益子の陶芸家に愛される移動式パン屋。濱田庄司由来の酵母を使う「泉’s Bakery」を探しに
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益子を代表する陶芸家、濱田庄司。彼から受け継いだものが、益子では至る所に広まっています。美食家としての一面もあり、好んで食したと言われる自家製ヨーグルトは、種となる菌が友人や職人に分けられていきました。
いま、その種菌を活用した天然酵母のパンが、益子の陶芸家に愛されています。作っているのは移動式のパン屋「泉’s Bakery」さんです。
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陶芸の町ならでは。泉さんが移動式ベーカリーを始めた理由
「泉’s Bakery」の店主は、笑顔の素敵な加守田泉(かもだ いずみ)さん。美大を卒業したのち、加守田章二を父に持つ陶芸家・加守田太郎さんと結婚し、埼玉から益子へと移住してきました。
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移動式にしたのは、窯元が多いから。職人が身近にいる泉さんだからこそ、移動式のパン屋さんが生まれたのかもしれません。基本的に木曜日だけ営業する移動式のパン屋になったのも、器の直売店をやっている友人のひと言がきっかけ。
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車から看板を出して、道端にお店を作っていく泉さん。お話を伺っていると、近くの窯の作家さんが「待ってました」とやってきました。職人さんはものを作り出すと工房にこもりきりになるので、なかにはパンを買いに来る時に「街に出る」と言う方も。
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この日訪れていたのはいずれも常連さん。単に「お客さん」というだけでなく、すっかり友人知人の間がら。泉さんに聞いてほしいことがあると顔を出す人もいて、話に花が咲いて移動時間が押してしまうなんてこともあるそうです。
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益子の人に愛される味の秘密は益子にあり
「泉’s Bakery」は今年で8年目。濱田家から受け継いだヨーグルト菌は、おそらく100年ほど生き続けているもので、そのためか活きが良くパワーがあり、発酵液は1日で完成します。
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パンは焼きあがった後も日が経つほどに熟成して、味の変化が楽しめます。
気温にもよりますが1~2日でフレッシュな風味、2~3日でコクが出て、3~4日で酸味を感じるそう。自分が好きだなと思ったところで冷凍してしまえば、そこで味が維持されるそうです。益子の町で脈々と受け継がれてきた、濱田庄司が愛したヨーグルトは、いまパンとなって職人や町の人を満たしていました。
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「せっかくなら益子らしいものを」という思いのもと、泉さんのパンには益子や栃木のものがふんだんに取り入れられています。
濱田庄司のヨーグルト菌をはじめ、栃木県で生産されている小麦「ゆめかおり」や、地元で採れた旬の野菜。秋はカボチャに栗、新ごぼう、春は菜の花などの地元で採れた旬の野菜たち。
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ワンボックスカーの周辺には、香ばしくてまろやかな香りが。ハード系の天然酵母パンだけれども、どこかまるっとした優しい印象のパンに囲まれて、パン好きの精神がムフフとかきたてられます。
道端で、店主におすすめを聞いたりしながら、どれにしようかと積まれたパンを選ぶ、この感じがたまりません。
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外側のカリっとした食感と、モチモチとした生地の噛み応え。具材も味付けもなるべくシンプルにしているということで、益子の素材の旨みを存分に楽しめる天然酵母と国産小麦のパンです。
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移動式のパン屋さんで、基本的に木曜日のみの営業で滅多に出会えないレアなお店なのに、TVが取材にきたり、陶器市で人気店になったりなど評判の高さが伺えます。
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泉さんにオススメのパンの食べ方を聞くと、さっそく明日実践したい美味しいひと工夫を教えてくれました。
「フライパンに油を敷かずに、パンをならべてフタをして。弱火で片面をちょっとあっためたら、一度パンを取りだして、フライパンにチーズをびやっとかけるんです。そこに裏返したパンをおきます。チーズに油があるので、こげないですよ~。2、3分で焼けるからトースターより早いし、ふわっと焼きあがります」
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陶芸家に愛されるパン屋さん「泉’s Bakery」。濱田家から受け継いだ酵母で焼かれたパンを食べて、益子では今日もまた新しい作品が生まれていきます。
取材協力
泉’s Bakery
栃木県芳賀郡益子町益子3529−3
0285-72-7907
※ 営業時間、販売場所の詳細はHPをご確認ください
HP / Facebook
文:田中佑実
写真:尾島可奈子、西木戸弓佳
*こちらは、2018年1月15日の記事を再編集して公開しました。