アノニマスな建築探訪 浄瑠璃寺
エリア
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こんにちは。ABOUTの佛願忠洋と申します。
ABOUTはインテリアデザインを基軸に、建築、会場構成、プロダクトデザインなど空間のデザインを手がけています。『アノニマスな建築探訪』と題して、
「風土的」
「無名の」
「自然発生的」
「土着的」
「田園的」
という5つのキーワードから構成されている建築を紹介する第3回。
今回も前回に引き続き、国宝である浄瑠璃寺 (じょうるりじ)。
平安時代を代表する、阿弥陀堂建築
所在地は京都府木津川市加茂町西小札場40。建立 永承2年 (1047年)、開基は義明上人 (ぎみょうしょうにん) である。
浄瑠璃寺は京都府と奈良県の県境に位置し、奈良市内からの方がアクセスはよい。平安時代の代表的な阿弥陀堂建築である。
平安中期に末法思想が世に広まり、人々は浄土教の教えから死後に極楽浄土に生まれ変わることを願って、方三間 (9坪) の阿弥陀堂や九体阿弥陀堂 (くたいあみだどう) などが数多く造られた。
藤原道長が治安2年 (1022年) に法成寺 (ほうじょうじ) に無量寿院を造立したのが九体阿弥陀堂の始まりとされている。極楽往生の仕方は生前の業により九段階あるとされ、九体の阿弥陀様を祀ることによってこれらすべての人が救われることを願った。
九体阿弥陀堂は30棟ほど造られたようだが、応仁の乱や内乱によって焼失し、現存するのは浄瑠璃寺の本堂だけである。
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奈良市内から浄瑠璃寺までは車で約30分ほど。駐車場に車を止め、土産物屋さんの前の道が参道である。道中にはお茶屋さん。お正月を終え参道の植木は刈り込まれていたが、南天の赤い実が綺麗に色づき、冬を感じさせてくれる。
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浄瑠璃寺の「包み込まれるような」感覚は、なぜか。
まず見えてくるのが山門。作りは非常に簡素であるが高さが抑えられているため、結界のような役割を果たしている。
山門をくぐると宝池だ。
三方が小高い丘に囲まれたコンパクトな境内で、右手に本堂、中央に宝池、左手に三重塔がある。
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宝池は、梵字 (ぼんじ) の阿字 (あじ) をかたどっていると言われ、東側には薬師如来坐像を安置する三重塔が、
対岸の西側には本尊の九体阿弥陀如来を安置する本堂が置かれている。
これは薬師如来を教主とする浄瑠璃浄土 (東方浄土) と、阿弥陀如来が住むとされる極楽浄土 (西方浄土) の世界を表現しており、参拝者はまず日出づる東方の三重塔前で薬師如来に現世の救済を願い、そこから日沈む西方の本堂を仰ぎ見て、理想世界である西方浄土への救済を願ったものである。
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堅苦しい説明はこのぐらいにして、まず浄瑠璃寺に身を置いて感じるのは安定感。
一番外側に見えるのは円形の空。その空を形どるのは大きな木々。そして一段下がった雑木林の木立、中央には宝池。高いところから何重にも重なったレイヤーのお陰で、包み込まれているような感覚を覚えるのである。
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また、全体の配置も秀逸で、単なる平面計画ではなく、階段や、緩やかな坂道、下り坂など高低差をつけることにより、
多様なシーンをコンパクトな敷地の中で創り上げている。
また庭の道も一本道ではなく選択肢が用意されているところも、浄土への道のりのように感じてならない。
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三重塔の前、そして本堂の前には、それぞれ一基ずつ石灯籠が置かれ、二つの石灯籠の延長線上には三重塔と本堂がちょうど中心に来るように結ばれる。
阿弥陀如来像 – 本堂 – 石灯籠 – 宝池に浮かぶ小島 – 石灯籠 – 三重塔の薬師如来像が一直線上に配置される。
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日本の寺社仏閣は目に見えない軸線が時として現れることがある。今回は石灯籠の穴からの眺めがそれである。
寒さも、なにも、すべてを忘れるほどの阿弥陀如来像に出会う
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本堂の中には横の受付側から入ることができる。参拝料を払い、靴を脱いで本堂の裏側の縁を回り本堂に入る。伺った日は宝池に氷が張るほどの寒空で、素足で本堂に入る頃には足の感覚はほぼなく、障子を開ける手はかじかみ、少しでも早く暖かい場所に行きたいと‥‥。
しかし本堂に入って九体阿弥陀如来像に対峙すると、足の感覚や、手のかじかみなどは忘れ、障子越しに入る間接光に薄暗く照らされた阿弥陀如来像の、一体一体全く違う表情や美しさに心を奪われてしまう。
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本堂の中は撮影禁止のためここで紹介することができないのが残念で仕方ないが、ぜひ冬の夕暮れ時に本堂の中に入ってみていただきたい。
障子越しの夕日に照らされた金色の阿弥陀如来像は、まさに極楽浄土にいるかのような錯覚を覚えてしまうはずだ。
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佛願 忠洋 ぶつがん ただひろ 空間デザイナー/ABOUT
1982年 大阪府生まれ。
ABOUTは前置詞で、関係や周囲、身の回りを表し、
副詞では、おおよそ、ほとんど、ほぼ、など余白を残した意味である。
私は関係性と余白のあり方を大切に、モノ創りを生業として、毎日ABOUTに生きています。
文・写真:佛願忠洋