全国から工芸好きが訪れる、器や生活雑貨を扱うセレクトショップ「objects」
エリア
こんにちは。ライターの小俣荘子です。
「さんち必訪の店」とは、産地のものや工芸品を扱い、地元に暮らす人が営むその土地の色を感じられるお店のこと。
必訪 (ひっぽう) はさんち編集部の造語です。産地を旅する中で、みなさんにぜひ訪れていただきたいお店を紹介していきます。
今回は島根県松江市にある、器と生活道具の店「objects (オブジェクツ) 」。
店内のモチーフは「船室」。商品が並ぶ棚まで手仕事の技
JR松江駅から歩くこと13分ほど。宍道湖 (しんじこ) へと流れ込む大橋川のほとりに位置します。
木枠に厚手のガラスがはめ込まれた懐かしい雰囲気の扉を押して中に入ると、「こんにちは、いらっしゃいませ」と店主の佐々木創(ささき・はじめ)さんと、陽子 (ようこ) さんご夫婦に暖かく迎えられます。軽やかな音楽が流れる店内をまずはゆっくり拝見することに。
埼玉県出身の佐々木夫妻。もともとはテーラーだったこの地で2011年にobjectsをオープンしました。現代の作り手の作品を中心に、陶器、ガラス、木工、織物といったさまざまな工芸品を扱っています。
商品を並べる棚は、島根で出会った家具屋さんに依頼して作った特注品。店内に馴染む素材とサイズ、作品の魅力を引き立てる照明が配置されています。商品が眺めやすく、実際に使うときのことをゆっくりとイメージしながらお気に入りを選ぶことができるように感じました。
店内の商品は、全て佐々木さんが全国をまわって見つけてきたもの。
各地に赴き、じかに相談してきたからこそ扱える
この地でお店を開く前に、7年ほどインターネット上でお店を営んでいた佐々木さん。当時から各地で「これは!」という作品を見つけては、窯元や工房へ赴きました。作品に惚れ込んだ思いを伝えるとともに取り扱いの相談をし、少しずつ作家さんとの関係を築いていったそうです。
民藝好き仲間やお客さまからの情報で展示会へ出かけ新たな作品に出会ったり、古道具の買い出しに出かけたりすることもあるのだとか。
その時々の巡り合わせで、異なる地域、作家さんの作品が並ぶので、店頭に並ぶ品物もその時々で変わります。何度も通いたくなりますね。器の他にも、カトラリーやかご、布製品なども。
店内では定期的に個展や企画展も開かれ、作家と交流しながら作品を購入する機会もあります。訪れたのはちょうど、谷由起子さん率いるHPEの作品展が終わったところでした。
店主の佐々木さんは、学生時代に旅行で訪れた沖縄で金城次郎さんの作品に衝撃を受け、それから民藝に興味を持つようになったそう。その後いだいた「いつか工藝に携わる仕事がしたい」という思いが現在につながっています。「こんなにカッコいい作品がある!作り手がいる!」ということを、広く伝えていきたいと考える佐々木さん。その思いが溢れるお店でした。
「重苦しい雰囲気にせず、むしろどこか軽やかさのある店。居心地の良い空間にしたかった」という佐々木さんの言葉の通り、ゆったりとリラックスして楽しめるので、ついつい長居してしまいました。
買い物をしてお店を後にすると、もうすっかり夕暮れどき。
「日本一の夕日」と謳われる松江の宍道湖周辺の夕暮れ。この日はあいにくの曇り空でしたが、橋の向こうの宍道湖に沈む太陽の名残で、湖だけでなく川にも空にも美しいブルーが広がっていました。
出雲には、「ばんじまして」という挨拶があります。夜が訪れる間際の美しく儚い時間に交わされる言葉。出雲の人々の特別な思い入れが詰まったこの言葉を思い出しながら、景色を味わいました。
島根県は、湯町窯や出西窯など、有名な窯元もあり、器好きが多く訪れる場所。objectsは、そんな器好きの人々からも好評で、今では全国から多くの方が訪れるようになったお店です。
景色を楽しみ、松江の町歩きを堪能する際に、ふらりと気軽に立ち寄れる場所。店内の居心地の良い雰囲気は、器に詳しくない方、これから器を集めていきたいと思っている初心者の方にも嬉しいもの。
笑顔で迎えてくれる佐々木夫妻の案内で、お気に入りの作家さんや作品にきっと出会えます。
objects
松江市東本町2-8
0852-67-2547
営業時間:11:00〜19:00
不定休
文・写真:小俣荘子