マイルドヤンキーと民芸と。飛騨高山「やわい屋」に地元の若者が通う理由

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店主の朝倉さん

「さんち必訪の店」。

産地のものや工芸品を扱い、地元に暮らす人が営むその土地の色を感じられるお店のこと。

必訪 (ひっぽう) はさんち編集部の造語です。産地を旅する中で、みなさんにぜひ訪れていただきたいお店をご紹介していきます。

今回訪ねたのは、飛騨高山の「やわい屋」。民芸の器を中心とした生活道具のお店です。

やわい屋

築150年の古民家でご夫婦が暮らしながら営むお店は、2016年のオープン以来、他府県からもわざわざ人がやってくる人気店となっています。

高山市の中心からは離れた立地ながら、遠方から訪ねてくるお客さんも多いそう
高山市の中心からは離れた立地ながら、遠方から訪ねてくるお客さんも多いそう
ご夫婦で各地を回り、直接買い付けてきた器や道具が並びます
ご夫婦で各地を回り、直接買い付けてきた器や道具が並びます

前回はご主人の朝倉圭一さんに、扱うものの選び方や「やわい屋」というお店の名前に込めた想いを伺いました。

店主の朝倉さん
店主の朝倉さん

実は、このお店で器と対になっている魅力が、2階にあります。

階段

階段を上っていくと‥‥

秘密の書斎のような空間が!

みっちりと本が詰まった書棚
みっちりと本が詰まった書棚
テーブルの奥には‥‥
テーブルの奥には‥‥
こんなスペースも!思わず寝っ転がりたくなります‥‥
こんなスペースも!思わず寝っ転がりたくなります‥‥

お店の説明の代わりに、古本屋?

「1階のお店を始めた翌年にこの屋根裏を改装して、古本屋も始めたんです。

それまではこの町に、個人経営の古本屋さんって一軒もなかったんですよ。

でも、高山は家具産業が盛んで、若い人たちの移住も多い。彼らの知的な好奇心を満たせる場所が必要だろうと思って始めました」

本棚

「この町に、こういう本を読む人が増えたらいいな、そう思うものを選書して持ってきています。

そうすると、僕らがここでやりたいことが視覚化されて、言わなくても伝わるんじゃないかなと思ったんです」

一冊一冊に、奥さんの一言メモが挟んであります
一冊一冊に、奥さんの一言メモが挟んであります
いつ来ても発見があるように、本の入れ替えや配置換えもこまめにやっているそう
いつ来ても発見があるように、本の入れ替えや配置換えもこまめにやっているそう

高山生まれ、高山育ち。

27歳までサラリーマンをしていたという朝倉さんが、ここでやりたかったこととは一体何なのでしょう?

「僕はもともと、地元愛のないマイルドヤンキーだったんです」

マ、マイルドヤンキー?

地方都市や郊外に多い地元志向型の若者の姿として、数年前に流行語にもなりました。

一般的なイメージでは、身近な仲間や家族を大切にし、行動範囲は広くなく、週末は郊外のショッピングセンターなどで買い物を楽しむ。何より地元愛が強い。

それなのに、「地元愛のないマイルドヤンキー」が、なぜ土地に根ざした民芸店を開くことに?

10年後、彼らと同じ場所にいるために。

「お店を始めようと思ったのは、2011年。結婚した直後に震災がありました。

高山市内の飲食店で働いていたんですが、震災がきっかけで一生続けられる仕事って何だろうと考えるようになって。

同級生の半分はだいたい自営業の息子です。僕はそのとき27歳で、飲み会があれば『やりたいことがあったけど、そろそろ実家を継がなきゃいけない』みたいな話を彼らから聞くんですね。

