土佐の呑んべえ御用達。午前11時開店の「葉牡丹」で乾杯!そして返杯!
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日本一お酒にお金を使うといわれる高知県。そんな“酒飲みの街”での「産地で晩酌」。足を運んだのは居酒屋「葉牡丹」だ。創業60年を超え、土佐の呑んべえが夜な夜な、いや明るいうちから足繁く通う地元の盛り場だ。
土佐の名産に希少な珍味。吸い込む時代と土佐酒の薫り
午前11時から開店しているというこのお店。「夕方は相撲を見に来た常連で混んでるから、取材は夜にきてね」と言われ夜に足を運んだのだが、店内は大賑わい。
焼き物、串物をメインに、鰹(かつお)はもちろん、ドロメやチャンバラ貝などの珍味や希少な鯨(くじら)など、高知ならではの肴が揃う。
高知では新鮮な生のかつおを皮付きの「銀皮造り」で食べることが多いのだそう。緑色のピリッと辛い「葉にんにく」との相性に目尻が下がる。
土佐鶴、司牡丹、酔鯨などの土佐の名酒に目移りしながら目に留まったのは、栗焼酎「ダバダ 火振」。関東ではあまり馴染みがないが、高知では一般的に飲まれるのだそう。
一合いただいたら日本酒に、なんて考えていたけど、美味しさあまってもう一合。あらもう一合。
内装から感じる時代の空気と、常連さんたちの笑い声も吸い込んでしみじみ感じる。「これはいいお酒を飲んでいるなぁ」
「葉牡丹」を支える、働くお母さんたち
「葉牡丹」でお酒を飲んでいると気づくのが、いい顔をして働くお母さんたち。何十年もここで働いている方もいる。
「高知の女性は男性よりもパワーがある」。この日お酒を交わした常連さんは話す。
「男性よりお酒を飲める方も多いよ。女性にお酒飲めるんですかって聞くとこう言うの。『しょうしょう(升+升)です』ってね。ははは!」。
「高知ではね、女性が表に出てくる文化があったんですよ。お母ちゃんが働いて、男は何してるかっていうと、よそで飲んで騒いでるんです。ぐあっはっは」。陽気に、豪快に話すのは、土佐の酒飲みを何十年も店に迎え入れてきた「葉牡丹」店主の吉本さん。
「飲食も板場くらいしか男がいなかった。うちも親父の言い出しっぺでおふくろが串カツ屋をはじめたんだけど、結局切り盛りしたのおふくろ。高知はね、女の人が働かないと成り立たない場所だったのよ(笑)。
でもね、実はそれが良いセールスのやり方でもあった。外で飲んで裏の情報をいち早く掴んで商いに生かす。それが男の仕事だったんですよ。まったく、どうしようもないねぇ!」
街は変われど、酒飲みは変わらず
「「葉牡丹」が開店した当時、この店が位置する堀詰という地区は、映画館やバス会社の待合室、競馬場、キャバレーなどが集まる地区だった。男衆が一杯引っ掛けるのに最高の場所だったというわけだ。「こどもがお父ちゃんに動物園に馬を見に行くぞと言われて行くと、競馬場だったってのはよくあった話ですよ(笑)」と吉本さん。
空襲の焼け残りの材木を寄せ集めてできたという、「葉牡丹」の建物。継ぎ接ぎで高さの合わない、少し歪で、しかし可愛らしい扉を見ながら、吉本さんは土佐という街についても話す。
「(土佐は)変わったけど、変わってないね。街も変わったし人は少なくなったというのはあるけど、大してうちは変わらん。みーんな呑んべえ!返杯って知ってる?あ、もう早速常連に教えてもらった?ぐあっはっは!」
高知には「返杯」というお酒の飲み方がある。お酒を注がれるとそれを飲み干し、「はい、返杯!」とグラスを渡しお酒を注ぎ返す。相手もまたそれを飲み干すというものだ。
返杯、返杯、また返杯。 土佐の“酒飲みの作法”もすっかり身につけ、そのままその常連たちと2軒目へと向かったのだった。
変わらない粋な店に、変わらない酒飲みたち。土佐に寄ったら是非ここの暖簾をくぐってほしい。
あぁ、いい夜だ。土佐の夜に、返杯!
<取材協力>
居酒屋 葉牡丹
〒780-0834 高知県高知市堺町2−21
088-872-1330
http://habotan.jp/
取材・文:和田拓也
写真:uehara mitsugu