主人公、ムッタとヒビトをモデルとした「宇宙兄弟 瀬戸焼 兄弟土人形」。

ころりとしたフォルムと素朴な風合い、思わず手で触れて包み込みたくなるような佇まいです。しかしこの愛らしい形が完成するまでには、「作品の魅力をどう表現するか」をめぐる、対話と試行錯誤のドラマがありました。

宇宙兄弟 瀬戸焼 土人形

リアルを目指すことが正解なのか?

作り手は、愛知県瀬戸市の「瀬戸陶芸社」さん。焼き物の産地として名高い瀬戸の地で、70年以上にわたって陶製人形を手がけてきました。

「日本の人形の歴史を考えると、素朴なものから今の精密なフィギュアへと進化してきたわけですけれど……今回は完全に『逆走』したんですよね(笑)」

そう話すのは、瀬戸陶芸社の水野雄介さん。

水野雄介さん。
瀬戸陶芸社ではディレクション等を担当し、同じ瀬戸で約250年続く窯元「瀬戸本業窯」の後継者でもある

当初このプロジェクトは、既存のフィギュア商品をベースに「いかに忠実に、土で再現するか」というアプローチからスタートしました。制作を担当した原型師は、世界基準の精密なフィギュアを幾度も形作ってきた圧倒的な技術の持ち主。最初に出来上がった試作品も、焼き物とは思えないほどの精巧なクオリティに達していました。

しかし、精密さを追求するなかで浮かび上がってきたのは、「なぜあえて土で作るのか」という問いでした。

土で作ることの意義はどこにあるのだろうか。試行錯誤の中で制作チームは一度立ち止まり、作品の本質に立ち返って考えを巡らせました。

「宇宙兄弟」の魅力のひとつは、過酷な宇宙環境でのミッションや試練の合間に、登場人物たちの人間味あふれる温かさが垣間見える「緩急」。ムッタとヒビトの兄弟も、宇宙飛行士といういわばエリートでもありながら、遊び心と優しさに満ちた人柄。これまでの樹脂のフィギュアがキリッとした「急」の部分を表現してきたなら、今回の瀬戸焼では、手で作られた揺らぎを通して作品の「緩」の部分を届けられるのではないか。

そして、「もし瀬戸陶芸社が、宇宙飛行士をモチーフに郷土玩具(土人形)を作ったらどうなるか?」という、作り手側のクリエイティビティを前面に出した新しい解釈へと、大きく舵を切ることになったのです。

100年前の「ビスクドール」とつながった物語

「第一印象として、とても土人形感が増しました。ドイツのドレスデン地方で作られた素朴な『ビスクドール』を彷彿とさせるというか」

瀬戸の土人形らしさを意識して試作を進める中で、水野さんはこんな感想を抱きました。

型から出したばかりの土人形。土らしさをまとったやわらかなフォルムが印象的 

ビスクドールとは、釉薬をかけずに白い土をそのまま焼き上げ、簡素な絵付けだけで仕上げる素朴な人形のこと。約100年前、第一次世界大戦の影響で生産が滞ったドイツ製のビスクドールに代わり、瀬戸製のビスクドールが大ヒット。瀬戸の陶製人形が世界へ羽ばたき、‟セトノベルティ”として一世を風靡するきっかけのひとつになったのだとか。

そんな、瀬戸の人形作りを発展させた原点と、印象が重なり合ったのです。

かつて作られていた素朴なビスクドール
技術力も高まり、瀬戸ではさまざまな陶製人形が作られてきた

「日本の土人形の歴史を遡ると、古くは土偶などにはじまり、季節の節目や新年を寿ぐ干支飾りなど、いつも『願い』や『祈り』とともにありました」(水野さん)

大地からの恵みである土と人間の手仕事によって生まれる土人形には、地球と人間の結びつきや、天(宇宙)への思いが無意識的に感じられるものなのかもしれません。

瀬戸工芸社は神社仏閣に納める土鈴などの縁起物も多く手がけてきた

あえて土の質感や歪みを残すこと。それは、現代のものづくりに対する、小さな挑戦でもありました。

「精密になりすぎると、粘土で作られているという感覚が薄れてしまう。でも、ちょっと素朴な雰囲気に調律することで、『あ、これは土でできているんだ』と伝わる。土を感じるからこそ、その産地の風景や、手掛けた人の温もりが想像できると思うんです」(水野さん)

手にした人が「ほっとできる温かみ」や「目に見えない祈り」を感じられるものを届けたい。技術があるからこそ難しかった「削ぎ落とすこと」を幾度も重ね、土の本質へと遡っていきました。

手仕事のゆらぎを愛嬌に変えて

試作を重ねて方向性が定まれば、瀬戸陶芸社が誇る職人たちの手によって不思議な魅力をもった土人形がどんどんと生み出されていきます。

石膏の型。ここに「泥漿(でいしょう・原料となる粘土を水と混ぜ、泥状にしたもの)」を注ぎ込む
流し込む速度や、乾かす時間の調整に職人の経験と技が必要となる

瀬戸の土人形に使用されているのは、昭和初期に瀬戸で開発された「白雲(はくうん)」という粘土。白くて発色が良く、軽くて輸送時に割れにくいことが特徴。瀬戸の陶製人形が「セトノベルティ」として一世を風靡し、大量に輸出された際にも原材料として活躍しました。

タイミングを見計らって、石膏型を開いていく

型から出され、素焼きされた人形は絵付けの工程へ。

ムッタとヒビトの人間らしいぬくもりを表現するため、100年以上前の瀬戸焼人形を手本に、一つひとつ手作業で絵付けを施しました。

宇宙服に施された「N.MUTTA」の文字やシンボルマークなどの大切なポイントは、当初の精巧さを追求していた段階では均一なプリント(転写)で仕上げる予定でした。しかしここも、あえての手描きへと変更。一つひとつ人の手で描かれることで微かに生まれる「ゆらぎ」。完璧さではなく、その手仕事の揺らぎこそが、この人形の愛嬌となり、物語の持つ優しさを引き立てています。

精巧さを追求したところから、土らしさと「宇宙兄弟」らしさを考え抜きたどり着いた今回の土人形。最終的な仕上がりが決定するまでに担当者間で繰り返された数々の対話。メールだけでもその数は90通を超えていました。

一つの目標に向かって、異なる専門性を持った人たちが情熱を寄り添わせて壁を乗り越えていく。そのチームワークは、どこかJAXAやNASA、民間企業が力を合わせた物語ともリンクしているようでした。

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中川政七商店×宇宙兄弟

文:小俣荘子
写真:阿部高之

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