はじめて買う「出西窯」5つの楽しみ方。作り手と会話して選ぶ楽しさを、出雲で味わう

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青い器

島根県出雲市にある「出西窯 (しゅっさいがま) 」。

出雲大社へのお参りに向かう人たちで賑わうJR出雲市駅から車で約10分。赤瓦の屋根と木の看板が見えてきました。

看板
職人さんの姿

小川が流れる道の両脇に、ずらりと並んだ焼きものや道具類。作業中の職人さん。最近は「出西ブルー」の名でも知られる、出西窯に到着です。

もともと、工房を訪ねて気に入った器を作り手さんから直接買い求める「窯元めぐり」に憧れを持っていました。

一方で「どこに訪ねていったらいいのかな?」「いきなり行っていいのだろうか‥‥」と勝手がわからず尻込みし続けてはや幾年月。はじめの一歩を、この記事で踏み出したいと思います。

楽しみ方 1:窯元の背景に触れる。出西窯と民藝運動の関係とは

出西窯のある島根県一帯では、古くから生活用具としての焼き物が盛んに作られてきました。

そんな中で昭和初期に起こった柳宗悦ら率いる民藝運動は一帯のものづくりにも影響を与え、今も数々の窯元で、「民藝」の意志を受け継いだ器を見ることができます。

出西窯も民藝の影響を受けた窯元のひとつ。

出西窯の工房内にある、河井寛次郎の言葉
出西窯の工房内にある、河井寛次郎の言葉

昭和22年に、一帯を流れる斐伊川 (ひいかわ) 沿いの村に暮らす仲の良い5人の青年が、「自分たちで仕事を起こそう」と始めたのが出西窯の始まりだったそうです。

開窯してほどなく、当時民藝運動を率いていた河井寛次郎、濱田庄司、そして柳宗悦に会い、彼らの説く「民藝」に深く感銘を受けた5人。

「野の花のように素朴で、健康な美しい器、くらしの道具」をものづくりの指標に掲げ、今も民藝に根ざした器作りが続けられています。

楽しみ方 2:出西窯の器が生まれる全工程を、間近でじっくり見学

この日、出西窯に到着したのは9時ごろ。併設の展示販売場がオープンする時間には少し早かったのですが、すでに工房には職人さんたちが出入りし、仕事を始めている様子が伺えます。

「もう工房は動いているので、見学して大丈夫ですよ」と取材に応対くださった横木さんが教えてくれました。

出西窯では、定休日の火曜日と元日以外、一般の人が工房の中を自由に見学することができます。個人での見学であれば、事前の予約や訪問時の手続きも不要。

お米の倉庫を改築して作ったという工房。屋根には出雲地方特有の石州瓦。赤茶色が特徴的です
お米の倉庫を改築して作ったという工房。屋根には出雲地方特有の石州瓦。赤茶色が特徴的です
丁寧に案内が掲げられている工房入り口
丁寧に案内が掲げられている工房入り口

工房内には立ち入りを制限するロープや仕切りもなく、例えばろくろを回している職人さんのすぐ後ろまで近寄って、その仕事ぶりを間近で見ることもできます。

ろくろを回す後ろ姿

フラッシュや三脚利用など作業の妨げにならなければ、撮影も可能です。

出西窯では器の種類ごとに専門の職人がいます。一人ずつに1台のろくろがあり、成形から焼いて完成させるところまで、一貫して一人の担当が行うそうです。

一人一台のろくろ。使い勝手のいいように物が配置されています
一人一台のろくろ。使い勝手のいいように物が配置されています

お邪魔した日も、土を作っている人、ろくろを回す人、釉薬をかけている人‥‥と、人によって行っている作業が様々。見学に行く時期や時間帯に関係なく、器ができるまでのあらゆる工程を横断的に見学することができます。