うちはサラリーマンの家庭で何も継ぐものがない。何でもできるのにやりたいことをやらずにとりあえず仕事をしているというのは、こいつらに失礼だと思ったんです。

このままサラリーマンを続けていたら、10年後、20年後に彼らが居る場所と、僕の居る場所はずいぶん変わる。たぶん、ゆくゆく彼らと話せなくなってくる。

それはあまりにもさみしいし、もったいないなと思って。

じゃあ、僕も自分で何かを商う道に進もうと思いました」

ヒントは当たり前の風景の中に

ものを商う。では何を扱おうか。

ヒントを求めて、有名なセレクトショップや雑貨店をあちこち見て回ったそうです。

「それでわかったのは、都会のお店と同じやり方ではこの町で必要とされないだろう、ということでした」

真冬には人の背丈ほど雪が積もる飛騨の町。都会とは人の流れも暮らし方も違います。

雪の日の様子。150センチほどの積雪になる時も
雪の日の様子。150センチほどの積雪になる時も

やるなら、ここでやる意味のあるお店にしなければ。でも何を、が見つからない。

「自分が何が好きで、何をいいと思うのか、その時は説明もできませんでした」

買い物はもっぱら他県のショッピングセンター。「地元には何もない」と本気で思っていたそうです。

答えを悶々と探す中で、「民芸」に出会いました。

「もともと人類学とか人の生活文化に興味があったので、思想としては知っていたんです。

でも、実際に各地で作られている手仕事の道具‥‥と考えた時に、『この町こそ、そういうものづくりの産地じゃないか!』って、やっと気が付いたんです」

良質な木材に恵まれ、古くから春慶塗や木版、家具などのものづくりが育まれてきた飛騨高山。

黄色が美しい飛騨を代表する伝統工芸、飛騨春慶塗
黄色が美しい飛騨を代表する伝統工芸、飛騨春慶塗
憧れの家具メーカーとしても人気の高い飛騨産業の家具
憧れの家具メーカーとしても人気の高い飛騨産業の家具
真工藝 木版手染めぬいぐるみ
木版文化を活かした真工藝のぬいぐるみも人気です

「子どもの頃から当たり前にあるから、木材がたくさん積んである風景とか、普通なんですね。自分たちにとってはかくれんぼをする場所であって」

例えば木を積んだ大きなトラックが次々に走っていく姿も、朝倉さんたちにとっては昔からの日常風景。

「そうした、土地に根ざした生活道具なら、このものづくりの町のお店に置くのにふさわしいかもしれない」

3年間嫌いにならなかったら一生の仕事にしようと決めて、「民芸」をキーワードに全国のお店や産地をまわったそうです。

それからは、土地土地の民芸品を自身の暮らしの中に持ち帰る日々。

ある日、変化が起こりました。

ボディーブローのような変化

「物ってやっぱり、すごいですよね。

僕ら夫婦は、当時はアパートに住んでいました。

いたって普通の賃貸住まいで、使っているテーブルセットもよくある量販型のもの。

各地から買って帰ってきた器を、その木目調のテーブルに置いたんですね。

そうしたら、急に今まで全く気づかなかったテーブルの傷が、目に付いたんです。きったないなぁって。それまでぜんぜん気にしなかったのに。

逆に、器ひとつテーブルに置いたことで『箸置きがあるといいな』とか、次は『花があるといいな』と思うようになって。

そういう小さい変化が、じわじわボディーブローのように効いてきたんです。

木目調じゃなく、本当に木で作られているテーブルが欲しいと、思うようになりました」

朝倉さんの中で、自分の好きなもの、いいと思うものがクリアになった瞬間でした。

いいと思う暮らしを、自分ごと化する

「民芸の器に触れたことで、改めてものづくり産地である飛騨を築いてきた先人に、敬意を感じるようにもなりました。

この土地には素晴らしいものがあると、やっと自分ごととして言えるようになったんです」

朝倉さんの「自分ごと」化は徹底しています。

飛騨に昔からある古民家を店舗兼住まいに決めたのも、不便さとも向き合いながら飛騨の暮らしを実践するため。暮らしと地続きのものの豊かさを、お客さんに感じてもらうためでした。

「このお店には、この町に暮らす人が子や孫の代まで使い続けたいと思ってもらえるようなものを置いています」

地元のガラス作家、安土草多 (あづち・そうた) さんのランプシェード
地元のガラス作家、安土草多 (あづち・そうた) さんのランプシェード
長崎のスリップウェア作家、小島鉄平さんの器
長崎のスリップウェア作家、小島鉄平さんの器

「それを、同級生や地元に暮らす20代、30代の世代が家族や友人への贈り物にと、買いに立ち寄ってくれるんです。

マイルドヤンキーなんて言葉をわざわざ持ち出さなくても、家族や仲間をとても大切にします。それは同級生と飲み会をした27歳のあの時から、僕も変わっていません。

ここで買われていった道具がいつか土地の栄養になって、この町の次の文化を作るかもしれない。

もしかしたらその使い手の中から、次に産地を支える作り手だって、出てくるかもしれません。

1か月で1000点売れたとしたら、1年で12000点、10年で1億点です。

そんな膨大な数がここで暮らす人たちの生活に入っていくんだと思ったら、これはすごくいい仕事だなと思ったんですよね」

やわい屋店主、朝倉圭一さん。

その肩書きはあくまで道具店と古本屋のオーナーですが、朝倉さんはものや本を通して、5年10年先、家族や友人たちと過ごす飛騨高山の暮らしを、自らの手で作ろうとしているようです。

<取材協力>
やわい屋
岐阜県高山市国府町宇津江1372-2
0577-77-9574
https://yawaiya.amebaownd.com/

文:尾島可奈子
写真:今井駿介、岩本恵美、尾島可奈子

各地の「さんち必訪の店」

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