80年間変わらぬ味でお客さんを迎える「おでん若葉」
エリア
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金沢に出かけるとなると、やっぱり北陸の新鮮なお魚が食べたい!と思うのですが、実は「おでん」も名物とのこと。
なんでも数年前、某テレビ番組で、当時のタウンページに記載されているおでん屋の数を人口で割ったところ、全国で石川県がもっとも多いと紹介されたのをきっかけに、「金沢おでん」として注目されるようになったそうです。
観光情報誌などによると、あっさり風味の出汁に、車麩やバイ貝、冬は香箱カニが名物だとか。
それは知らなんだ。ぜひとも味わってみたい。そんなわけで今回の「産地で晩酌」は金沢おでんをいただきます。
兼六園から15分。いわしのつみれが名物の「若葉」へ
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向かったのは昭和10年創業の老舗「おでん若葉」。兼六園から歩いて15分ほどの、繁華街から少し離れた商店街にあります。
暖簾をくぐると、ふわっといい香り。食べごろのおでんが出迎えてくれました。
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カウンターに座り、おでん鍋をのぞきながらなにを食べようかと考えるのが至福の時間。金沢おでん名物のバイ貝と、店主おすすめのいわしのつみれに、大根とフキをいただきました。

噛むほどにねっとりとした旨みのあるバイ貝、特製の白味噌をつけていただく大根。創業以来、継ぎ足して使う煮干しベースの出汁も、おでん種の旨みが加わり格別な味わいです。加えて、どれも大きくて食べ応え抜群。
「当たり前の大きさでやってますが、みなさんびっくりされますね」と言うのは、3代目の吉川政史さん。2代目のお父さんが作る自家製のつみれは、いわしと玉ねぎ、生姜、卵、片栗粉が入り、外はしっかり中はふわふわです。
「みなさん、つみれを食べにおいでになります。ほかの店は固いのが多いので、うちのを食べてイメージが変わったと言われますね」
口の中でほろほろ溶けていくのに、つみれ特有の骨の食感もちゃんと残っていて、確かに食べたことのないつみれです。いわしの脂の乗り具合でつなぎの分量を変えているそうで、「脂がのってるときは、中はトロトロ」なのだとか。

お客さんに声をかけながら、黙々と調理をする政史さんに、金沢おでんの特徴を聞いてみると、「急に“金沢おでん”なんて言われてねぇ」と苦笑。
あぁやっぱり。実はお店に伺う前、取材先で会う人ごとに「おでん」の話を聞いてみたところ、みなさん「なんだか急に騒ぎ出して」と同じような答え。人気店は地元の人が入れなくなってしまったり、「おでん」を出していなかった店まで出すようになったりしているそうです。
「自分らは“金沢おでん”としてやってるわけではないし、店々で味も全然違うと思いますよ。金沢おでんていうと車麩みたいに言われてますけど、うちは、いわしのつみれ、土手焼き、茶飯が名物で、あとはみなさんの好き好きですね。大根もフキも一年中ありますし、もう、ほんとにずっと変わらない、同じです」
突如訪れたブームにもスタイルを変えることなく、いつも通りの味でお客さんを迎える。特徴を見つけようとしたことがなんだか恥ずかしくなりました。
白味噌とたっぷりネギの土手焼きも
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土手焼きも定番メニューのようですが、これも決まりがあるわけでなく、お店によって様々だそう。若葉では、串に刺した豚バラを専用の鍋で茹で、白味噌とたっぷりのネギでいただきます。
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うまいっ!
豚の脂と味噌が絡み合って抜群の美味しさ。幸せ。いくらでも食べられそうです。煎茶で炊くという茶飯も滋味深く、おでんにぴったりの味わいです。
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こんなに話題になる前から、金沢おでんに注目していたのが作家の五木寛之さんです。
「金沢のおでんは独特である。冬場はコウバコというズワイ蟹の雌がうまい。香りのいい芹もよかった。(中略)ガメ湯からあがって、厳しい寒気のなかを<わか葉>に駆け込む気分は最高だった。」(五木寛之『小立野刑務所裏』より)
若葉は、一時期、金沢に暮らしていた五木さんがよく訪れていた店としても知られています。
「何年か前にも取材できたり、ひとりでふらりとおいでになりましたね。この味を懐かしんでくれてるみたいで」
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創業から80年以上、ずっと同じ場所で営業を続けてきた、おでん若葉。「お客さんが来たらすぐに出せるように」仕込みは朝9時すぎから。はじめてなのに懐かしいような、ほっとできる味を求めて、帰省したときには必ず来てくれるお客さん、家族4代続けて通っているお客さん、お鍋を持って買いに来るお客さん、金沢おでんを楽しみに来た観光客、今日も若葉は大勢のお客さんで賑わっています。
<取材協力>
おでん若葉
石川県金沢市石引2-7-11
076-231-1876
月曜日定休