原料を精製中
ろくろを使った成形
焼き上げ後に色を出しわけるためのひと手間
釉薬をつけているところ
釉薬をかける前準備中
箸置きの仕上げ処理中
粘土づくりの工程

楽しみ方 3:わからないこと、知りたいことは直接聞いてみる

さらに驚いたのが、いきなりやってきた私のような見学者を、職人さんたちが自然と受け入れてくれていること。通りがかれば「こんにちは」と和やかに声をかけてくれます。

どうしてこんなにオープンなのでしょうか、と横木さんに伺うと、「おかげさま」という言葉が返ってきました。

「併設の展示販売場には『無自性館 (むじしょうかん) 』という名前がついています。無自性には何事もおかげさまである、という意味があるんです。

自分たちの手柄ではなく、みなさんのおかげで今・ここがある、という精神を表しています。だからこうして来てくださる方に対しても、常にオープンにしてあるんです。

なかなか話しかけづらいと思いますが、みんな慣れているので聞きたいことがあったら気軽に声をかけていただいて大丈夫ですからね」

嬉しいことに、ただ「見る」だけでなく、見学していて気になったことは、職人さんにその場で尋ねてOK。

私も、今何の作業中ですか、この道具は何ですか、といろいろな方にお声がけしましたが、みなさん気さくに丁寧に教えてくれます。

「この道具はね‥‥」と、素朴な疑問にも丁寧に答えてくれます
「この道具はね‥‥」と、素朴な疑問にも丁寧に答えてくれます

楽しみ方 4:ここならではのものづくりに触れる

工房の中には本当に数え切れないほど様々な色かたちをした器があちこちに並んでいます。焼く前のもの、焼きあがって出荷を待つもの。その数は別注品なども合わせると数千種にのぼるそうです。

道路沿いで天日干しされている器たち
道路沿いで天日干しされている器たち
青い器

中でも「出西ブルー」という深みのある青い器が有名ですよね、と横木さんにお話しすると、

「出西ブルーと呼ばれる青い器は、電気窯、灯油窯、登り窯の中でも灯油窯が一番きれいに出せる色なんです」

と教えてくれました。さらに意外なお話も。

「実は“出西ブルー”って、私たち自身は一度も言ったことがないんですよ。もともとは黒い器がこの窯を代表する色だったんです。

大きな賞をいただいた作品が青い器で、その頃から次第にその呼び名が広まっていったようですね」

こんなお話を聞けるのも、作り手さんを直接訪ねる醍醐味です。

電気窯
電気窯
今も現役の登り窯
今も現役の登り窯
出西ブルーと呼ばれる美しい青色が生まれる灯油窯
出西ブルーと呼ばれる美しい青色が生まれる灯油窯
美しい黒色はかつての出西窯の代表色
美しい黒色はかつての出西窯の代表色
ずらりと並んだ釉薬
ずらりと並んだ釉薬

楽しみ方5:実際に使ってみる、暮らしの中に持ち帰る

工房をあちこち見て回って、所要時間は1時間ほど。ここからは併設の無自性館で、買い物を楽しむ時間です。

無自性館の外観
無自性館の外観

工房直営なので、この時期、この場所でしか買えない器も並びます。これも窯元めぐりの嬉しいところ。

2階には靴を脱いであがります
棚にたくさんの器
センスよくセレクトされた地域のお土産物も並びます
センスよくセレクトされた地域のお土産物も並びます

両手いっぱいにお土産を抱えて、タクシーを待つまでの間に戦利品を眺めながら少し休憩を。

日差しの差し込む休憩スペース
日差しの差し込む休憩スペース

無自性館の中には、出西窯の器でコーヒーをいただける休憩スペースがあります。ずらりと並んだマグカップを、どれにしようかと迷うのもまた楽しいひと時です。

マグカップがずらり

さっき目の前で作られていた器を実際に使ってみることができるという嬉しいサービス。地元・出雲の和菓子「生姜糖」とともにゆっくりとコーヒーを味わいながら、器の持ち心地や口当たりを楽しみます。

テーブルにご自由にどうぞと置いてある「生姜糖」と一緒にいただきます
テーブルにご自由にどうぞと置いてある「生姜糖」と一緒にいただきます

初めての窯元めぐり。ビギナーにも優しい出西窯でデビューできたのは幸運でした。まさに「おかげさま」。

午後は平日でも工房、無自性館ともに賑わうそうで、午前中のほうがゆったりと見学できておすすめだそうです。

窯元めぐりをやってみたい人、自分好みの器をじっくり探したい人、今度出雲・松江に行こうと思っている人、思い立ったらぜひ。

<取材協力>
出西窯
島根県出雲市斐川町出西3368
0853-72-0239
https://www.shussai.jp/

周りは広々と田園風景が広がります
周りは広々と田園風景が広がります

文・写真:尾島可奈子

こちらは、2017年11月13日の記事を再編集して掲載いたしました。2018年5月にオープンした、出西窯のうつわで楽しめるベーカリー&カフェ「ル コションドール出西」も合わせて訪ねたいですね。

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