愛しの純喫茶〜福井編〜 喫茶 迦毘羅 (かびら)

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こんにちは。ライターのいつか床子です。
旅の途中でちょっと一息つきたい時、みなさんはどこに行きますか? 私が選ぶのは、老舗の喫茶店。お店の中だけ時間が止まったようなレトロな店内に、煙草がもくもく。懐かしのメニューと味のある店主が迎えてくれる純喫茶は密かな旅の楽しみです。

旅の途中で訪れた、思わず愛おしくなってしまう純喫茶を紹介する「愛しの純喫茶」。今回は、昭和36年から56年続いている「迦毘羅 (かびら) 」です。

名物カレーの意外な誕生秘話

福井駅西口から歩いて10分ほど、歓楽街「片町」にほど近い路地に「迦毘羅」はあります。戦前から軒を連ねていて、このあたりで残っているのは迦毘羅さんと裏手の福井銀行だけ。
しかし福井銀行は来年から建替工事が始まり、迦毘羅も来年の1月〜2月には近所への移転が決定。ここは市内に残された数少ない昭和の1ピースといえます。

こじんまりとした外観。隣には煙草屋さんがあり、店内でつながっています

店はレトロというより、都心の洗練されたバーのような印象。お話を伺ってみると、夜にはマスターの娘さんがママを務めるスナック「night迦毘羅」に切り替わり、昼とはまた違った顔を覗かせるそうです。

インテリアは統一され、とてもおしゃれな雰囲気
このレンガ塀、現在の建築法ではもう設計できないそうです
常連さんからのプレゼントが、あちこちで大切に飾られています

この店の看板メニューはカレーライス。

「迦毘羅」という店名はお釈迦の生まれた場所にちなんでいて、お釈迦様は「カレー」の名付け親だという説もあるのだと、おしゃべり好きのマスターがにこにこと教えてくれました。

マスターはとってもお茶目。紙ナプキンでスプーンを包む方法も実演してくれました

とはいえ、マスターは初めからカレーライスを売りにするつもりではなく、飲食店の定番メニューである「蕎麦」と「ラーメン」と「カレー」のどれかをメインにしようと考えていたそうです。しかし、福井県は蕎麦の本場なので競争率が高そう。ではラーメンはというと、

「ちょうどその年にインスタントラーメンが発売されてねえ。みんな食べてて、こりゃ敵わんと思って。『ならカレーや!』ってなもんでね」

そんな時代ならではの理由もあって、上阪したマスターは難波のカレー屋を隅から隅まで食べ歩きます。そのなかでも特においしいと感じた店で「給料も寝るところもいりませんから、まかないだけ食べさせてください!」と頼み込み、弟子になることに成功しました。

お客さんの対応からスパイスの調合から、1から全て学んだというマスター。「そのときのコック長がよかったんやね。おかげ様でいい店に飛び込めて。もうその店はないんやけどね」と当時を懐かしそうに振り返ります。

そんな下積みを経て出来上がった伝統ある迦毘羅のカレーは、県内外から熱烈なファンが訪れるほど大人気。黒っぽいルーはたんに辛いわけではなく、さまざまなスパイスが絡み合った奥深い味わいです。

訪問時には必ず食べたい「カビラカレー」のコーヒーセット (1100円・税込) 。スープも付いています

相棒のコーヒーミルで淹れる丁寧な一杯

また、「これ見てみる?」と言って店頭のショーケースを開けていそいそと見せてくれたのが、毎朝コーヒーを挽いているミル。大阪で購入してそのまま56年、一度も壊れることなくマスターと年を重ねてきた、相棒のような存在です。

染み込んだコーヒーの香りに、降り積もった時間を感じます

コーヒーは手間暇をかけて丁寧に淹れるネルドリップ形式。紙ではなく布 (ネル) のフィルターを使うことでより細かい泡が立ち、なめらかな口当たりになります。

「ネルドリップは蒸らしの技術によって香りもコクも色の具合も変わるんだよ。ここのはやっぱり違うね」と気さくに声をかけてくれたのは、隣のカウンターに座っていた常連さんでした。

コクのあるコーヒーを飲みながら、マスターと常連さんとのんびりおしゃべり。福井の歴史からマスターの健康方法まで心地良く聞き入っているうちに、もう何年もこの店に通ってきたような親しみを感じていました。

いや実際、通いたい‥‥!

「また来ます、絶対来ますからね!」と (一方的に) 強く約束して、泣く泣く店を後にしました。

喫茶 迦毘羅
福井県福井市順化1-1-14
TEL:0776-24-3885
営業時間:9:00〜24:00
※20:00からは「night迦毘羅」としてスナック営業
定休日:日曜日・祝日
駐車場:なし

文・写真 : いつか床子

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