わたしの一皿 山菜も焼き物もタイミング
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春は食いしん坊の季節だとか、苦味が旨いだとか言ったのは去年のこの時期のことでした(わたしの一皿 たまには失敗)。
実は今年はアジアへの買い付けで三月後半から四月末にかけてほぼ日本にいなかった。
つまり、桜が咲くタイミングから山菜が出回るタイミングまで、あっさりと春を逃したのです、ワタクシ。残念。
あ、申し遅れました。みんげい おくむらの奥村です。
そんなわけで、急いであわてて春を取り戻そうと必死なこのところ。
今日の素材は「こごみ」。
この時期、八百屋に行ってあのくるくるしたものが目に飛び込んでくると条件反射のように手にとってしまう。
今回はたまたま、たっぷりの天然物が手に入りまして、これはうれしい。
枯葉などがたくさん付いたこごみをじゃぶじゃぶ洗う。
茎の太さも、くるくるの大きさもバラバラで、見ていて、触っていて楽しいのは天然物だからか。
採るタイミングの違いなのか、それとも種類なのか、栽培のものはくるくるがもう少し小さいし、全体的に細い気がする。
手先でくるくるを感じ、ほどほどきれいになったら、食べやすいように長いものは切って、茹でる。
茹で加減は好みにすればよいけれど、新鮮なものは生で食べることができるくらいの山菜なのであんまり茹ですぎてへなへなにならないように気をつける。
茹であげて、粗熱をとったら、ごま和えにしていきます。
誰が考えたのかわからないが、ごま和えってのは美しい食べ物ですね。
ごまをすって、食材と和える時の楽しさ、美しさときたら。少しずつ食材にお化粧していく感じとでも言いましょうか。
そうそう、こごみはとても使いやすい食材で、和え物も良いし、油との相性も良いので天ぷらに、炒め物に、といろいろに使える。
山菜にしてはアクを感じないものなので、野趣が強すぎるものはちょっと、と言う人も大丈夫かもしれない。
こごみの美しく、深い緑を生かしたいと思い、今回はうつわを色から決めた。土っぽい色の飴釉のもの。
宮崎、三名窯(さんみょうがま)のものにした。色気というか、品というか、狙い通りです。実に良いじゃないですか。
ところで、焼き物王国九州にあって、宮崎はちょっと存在感が薄い。伝統の焼き物と呼ばれるものが少なく、知られていないからか。
ここ三名窯もちょっと変わった窯かもしれない。
窯主の松形恭知(まつかたきみとも)さんは、埼玉で教員生活をしながら時間を見つけて作陶をしていた。
話をうかがえば、焼き物への興味は学生時代から百貨店の美術画廊に通って焼き物をみていたほどだと言うので驚くしかない。
教員生活を早めに終え、ゆかりのあった宮崎に築窯。以来、宮崎で作陶を続ける。
伝統の窯ではないが、民藝先人たちの想いや意匠といったものが見て取れるものづくりをしている。
一般的に言って、工芸、特に職人の世界はスタートが早い方がよい。
そのキャリアを通して作れる数が多い方が良いからだ。早いうちにたくさん作って、身体にそれを染み込ませる。
それではスタートが遅くてはダメなのか、と言えばそんなことはない。
好きなものを見て、感じて、身体が動き出したタイミングがスタートでも良いのではないか。
松方さんのうつわはそれを強く感じさせてくれるものだ。
寒い冬を地中で耐え、滋味を蓄えた山菜と同じように、窯を始めるタイミングをじっくりとうかがい、いよいよ表に出て、のびのびとうつわづくりをする三名窯。
食材も、うつわも、つくづく出会いだな、と思うのです。
奥村 忍 おくむら しのぶ
世界中の民藝や手仕事の器やガラス、生活道具などのwebショップ
「みんげい おくむら」店主。月の2/3は産地へ出向き、作り手と向き合い、
選んだものを取り扱う。どこにでも行き、なんでも食べる。
お酒と音楽と本が大好物。
みんげい おくむら
http://www.mingei-okumura.com
文・写真:奥村 忍