愛しの純喫茶 〜堺編〜 喫茶ラック
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こんにちは。さんち編集部の井上麻那巳です。
旅の途中でちょっと一息つきたい時、みなさんはどこに行きますか?私が選ぶのは、どんな地方にも必ずある老舗の喫茶店。お店の中だけ時間が止まったようなレトロな店内に、煙草がもくもく。懐かしのメニューと味のある店主が迎えてくれる純喫茶は密かな旅の楽しみです。旅の途中で訪れた、思わず愛おしくなってしまう純喫茶を紹介する「愛しの純喫茶」。第2回目は住宅街にひっそりと佇む、堺の喫茶ラックです。
阪堺線の高須神社駅から歩いてすぐの住宅地。朝8時、完全にローカルな大阪南部の独特の雰囲気の中、営業しているのか不安になるほどうっすらと書かれた「ラック」の文字。ドアの小さな窓からは中の様子は見えないけれど、「営業中」と書かれた札を頼りに「えい」とドアを開ける。中にはいかにもご近所さんといったリラックスした雰囲気の2人連れと、間違いなく常連であろう年配の女性が店主のおかあさんとひっきりなしにおしゃべりをしていました。店主も彼女も朝からとっても元気。その方の食べ残している玉子トーストがおいしそうで、チラチラと横目で見ながら隣のテーブル席へ。
玉子トーストも気になったけれど、いちばんの人気メニューだという玉子サンドも見てみたくって、玉子サンドとホットコーヒーをオーダーしました。コーヒーはサイフォンで淹れているようで、ちょっと時間がかかりそう。ワクワクしながらお腹を空かせて待っていると、予想通り、隣の常連さんが話しかけてくれました。
「旅行中?どこから来たん?」
「東京からです。昨日から堺に泊まってます」
「はあ〜、ひとりで旅行?えらいねぇ。このあたりは古い建物やなんやも残っとっておもろいやろ。あっちのあたりにこんなんがあってな…」
一言返せば5倍の言葉が返ってくる。さすが大阪…!
「ここの玉子サンドはほんまにおいしいねんで。食べきれんかったら包んでくれるから遠慮なく言い」
そう、大阪のおばちゃんはみんなとってもやさしいのです。
ここで待ちに待ったコーヒーと玉子サンドの登場です。ふたり分かと戸惑うほどのボリュームで、湯気があがるほどホカホカ、見ただけでわかるほどフワフワ。はやる気持ちを抑えてまずはコーヒーを一口。次に息をふうふう吹きかけながら玉子サンドを食べると、バターとマヨネーズだけのシンプルでやさしい味が口に広がりました。身体の中からあたたまるのがわかります。
44年ほどこの場所でひとりで切り盛りされているというお店。ホカホカの玉子サンドを食べていると次々に常連さんが現れ、店内はますます賑やかになります。「いつものちょうだい」がこんなに似合う店があるなんて、というほど店主と常連さんの呼吸が合っていて、なんだか少しうらやましい気持ちになりました。
喫茶ラック
大阪府堺市堺区北旅籠町東2-1
072-229-7583
文・写真:井上麻那巳