唐津焼を知るならまずここへ。目利きが選んだうつわが買える店

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産地のものや工芸品を扱い、地元に暮らす人が営むその土地の色を感じられる、「さんち必訪の店」。

“必訪 (ひっぽう)” はさんち編集部の造語です。産地を旅する中で、みなさんにぜひ訪れていただきたいお店をご紹介していきます。

“三右衛門”から若手作家までさまざまな作品が揃う

JR唐津駅から徒歩3分。呉服町商店街のなかにある「一番館」は、陶器や磁器を扱う専門店。

肥前の陶芸家 “三右衛門” と呼ばれる唐津の中里太郎右衛門、有田の酒井田柿右衛門、今泉今右衛門の作品をはじめ、人気作家、若手作家などさまざまな作品が揃っています。

今回お話をうかがったのは一番館の店主、坂本直樹さん。焼き物店を経営しながらも、バルのオーナーや地域イベントの仕掛け人などさまざまな顔を持っています。

店主の坂本直樹さん

坂本さんのご実家はもともと唐津で布団屋さんを商っていましたが、ご両親の焼き物好きが高じて、1976年に「一番館」をオープンしました。

同じく焼き物が好きだった坂本さんは、大学卒業後、ギャラリーを運営する夢を叶えるため、インテリアショップに入社。10年間経験を積んだ後独立し、福岡で陶芸家・中里隆の作品をメインとしたショップをオープンしました。

しかし唐津と福岡を行き来するなかで、地元唐津の人たちからのラブコールを受け、次第に唐津に軸足を置くようになります。

使ううちになじんでいくのが唐津焼の良さ

福岡から完全に拠点を移し、「一番館」は現在、唐津の本店と東京店の2店舗。本店の1階は唐津焼を中心に陶芸作品や彫刻、絵画などさまざまな作品を販売し、2階のギャラリーでは企画展やイベントなどを開催しています。

「隆太窯」で有名な陶芸家・中里隆、太亀、花子、親子三人の作品を中心に、若手作家の作品も展示

店内の作品はぐい呑ひとつから坂本さんが窯元に赴き、選び抜いたものばかり。坂本さんが納得した作品しか置いていません。

唐津焼は骨董の世界では有名で、例えば400年前の作品は1000万円以上することも。しかし、一部のマニアの人だけではなく、もっと幅広い人たちに興味持ってもらいたいと坂本さんは言います。

「唐津焼の定義は一言で表すのが難しいのですが、使っていくうちに変化し、その人になじんでいく良さがあります。

時代が変わり、食文化やライフスタイルそのものが変化するなかで、唐津焼の持つ素材感をどう活かせるか。今の食卓にも合うような唐津焼も考えていきたいですね」

長年、陶芸家が生み出した作品と真剣に向き合い続けてきた坂本さん。その信頼関係があるからこそ、お客さんが求めているものを作り手にオーダーメイドできるのも大きな強みです。

お客さんの声を作り手にフィードバックするのも坂本さんの役割の一つ

九州の唐津から世界の唐津へ

唐津の「唐」は中国の唐の時代の名残から「大陸」を意味し、「津」は「港」を意味する言葉。つまり、唐津には“大陸にいくための開かれた港”という意味があるそう。

福岡空港から地下鉄で乗り換えなく行けるアクセスの良い観光地であるため、近年は海外からの観光客も増えています。

アジアの玄関口としての機能を生かし、九州各地の陶芸家ネットワークを広げ、唐津焼のルーツでもある韓国の陶芸家との交流もすすめている坂本さん。

今後は上海や台湾、香港などへも唐津焼を広めていきたいと考えているそうです。

「唐津のまちは派手さはないけど、なんとなくまた訪れたくなる、そんな場所。その方が長続きしていいんじゃないかな、と思います。

アクセスが良くて景色も良い上に、『唐津くんち』という伝統的なお祭りもある。唐津が誇る文化の一つとして、唐津焼も世界に発信できればと思っています」

唐津焼を通してまちと人をつなげる

坂本さんの活動は一番館の店主だけにとどまりません。その一つが、一番館のある中央商店街の空き店舗に2017年7月にオープンした「唐津ちょこバル」。

唐津焼の酒器とともに唐津の食や地酒を味わうことができるお店で、カウンターには週替わりで地元の陶芸家が立ち、作り手との交流も楽しむことができます。

陶芸家は若手からベテランまでさまざま。ときには “三右衛門”のひとり、十四代中里太郎右衛門先生がお客さんをもてなしたこともあったのだとか。

また唐津に約70ある窯元を訪ねる「唐津窯元ツーリズム」の実行委員長も兼任し、唐津焼を通して、唐津のまちそのものを楽しんでもらう仕掛けを考えています。

「私の親の時代は、狭い唐津のなかでパイの取り合いをしているような商売のスタイルだったので、わざわざよその窯元を紹介するなんてお客さんを減らすようなもんだ、という反応をされたこともありました。

しかし、私は求められれば窯元も紹介するし、作家やお店も紹介します。唐津全体が盛り上がり、唐津にくる方が増えることで、長い目で見れば一番館に来るお客さんも増えるわけですから」

使えば使うほどしっくりくる唐津焼のように、知れば知るほど訪れたくなる唐津のまち。話をうかがっていると、このまちははじめて訪れた時よりも、二度目、三度目の方がより楽しめるのかもしれません。

坂本さんはこれからも唐津焼を通して、一言では伝えきれない唐津の魅力を発信し続けます。

一番館
佐賀県唐津市呉服町1807
0955-73-0007
http://www.1bankan.com

文:石原藍
写真:菅井俊之

こちらは、2018年3月28日の記事を再編集して公開しました

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