まるで宝探し。好きなかごに出会える鹿児島の「創作竹芸とみなが」
エリア
自然の素材で編んだ「かご」。
素材をていねいに準備し、ひと目ひと目編まれたかごはとても魅力的です。かごは大切に手入れして使えば愛着もわき、またそれに応えるかのようにいい味を出してくれます。
「日本全国、かご編みめぐり」は、日本の津々浦々のかご産地を訪ね、そのかごが生まれた土地の風土や文化をご紹介していきます。
鹿児島に竹かごを訪ねます
JR鹿児島中央駅から北へ15分ほど歩いたところ。目の前に突如、吊り下がったかごが現れます。
立ち止まって建物を見上げると、お店の名前らしき文字。
中を覗いてみると…
見渡す限りのかご・かご・かご!
ここ「創作竹芸とみなが」は、鹿児島の竹細工を専門で扱うお店。
ご主人の富永容史 (とみなが・たかし) さんは、40年ほど前に「鹿児島の竹細工をなんとかせんといかん」とこのお店を始めたといいます。
実は鹿児島県、竹林面積が日本一。竹の種類は四、五十種類にのぼるそうです。豊富な資源を元に、県内では用途に合わせた様々な竹かごが生まれてきました。
使ってみたい、鹿児島のご当地かご
「この背の高いのは三段かご。一番上におにぎり、二番目におかず、三段目が深くなっていて、湯呑み茶碗や果物なんかを入れておくんです。現地着いたら広げて使うわけね」
「これは児童かご。子供に持たせるかごね」
かご好きにはたまらない、可愛らしくそれでいて機能的な佇まい。そして並んだ二つの児童かごの、色の違いにお気づきでしょうか。
「手前は使いだしてから40年経った児童かご。ものすごくきれいな飴色でしょう。染めたわけでもなんでもなく、持っていただけで自然にこうなっていくんです。
竹の良さはそこにあるんだよね。使うほどに飴色になって、数十年経っても丈夫で長持ち。通気性があるから食べ物を入れるのにも便利。まぁ、長持ちすぎて売れないのが困りものだけど」
そう笑う富永さんですが、お店を開いたのはこの「売れない」竹をなんとか世の中に届けたいとの思いがあったからでした。
職人のアドバイザーに
戦後、プラスチック製品の普及により、竹製品の需要は激減。
「鹿児島の竹細工も相当の職人が辞めました。海外から安い竹製品がどんどん入ってくるようになったのも追い打ちでしたね。
もちろん、何年も丈夫に使える竹製品がいいという人も少なからずいましたが、職人は作るプロで、お客さんがどんなものを欲しいか、なかなか気づけないわけです」
そこで富永さんは家業である竹の製材業を通じて、竹の納品先だった職人さん達に働きかけをしていくように。
「人気や流行を教えたり、製品の改善点を伝えたり。お客さんの声を元にアイディアを渡してね」
こうした働きかけを重ねるうちに、完成した製品を扱うお店を開くことに。今も職人さんたちは試作品ができると、「こんなん作ったけど売れんだろうか」と富永さんを訪ねてくるそうです。
宝探しのように好きなかごに出会う
店内に所狭しと並ぶ竹かごは、富永さんが鹿児島の職人さんと作ってきた、まさに試行錯誤の賜物。
「お店もあんまり小ぎれいにしない方がいいの。あちこち見て『あ、こんなかごがある!』と自分で好きなものを見つける方が楽しいからね」
「お客さんでも『おじちゃんの店宝探しをするのが楽しみ』と言ってくる人がいたりね」
そんな富永さんのお店には、土日ともなると県外からも竹かご好きのお客さんがやってくるそうです。人気製品は品切れしてしまうこともしばしば。
「オンラインショップを勧めてくれる人もあるけれど、品物がなかったらお客様に迷惑をかけるし、やっぱり現物を見てもらって、お客さんと会話をしながら納得して買っていただきたいからね」
中でも一番人気だというのがこちら。
「昔は『豆腐かご』と言ってね、お豆腐を買って入れる用に使われていたんです」
その名をサンドイッチかご。もう名前と見た目だけで、射抜かれてしましました。
鹿児島のご当地かごの中でも、作れる人が限られる難しいものだそう。
一体どんな風にこの愛らしいかごは生まれているのか。
次回、富永さんのご案内で、サンドイッチかごが生まれる現場を訪ねます。
<取材協力>
創作竹芸とみなが
鹿児島市鷹師1-6-16
099-257-6652
文・写真:尾島可奈子